第3話卒業式

もかひろもか

卒業式の後

両片思いだった2人のお話




自分がゲイと気づいたのも、初恋が幼馴染だったのも、その想いを諦めたのも、もう随分昔の話だというのに今更どうこうとか、考えられないと思っていたけど。



「うん、俺、嘉のことちゃんと好きだと思うよ」



高校を卒業するタイミングで突然発せられたその言葉を理解するのに、カップラーメンの麺が伸び切るくらいの時間が経ってしまった。

もう着ることもないだろう制服を脱ぐのがめんどくさくて、クラス会から帰って直行でゲームして。なんでかついてきた檬架をほったらかして「ああ、こいつともこれでやっと離れてちょうどいい距離感になれるんだろうな」とか、テレビ画面で走る髭おじさんを眺めながら考えていたんだから、まあ仕方ないだろ。


「………急にどうしたんだよ」


掠れそうになる声を必死に誤魔化して、至って普通の会話になるよう心がける。


「そのままの意味だよ」

「それがわかんないだよ」

「俺が嘉を好きってことだけなのに」

「…俺も友達として好きだよ」



まさかここにきてこんな嘘をつく羽目になるんて思ってもみなかった。

焦る心がコントローラーを握る指を痺れさせる。髭おじさんが、マグマに突っ込んで死んだ。


「友達として、ね…」


檬架は今何してるんだろう。もう顔を見ることも出来なくて、それが余計不安になるのに、やっぱりどうしても顔を見るのが怖い。

何考えてるんだ。

なんなんだ。


俺に、何を求めてるんだ。


生き返ったおじさんが高い声をあげながら飛び回り、キノコを踏んづけて行く。あと少しでゴール、あと少しで終わる。


「いい加減、こっち見ろよ」


画面がふっと黒くなり、突然のことに驚いてるうちに唇になにか柔らかいものが触れた。

目がチカチカする。

なんだこれ、なんだ、これ…。

手からコントローラーが落ちることすら気づかないまま、俺は少しも体を動かすことができなかった。



温かいそれは、しばらくすると離れた。

それでも顔の近くにある見慣れた綺麗な顔が離れることない。

その時やっと、俺は檬架にキスされたんだと理解した。



「…やっとこっち見た。

いつも遅いんだよ、嘉は。」



ずっとダメなことだっと思ってた。

抱いてはいけない感情だと。

友情のままにしなければいけないと。


それでも目で追うことだけはやめられなかった。

隣にいることくらいは許して欲しかった。

せめてこいつに恋人が出来るまでは、1番近い存在でありたかった。


そんな図々しい自分に何度も自己嫌悪してきた。

女々しく枕を濡らし続けた夜もあった。

こいつを考えて自身を慰めた日もあった。


諦めたなんて、嘘だった。




「俺はお前の気持ちに気付いてんのに、どうしてお前は俺の気持ちに気付いてくれないんだろうね、不公平だよこんなの」



ああ神様。

いつもは信じてないけれど、今この時だけは感謝させてください。


きっとこの先どんな不幸が待っていようと、俺は今この瞬間の幸せだけでどれだけでも耐えられる自信があります。



「で、なんか俺に言うことないの?」



顔から出る水分全部出した汚い顔で、大事な言葉を大事な人に言うなんて罰当たりもほどがあるけれど


もうそんなの関係ないくらい、俺は



俺はずっと



「檬架が好きだ、付き合ってください」









卒業式のずっと前から

両想いだった2人のお話

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