第2話
仕送り半分、この俺がアルバイト?しかも今まで未経験で苦学生の仲間入り?
世の中間違ってるぜ!
クソッ!証明写真と履歴書コンビニで撮って買って来なきゃならないなんて…屈辱だ。
明日にしよう、そうしよう。
俺は明日に履歴書と証明写真を撮ることにしてベッドに入る。
うまいんじゃ17巻を読む気にもなれずに台所に置きっぱなしのまま寝る。
※
「えーとこのあたりかな?」
俺は履歴書を持って佐波山中華店をスマホで検索して探している。
あれから2日間が過ぎた、時間はもう夜の8時過ぎだ。
いつもの俺なら夕食が食べ終わって家で借りてきたブルーレイで映画を見ている時間だ。
天気は朝から降った雨で降り終わったのが午後7時だから、すこし涼しい。
地面は雨水で滑りやすくなっているのでうっかり転ぶような間抜けなこともしたくない。
今日はアルバイト先の佐波山中華店を探している。
隣の駅という事だが電車賃を出すのが面倒になり、雨が止んだ時間の後で歩いてきた。
佐波山中華店の近くまで来るのに30分ほどかかった。
今俺は佐波山中華店のある商店街にいる。
午後8時過ぎだが人は相変わらず多い。
この場所には何度か来た覚えがあるが中華店なんてあっただろうか?
来た時は本屋かレンタルショップで映画のブルーレイとか借りた時に来たが、料理店は無く、喫茶店とジャンクフードショップのチェーン店くらいしか見た覚えがない。
いつも自分の料理以外は無関心に歩いているのが裏目に出たなっと後悔する。
こうなったらと端から端の店を見て歩くことにした。
目的地がマークされている地図が表示されたスマホを服のポケットに閉まって歩く。
それらしい店が見えてきたので、俺は店の看板を見た。
佐波山中華店っと書いてあるのでこの店で間違いない。
店はまだ営業しているらしく明かりが出ている。
閉店しているかと思ったけど、遅くまでやっている中華店なんだなっと思う。
アルバイトは親父の紹介だし、不採用はまずありえないだろう。
あーあ、俺も苦学生の仲間入りか。
一昨日の求人広告を鼻で笑った自分が懐かしいぜ。
信用とかお客様第ーとかいいながら働くって俺のイメージじゃないんだよな。
親父の事だから俺をウェイターとしてでなく調理師にして採用させるんだろうと思う。
まぁ、俺の料理の腕は人とは違って上手いからな、自慢じゃないが。
店のドアを開けようとすると閉店中と書かれた立て看板が出ている。
おいおい、まだやってるのにここのスタッフはこういうミスをするのかよ。
この店ってこれで大丈夫なのか?
最初からこれじゃあこの先この店でアルバイトするのが不安になるぜ。
俺は店のドアを開け、中を除くとそこで異様な集団がいた。
そしてそこで思考停止した。
銀色の鎧を付けた金髪の大男がテーブルで料理を食べている。
ファンタジー物に出て来そうな恰好をしたいかにも盗賊っぽいやつがテーブルで料理を食べている。
とんがり帽子に緑のローブを着込んだ魔法使いっぽい杖を持っている女が料理を食べている。
他にもゲームに出て来そうなファンタジー風な格好をした奴らがテーブルに座って料理を食べている。
俺は見なかったことにして店のドアを閉める。
そこでやっと思考が回った。
これは一体どういうことだろう? 何かのギャグか?
念のためもう一度ドアを開けて確認する。
やはりファンタジーに出て来そうな恰好をした奴らがテーブルで料理を食べている。
そこでドアを閉める。
冷静になって考えよう。
俺の視力は正常だし、思考回路もまともだ。
それに夢でもない、これは現実だ。
だとしたら俺の目撃したあの光景はなんなんだろう?
何故ファンタジーの格好をしている客が多いのか? というかそんな客オンリーなのか?
これはもしやコスプレと言うやつではないか?
そうだ間違いない、きっとコスプレだ。
でもなんでコスプレなんて中華店でしなければいけないんだ?
今日はハロウィンみたいな日でもないのにコスプレした客が大勢いる。
例えばこの店のルールがあってコスプレをしたらメニューの価格が割引きされるとかならどうだろうか?
そういうことなら納得がいく。
っというかこの店のウェイトレスに聞きにいけばいいじゃないか。
そうすれば何故ファンタジーの格好をした奴らがいるのか解るはずだ。
そもそも俺はアルバイトしに来ているんだ、いかなければ仕送り半分の餓死生活確定だ。
三度目だが、今度は動揺せずにウェイトレスの所まで行こう。
というかレジの前で待っていれば入店のアラームがなるから大丈夫だろう。
俺は店のドアを開けて一歩前に歩いた。
入店アラームが鳴るのが聞こえる。
ファンタジーな格好をしたやつらがアウェーな視線を俺に向ける。
なんなんだよ、俺が何したって言うんだよ。
ただ店に入っただけだろうが。
周りから声が聞こえる。
「なんだあいつ? こっちの世界の人間か?」
「この時間は禁止じゃないのか?」
「新しいアルバイトの奴じゃないの? でなきゃただの迷子よ」
「そんなことよりゴブリン肉のチンジャ―ロースうめー」
ウェイトレスの女の子が駆けつけてくる。
身長は157、8センチくらいだろうか、髪型は黒のミディアムロングでスカートの丈は膝にかかるくらいの長さで上品な顔立ちをしている。
高校生くらいの年にみえるロングブーツを履いた可愛い女の子だ。
結構タイプかもしれないな。
そのウェイトレスの女の子は俺にこう言った。
「すいませんお客様。今日は閉店ですわ」
そんなことを言われても今テーブルに座っているコスプレの客は料理を食べている。
説得力に欠ける言い方だ。
「何言ってるんですか?コスプレしている客がいるじゃないですか、営業してますよね?あはは、冗談きついなぁ」
「すいませんお客様、それでも今日はコスプレしたお客様たちの貸し切りですわ」
同じことを2度言われた。
「おい、ウェイトレスのねーちゃん。メニューはまだか?」
重たい鎧を着た重騎士みたいな男がこちらに声をかける。
ゲームとかに出てきそうな恰好しているな。
「申し訳ありませんがこの時間は特別なお客様たちしか営業してませんわ。平日は夕方4時まで開店しているのでその時間に来てほしいのですわ。それでは失礼しますわ」
ウェイトレスの女の子はそう言って客の方に走っていった。
俺はそのままレジの前に立ち尽くした。
あ、ヤバい。今日ここに面接に来ること言ってなかった。
どうしよう?とりあえず厨房まで歩いて行った方が良いか?
それともまたあの女の子が来るまでここで待とうか?
いやそんなに俺は我慢強くない。
あれをして呼び出そう。
そう思った俺はレジの前に置いてあるベルを押す。
さっきのウェイトレスの女の子がやってくる。
「お客様困りますわ。先ほども言ったように今日は特別なお客様しかメニューを出せないのですわ」
ウェイトレスの女の子は困った顔で俺にそう言った。
さっきも思ったがと美人で気品があるお金持ちのお嬢様みたいなオーラがある。
なんで働いているんだろう?
元お金持ちで今は苦学生とかか?
まあ、いいや。説明しないと。
「実は俺今日ここでアルバイトとしてやってきたんです。佐波山中華店の店長さんって今どこにいますか?」
「あら、そうでしたの。店長でしたら厨房にいますのでご案内しますわ」
俺はウェイトレスの女の子に案内されて厨房まで移動した。
厨房内は銀色のアルミ板が目立つ眩しい厨房だった。
「店長。アルバイト志望の方がきましたわ」
奥から身長178センチくらいのコック帽を被った大きな中年の男がやってくる。
この人が佐波山中華店の店長か…。
「忙しいのでそれでは失礼しますわ」
ウェイトレスの女の子はそう言うとメニューを持って客のいるテーブルへと去っていった。
「君が藤田さんとこの息子の武雄君アルか?」
佐波山中華店の店長がそう言うと俺はとりあえず話すことにした。
「はいそうです。親父から紹介されて来ました。これ履歴書です」
俺は佐波山中華店の店長に履歴書を渡した。
佐波山中華店の店長がコック帽を脱いだら七三のサラリーマンみたいな髪型だった。
「私は佐波山中華店の店長の佐波山山雄アル」
店名と同じでまんま名前が一緒かよ。
あーあ、自己顕示欲の強そうなとこに来ちゃったなー。
「君は料理の才能があると君のお父さんから聞かされているアル。本当アルか?」
才能ねぇ…そんなものあれば俺は今頃一流シュフでもやってますよ。
親父のやつ俺の事大げさに説明したな。
「いえ、ただ単に料理を作るのが好きなだけです。家でもスーパーで買った具材とかで料理しますし才能なんて知りません」
「その家の料理の中で中華料理は作ったことあるアルか?」
「チンジャ―ロースとマーボー豆腐に軽い炒め物なら何度か作ったことあります」
「ちょっと今から指定された材料で料理を作ってほしいアル」
「今からですか?」
「料理は殻付きエビとネギの醤油炒めアル。この服に着替えて厨房に来てほしいアル」
俺は白い制服を渡されて、佐波山店長と一緒に着替え室まで案内され、用意された厨房用の白い制服に着替えた。
いきなり料理か…てっきりウェイターから始めて調理実習してくるもんだと思ったぜ。
炒め物ならなんとか作れるし、戦力にはなるかも知れない。
あーあ、すっかり苦学生の立場に回っちゃったなー。
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