第126話 ヒラサカの扉 其ノ参
それから暫くの間車に乗せられていた……というか、かなりの時間だった。
私はいい加減しびれを切らす結果となり、伊勢崎に訊ねてみる。
「おい。一体どこまで行くんだ?」
「ああ……もうすぐ着くよ」
伊勢崎がそう返答してから確かに数分で、車は停車した。
「さぁ、出るんだ」
そう言って、伊勢崎は車から出る。私もそれに続こうとする。
「……古島様」
と、今までずっと黙っていた運転手の瀬葉がゆっくりと私に話しかけてきた。
「ああ……なんだ? 瀬葉さん?」
「……ここまで連れてきて申し訳ないのですが……十分にご注意を」
つらそうな顔でそう言う瀬葉。その表情はその言葉が冗談ではないことを裏付けていた。
「……どういうことだ? アナタもヒラサカの扉の事は知っているんだろう?」
「……いえ。私も詳しいことまでは……ただ、ヒラサカの扉の詳細は……お嬢様が義隆様の書斎から偶然見つけたものらしく……」
「何? 伊勢崎家の先代の?」
私は思わず驚いてしまう。そうなるとヒラサカの扉の信憑性は一気に高まることになる。
「……はい。ですから、その……どうか、十分にお気をつけて」
「……アナタは同行しないのか? 伊勢崎が危険かもしれないぞ?」
「ええ……最初私も同行すると申し上げたのですが……お嬢様がお許しになってくださらなかったのです……ですから、どうか……」
そう言って、頭を下げる瀬葉。老人の懇願の仕方からして嘘や冗談ではないようである。
「……わかった。だが、保証できない。私だって、私自身の事が大事だ」
「ええ……もちろんでございます。ああ……後、奥様に関してでございますが、現在お屋敷で丁重におもてなしをしております。ですから、どうかご心配なさらずに」
人様の細君を半ば誘拐しておいて、心配するなと言うのもすごいと思うが……私は其の言葉を信じることにした。
「若旦那? 来ないのか?」
と、伊勢崎が私を呼んでいる声がする。私は老人の方を一瞥すると、そのまま振り返らずに伊勢崎の方に歩いていく。
「……ああ。すまない」
「なんだ? 瀬葉になにか言われていたのか?」
「ああ。君のことを心配していたよ」
「ああ……そうか。まぁ、仕方ないさ。ヒラサカの扉の先に行くことができるのは伊勢崎の人間と、選ばれた人間だけ……そう。君のようにね」
怪しげな笑みを浮かべて伊勢崎はそう言う。どうにも私には先程の瀬葉老人の心配が的中してしまうのではないかと感じられて、とても不安になったのだった。
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