第12話
「ねぇ、次私が同じ奴やるから変わって」
「………」
「ねぇ、武雄。聞いているの?」
「えっ?あ、ああ、いいぜ」
相変わらずスカートの丈が短いので見ていて気になった。
※
俺は千紗とゲームセンターでアルバイトが始まる20分前まで時間を潰した。
今は2人で佐波山中華店に向かって歩いていた。
「ねぇ、武雄」
千紗が歩きながら話しかけてきた。
俺も歩きながら話す。
「なんだよ?」
「アルバイト辛い?」
「そう見えるか?」
「私昨日手が空いて料理している時の武雄見たけど、なんか必死で辛そうに見えた」
「初めてなんだよ」
「何が?」
「自分以外の人に自分で作った料理を食べさせるのって」
「そうなんだ」
「しかもお客を満足させなきゃいけないってのもあるし、佐波山店長や渋谷さんのいう信用第一ってやつが理解できなくてな」
「そのうちわかるようになるよ」
「千紗は楽観的だな」
「マイナスに考えるの良くないよ。何事もポジティブに考えなきゃ。例えば武雄と今日ゲームセンターで会ってハイスコア逃したけど、武雄と楽しく過ごせたし良かったかなって」
「気を遣っているのか?」
「うん」
「そういう気配りも出来る奴なんだな千紗は」
「私結構人に気を遣うし」
「昨日手を触ったから痴漢だとか俺相手に騒いでてか?」
「意地悪だなぁ。もう忘れようよ、そのことは」
「わかったよ、店に着いたな」
「そうだね今日も頑張ろう。武雄、緊張とか不安にならないでリラックスしてね。約束だよ、それじゃあ私先に行くね」
千紗はそういって俺の肩をポンっと叩くと走って佐波山中華店の裏口に行った。
裏口に行くと異世界のゲートが開いていた。
今日は異世界の日ではないはずだ。
ゲートの近くに紙切れが落ちていた。
拾ってみると名刺のようだ。
長い名前が書いてある。
「英雄ププリス・ルドルフ・フォン、えーと、長い名前だなぁ」
読む必要もないので名刺をゴミ箱のある所に捨てた。
裏口から佐波山店長が出てきた。
「武雄君来てたアルか。今日もアルバイトよろしくアル」
「あの店長。異界のゲート開いているんですけど」
「今日は特別なお客様がいる日だから良いアル」
特別なお客? 一体誰なんだろう?
俺は疑問を持ったまま職場に入り、着替えた。
「武雄。今日さっそくメニューが入った。ミノタウロス炒めを作ってくれ。頼んだぜ」
渋谷さんが材料を持って来てそう言った。
ミノタウロスらしき肉とキクラゲとニンニクの芽をまな板の上に出された。
「渋谷さん今日は月曜日ですよ」
「もちろん知っているんだぜ」
「異世界のお客来ない日じゃないですか」
「今日は特別にお得意様の会員限定の料理の日なんだぜ」
会員制とかあるのか。
初めて聞いたぞそんなこと。
佐波山店長説明ガバガバ過ぎ。
「俺達のいる世界のお客は今日は来ないんですか?」
「ああ。明日の火曜日なら来るんだぜ」
また異世界のお客の為に調理するのか。
「これをどういう風に炒めるんですか?」
「俺の言う通りにやれば出来るんだぜ。ピリ辛炒めにするから忘れるなよ。それじゃやるんだぜ」
渋谷さんに言われた通りに最初はミノタウロスの肉を包丁で細切りにして、ニンニクの芽を細かく切り、キクラゲを適当に切る。
唐辛子を入れて塩胡椒を入れる。
鷹の爪も入れて熱したフライパンに切った具材を入れた。
「俺の頼んだメニューはまだか!?」
不意に大声が厨房の外側から聞えた。
そして厨房に剣を持った盗賊風の男が入って来た。
「お前か!出来ているのかぁぁぁ!?」
俺の方に近づいてきたので本能的に包丁を構えた。
「まだですうぅぅぅ!!」
「乱暴は駄目ですわ」
真日流ちゃんが俺の包丁を取り上げた。
「ここで異世界の人と戦うと異世界のお客様が怪我をしますわ」
「普通逆になるんじゃないですか?」
渋谷さんが盗賊風の男と話し込んでいる。
どうやらさっきの揉め事の仲裁をしているようだ。
真日流ちゃんが説明を続ける。
「ここでは異世界から来た人は普通の人より弱くなる魔法がかけられているですわ」
前に誰かに聞かされたことをもう一度聞いて思い出す。
そういえばそんな事言ってたな。
なんで大事なことを忘れていたんだ俺。
「渋谷さんが話していた青山元子っていう魔法使いの力ですか?」
「そうですわ。武雄さんは料理に集中して、お客様はなんとかしますから」
「は、はい」
俺はミノタウロス炒めの仕上げに取りかかった。
※
見てくれは悪いがなんとか形になった。
まだ盗賊風の男と渋谷さんの立ち話は残っていた。
俺は料理を皿にのせて、盗賊風の男の前に出した。
「ミノタウロス炒め出来ました」
「こっちによこせ」
盗賊風の男はミノタウロス炒めの皿を手に取って、剣をしまって取り出した箸で食べ始
めた。
「旨い。ミノタウロスの肉にしみ込んだ醤油と唐辛子のスパイスが味を引き立ててくれている。それにニンニクの芽とキクラゲもミノタウロスの肉に混ざって良い味になっているではないか」
盗賊風の男は俺の料理をそう賛美して食べ続けていた。
「お客様席で食べて下さい。お願いしますわ」
真日流ちゃんがそう言って、盗賊風の男を席の方に移動させた。
「何やってるの? 料理作り続けなさいよね」
千紗がそう言って、俺の手を引っ張る。
「お、おいっ。止めろって」
「あんたがルーズだからさっきのお客が厨房に入ってきたんでしょ。サボらないの」
「へいへい、わかったよ。千紗だってオーダー行ってこいよ」
「私は私でこう見えて忙しいの」
「わかりましたよ。忙しいんですね、千紗さん」
「そうよ、忙しいの」
俺は相手にするだけ無駄と思って渋谷さんのアドバイスで炒め物を作っていった。
※
店が閉店になると渋谷さんが缶コーヒーをくれた。
「今日もお疲れ様だぜ」
「今日異世界のお客が来る人は思いませんでした」
「明日って事言うの忘れてしまって武雄に説明するの忘れてたんだぜ」
おいおいしっかりしてくれよ渋谷さん。
「とりあえず日曜のあの時間は異世界からくる客だけ来るからそれだけ考えて働くんだぜ」
「確認のために聞きますけど、魔法使いがいるからゲートがあるんですよね?」
「ああ、そうだぜ。ゲートが開通したおかげで商売は繁盛しているんだぜ」
「異世界の時間以外は異世界の食材使っちゃ駄目なんですよね?」
「ああ、広めると大問題だぜ。気を付けるんだぜ」
「わかりました」
俺は缶コーヒーのタブを開けて、苦いコーヒーを飲んだ。
「相手がどんな人であれ、客は客なんだぜ」
「そうよ、武雄」
渋谷さんが話している時に千紗が制服で現れた。
似合っていて中身を除けば本屋で見た通りの可愛い女の子だが、俺への偏見をどうにかして欲しい。
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