第7話
俺は空になった岡持ちを持って裏口のドアを開ける。
「武雄君。遅かったアルね」
佐波山店長がドアを開けたら腕を組んで待っていた。
料理しなくていいんだろうか?
調理スタッフが足りているのかな?
「あ、すいません。なんかダンジョンでドラゴンに襲われて遅くなりました」
傍から見たらおかしな言い訳だよな、これって。
「そういうことなら仕方ないアル。着替えて厨房でオーダーされたメニューを料理してくるアル」
仕方ないで済むのかよ。いいんだ別にそれでも。
俺ドラゴンに襲われて死にかけたんですよ?
キレていいんじゃないだろうか?
いやいやクビになるから仕方ないか。
あーあ、俺アルバイトとか向かないんだよな。
前々からそう思ってたし、実際やってみて解った。
「それとお代はちゃんと持ってきたアルか?」
お代ってウェインさんが俺に渡した宝石の事だよな。
あんなんで本当に大丈夫か?
絶対怒られるな。
でもウェインさん前回この宝石で大丈夫って言ってたな。
とりあえず佐波山店長に渡しておくか。
「はい、なんか宝石みたいなもの渡されました」
「それをこっちによこすアル」
俺は言われた通りに宝石を渡す。
「ふむ、これは良い物が手に入ったアル。次の行商の商売の時に良い具材を貰えるアルね」
どうやら大丈夫なようだ。
「あの俺は次にどうすれば?」
「もちろん厨房に入って料理するアル。早く着替えるアルよ」
そう言った佐波山店長は厨房に戻っていったので、俺も遅れて怒られちゃうのは嫌なのでウェイター服に着替えた部屋に戻る。
出前はもうしなくていいのかな?
いやー死にかけだったな。
岡持ちは着替え室に行く途中の置いてあった場所に戻しておいた。
岡持ちの置いてある場所は目立たない上に邪魔にならない隅の方に置いた。
着替え室に入ると白の厨房服に着替えた。
これでようやく料理を任されるわけか、他人にお金を払って食べさせるのって初めてだから緊張するなぁ。
俺はそんなことを思いながらドアを開けて厨房に入った。
渋谷さんと目が合った。
「よう、出前おつかれさんだぜ」
「本当に異世界に通じているんですね。なら今ここにいるお客って本物の…」
「異世界から来た人だぜ」
俺が言い終わる前に渋谷さんがそう言う。
やっぱり今料理を食べている客はウェインさんみたいに異世界から来たんだろう。
常連とか普通にいそうだな。
厨房に戻る渋谷さんの後ろについて歩く。
厨房につくとまな板の上に料理に使う材料が並んでいた。
緑色の鱗の大き目の肉と赤色の豚肉に緑色のピーマン、あとは同じく緑色のニラが置いてある。
「武雄。さっそくだがドラゴンの肉と豚肉とピーマンとニラのドラゴン炒めを料理して欲しいんだぜ。3番テーブルのお客様から注文が入ったからすぐに取り掛かって欲しいんだぜ」
渋谷さんはそう言うと中華鍋が乗っているコンロをひねって火をつけた。
油をかけてジュージューと音を立てる。
「俺は他の客の料理に入るから手が離せないが、作り方は教えるぜ」
渋谷さんはそう言うとさっき指定したメニューの調理法を料理しながら口で説明した。
内容は炒め物の調理法だったので
そのくらいの料理なら俺でも出来そうだ。
「ドラゴンの肉はそこのテーブルに置いてあるからちょっと力を入れて切るんだぜ」
渋谷さんが指差した先にドラゴンのウロコが付いてある肉が見つかった。
鱗の色は違うがこれはさっきジェネレーションタワーにいた時と同じドラゴンの鱗だ。
俺はドラゴンの肉のあるところまで移動して、隣に置いてある中華包丁を持って切ることにした。
俺は今ドラゴンの肉を細切りにしている。
渋谷さんの言う通り硬めの肉なので力を入れて細切りにする。
緑色のピーマンも包丁で切って中の種を取り出して足元に置いてあるゴミ箱に捨てる、
赤色の豚肉と緑の鱗のドラゴンの肉を中華鍋に放り込む。
右手首のスナップをきかせて全体を炒める。
最後に緑色のピーマンとニラを中華鍋に入れて炒める。
中華鍋から大きな炎が出る。
野菜と肉が混ざり合っている所に調味料を入れる。
またスナップをかけて具材を炒める。
コンロの火を消して、具材を大皿に流し込む。
渋谷さんに言われた通り手順通りに調理してドラゴン炒めが出来上がる。
佐波山店長の緊張した空気とは違って緊張せずに料理が出来たのでやりやすかった。
「武雄。そろそろ料理出来たのかだぜ?」
渋谷さんが俺に声をかけた。
どうやらそちらの料理は完成してウェイトレスの真日流ちゃんに運んで行ってもらったようだ。
「はい、たった今ドラゴン炒めが出来ました」
「グッドタイミングだぜ。早く皿に移してウェイトレスに渡すんだぜ」
渋谷さんがそう言うと俺はもう一度調味料を加えて、出来上がったドラゴン炒めをウェイトレスのいる運ぶ机に置く。。
ウェイトレスの千紗に出来た料理メニューを運ばせた。
戻ってくると話しかけられた。
「おいしそうじゃないの。あんた料理の腕は天才っぽいわね」
どうやら料理人としては認められているようだ。
人としてはダメダメと思うと切ない。
「天才って訳じゃないよ。ただ渋谷さんが俺に作り方を教えてくれたからそれっぽいのが出来ただけだよ。それに炒め物はたまにやるし慣れているんだ」
「男の癖に女子力高いわね。変態だけど黙ってれば料理の出来るカッコいい奴ね」
「なぁ千紗」
「何?」
「異世界の客相手に料理を運んだり、異世界に行って出前をするのどう思う?」
「別になんとも思わないわよ。外国からお客が来たと思えば違和感無しでアルバイト出来るわ」
「最初来た時信じなかっただろう?」
「最初はね。でもあんただって説明されてあの裏口の穴みたら信じちゃうでしょ?」
「ああ、でも未だに信じられないよ。夢を見ている気分だ」
「半年も経てば違和感なく溶け込めるわよ。考えても仕方のない事でしょ?」
「それは確かにそうかもしれないが」
「あんまり喋っていると佐波山店長に叱られて給料10円くらい引かれるわよ」
千紗はそう言うと次の渋谷さんの調理したメニューを持って異世界の客のいるテーブルに運んでいく。
やっぱり異世界と現実が繋がっているのは確認できたけど、未だに信じられないんだよな。
あのドラゴンは巨大なリモコン操縦のおもちゃって訳じゃないし、炎だって本物の熱さを感じた。
いくら魔法使いが来て異世界に通じる穴を作ったからと言って、実際にそれを話して信じてくれる人が何人いるんだろうか?
いや、仮に話しても信じる人は頭の中がお花畑な人達だけだろう。
佐波山店長や渋谷さんの言う通り、俺みたいに体感しなければ解らないだろう。
ということは考えたくないが今テーブルに座っている客は全員コスプレ集団でなく異世界から来た人達ってことか?
こういう異世界の人に料理を作って食べさせることが毎日あるんだろうか?
俺は次の料理の下ごしらえをしている時に渋谷さんに聞いた。
「あの渋谷さん、異世界の人達が毎日この世界に来ているんですか?」
「武雄。今日は異世界から来た人ご来店の日曜の部だからだぜ。だから毎日って訳じゃないんだぜ」
「どうして異世界の人達がわざわざこの中華店に来れるんですか?」
「魔法使いのおかげっていったはずだぜ」
「日曜だけなんですか?異世界の穴が開いているのって?」
「そうみたいだぜ。ほらっ、このオークの肉を切って欲しいんだぜ」
渋谷さんに白い油の塊が目立つ表面が緑色の肉を手渡しされる。
「最初は炒め物から初めて後から煮物の手順で料理していくんだぜ」
ここは大人しく従っておくか。
異世界の人といっても客は客だし、お金払って作った料理食わせるわけだし、客と店の料理を渡して払うことの本質は同じか。
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