第8話

 俺は赤色のオークの肉を持ってまな板のあるテーブルに載せて切る。

 でも異世界の食材を俺達の世界の食材と混ぜて料理するなんて変な気分になる。

 これって実際食べたら旨くなるんだろうか?

 後で味見してみるか。


「そのオークの肉は最初は硬いが後は柔らかいから力加減に気を付けるんだぜ」


「わかりました」


 オークの肉って最初は硬くて途中から柔らかくなるのか。

 しかし上手く料理できるだろうか?

 もし料理が失敗して客がクレームをつけてきたときはどうしよう?

 店に入った時の重騎士っぽい人は剣持ってたし、店で暴れたら殺されかねないかも。


「武雄。オークの肉は全部切れたのか?」


 渋谷さんが俺にそういって俺のまな板を覗き込む。


「あっ、はい。全部細目に切りました」


 うわぁ、タバコ臭いなぁ。


「それじゃそのオークの肉使って料理するから、今から俺の説明ちゃんと聞くんだぜ」


「このオークの肉で何を料理するんですか。というか中華料理にこんな肉入れて不味くならないんですか?」


「それは料理を作り終えて、試食してみればこの独特の味わいが解ると思うんだぜ」


「そんなに癖になる味なんですか?」


「じゃなきゃわざわざ異世界から足を運んでこないんだぜ」


 渋谷さんはまな板の上に細切られたピーマンと卵とほうれん草を並べた。


「武雄。この材料で何するかわかるか?」


 オークの肉とピーマンと卵とほうれん草で出来る料理か。

 たぶん、予想だと。


「オーク炒めですか?」


「当たりだぜ。さっそく作る手順を教えてやるんだぜ」


 渋谷さんの説明を聞いて俺はコンロに火をつけて中華鍋に油を入れた。

 オークの肉を最初に入れる。


「作り方が解ったなら後はその通りに作るんだぜ。客に出す料理ってことを忘れるんじゃないぜ」


 渋谷さんはそう言って自分が調理していた場所に戻った。

 お客に出す料理か。

 失敗したり、遅れたら騎士とかに斬られるんじゃないか?

 そう思うと手が震えた。

 命がけで作るしかない。

 俺は緊張しつつも中華鍋の中にあるオークの肉をスナップをきかせて回転させながら、中華鍋に火が入り、直径10センチほどの炎が鍋の上に舞い上がった。

 よし、しっかり肉が焼けた。

 これで歯ごたえは良くなっているはずだ。

 後はピーマンとほうれん草を入れて最後に卵を割ってかき混ぜるだけだ。

 説明された通りだ。

 落ち着け、落ち着いてやればちゃんと完成する。

 斬られずに済むんだ。

 一瞬スナップをきかせたのを誤り、コンロの中に一部の具材が入り込んでしまった。


「しまった!」


 思わず俺の失敗を俺自身が口にする。

 今の失敗で材料の一部が中華鍋から無くなってしまった。

 取り返せない失敗をした。

 緊張のせいだろう。


「くそっ!」


 やってしまったものは仕方ないがこれで量が少ないと客に言われればアウトだろう。

 佐波山店長と渋谷さんの言うお客様の信用とか信頼が台無しだ。


「武雄。そろそろ料理出来たのか?」


 渋谷さんがそう言って近づいてきた。


「は、はい。な、何とか完成しました」


 俺は中華鍋に入っているオークの肉と卵とピーマンとほうれん草の炒め物を皿に移した。


「おお、出来ている。お前料理の才能あるんだぜ」


 渋谷さんは感心して俺の作った料理の載った皿をウェイターの届ける方のテーブルに置いた。


「でも何か足りない気がするんだぜ。ボリュームか?」


 あ、やばい。食材ダメにしたことバレたかも。


「あら本当に美味しそうですわ。武雄さん料理の才能ありますわね」


 真日流ちゃんが現れて、俺の作ったオーク炒めの載った皿を持って運んで行く。

 バレずにすんだが、お客がボリューム不足とかクレームが来たらどうしよう?


「あんた料理いつから習ってるわけ?」


 千沙が皿を洗いながらこっちに顔を向けずに話す。


「いつからって、ええと」


「俺も気になるんだぜ。教えて欲しんだぜ」


「小学校5年生の頃からですよ。母が調理師免許持ってて、それで最初は興味本位で母の料理の真似事をして、中学に入った時には家庭科の調理部でクッキーとかそんな料理を始めてたら料理にハマって今までずっと続けてますね」


「ふーん、あんた変態っぽいけど料理の腕は天才っぽいかもね」


 千沙はそういって洗った皿を台の上に載せて振り向いた。


「変態っぽいじゃなくて普通だよ俺は」


「本屋にいる時は故意に私を見てニヤついている癖によく言うわね」


 千沙が近づいてそんなことを言ってきた。

 ムカつく性格だが、可愛い。


「次はピータンとスライムと豆腐のサラダだから早く作ってきて」


「お、おう」


 見とれている場合じゃないか。

 っていうかピータンにスライムの液体じみた肉を混ぜると美味しい訳?


「武雄。お前料理のセンスはナイスだぜ」


 渋谷さんは俺の肩にポンと手を置いてそんなことを言った。

 馴れ馴れしいが褒められて悪い気はしない。

 これからこの人達と仕事するのか。


「早く作らないとお客の信用無くすわよ」


「解ってるよ。作ればいいんだろう」


「作り方を教えるぜ。今度は前のより簡単だから楽だぜ」


 俺と渋谷さんはまな板の置いてある場所に戻り、千沙は客のいるテーブルに俺の作った料理を運んだ。



「ピータンと豆腐のサラダ出来たぞ」


 俺はウェイターの届けるテーブルに楽にできた料理を置いた。

 初日からきつかったぜ。

 次は異世界の客じゃなく俺のいる世界の客に料理を作ることになるのか。

 料理をほぼ毎日それをやるのか。

 緊張せずに作りたいけど無理だな。

 あーあ、疲れるな。

 貴重な休日をストレス発散に映画でも借りて楽しむとか、オンラインゲームで遊んで時間を楽しむしかないか。

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