第10話その後の2人
この部屋はいつ来ても散らかっている。ゲームや服が散乱して、足の踏み場もないほどに。
それは今日も例外ではなく、事前に行くと言ってなかったとはいえ、流石に客を呼ぶときは片付けた方がいいんじゃないかと俺ですら思う。
でも嘉は「いつもは母さんがやってくれるんだけど、今日はたまたまね」と今日だけ特別のように言う。バレバレな嘘だ。
「あーお腹減った」
「いや、帰りにアック食べてきたでしょ」
「え、あれで足りるの?」
「胃袋底なしめ」
何かあったかなーと部屋を出て行った嘉を呆れつつ、足元の服を一箇所にまとめて座るスペースを確保した。
ベッドの上に無造作に置いてある自分専用枕を抱き抱え、スマホをいじる。
楕円形の形をしたこれは、枕というよりクッションだった。肌触りと柔らかさが気に入っている。
色も薄い水色で飽きもこない。嘉にしては良いセンスをしている。
「おにぎりゲット〜」
5個もおにぎりを乗せた皿を持って嘉が戻ってきた。
「まじでそれ食うの?1人で?」
「やっぱ檬架も食べる?」
「いらない」
きっぱりと断るとあっそと言い、大きな一口でおにぎりを食べ始める。
おばさんは相変わらず嘉に甘いな。
それとも、これが普通なんだろうか。
ぺろりと一つめを食べ終えると、間をおかず次のおにぎりに手をつけて行く。
俺も少食ではないにしろ、人並みに食欲はあるほうだ。けど、こいつの胃は消化スピードが異様に早いのか、見た目に似合わず大食い。単なる食べ盛りなのかもしれないけど。
10分も経たぬうちに皿は空になり、さーてやるかーと首をコキコキと鳴らし始める。
運動でもやる気かと思ったら大間違い。
こいつはただの廃ゲーマーだ。
その辺にあるコントローラーを手に取り、テレビ画面で操作していく。
俺はそれをぼーっと眺めながら、こういうのっていつまで続くんだろうなんて、柄にもないことを考えていた。
高校生活も残すところあと1年。気が重くなる進路について否が応でも考えなくてはいけなくなる。
どうなるか分からないけど、お互い卒業して、またこうして何にもない日を過ごすことが出来るのかな。
きっと別々の進路を行く俺たちの関係は、変わらないのかな。
…センチメンタルな気分になった自分が恥ずかしくなって、顔を見られないように枕に顔を埋める。
とは言っても、隣のこいつには目の前のモンスターしか眼中にないだろうけど。
願わくば、こうして2人並ぶ未来がずっと続けばいい。
枕は、いつの間にか嘉の匂いになっていた。
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