第114話 代理参り 其ノ弐
階段をあがるたびに、家全体に、ギシギシという嫌な音が響く。
それでも私は階段を登ることをやめなかった。そして、段々と二階が見えてきた。
階段を登りきり二階へたどり着く。見ると、目の前には扉がある。
「……この部屋の中か?」
私は少し戸惑ったが……そのまま扉を開けた。
部屋の中も一階と同様に埃っぽかった。そして、同様に殺風景だった。
部屋の中にあるのは、小さな机と、部屋の壁側にベッドがある。
ふと、机の上を見ると、またしても紙切れが置いてあることを私は気付く。あまり気乗りしなかったが……私は紙切れを拾い上げた。
紙切れを見ると、そこに書かれていたのは……人物の名前だった。しかし、私はその人物の名前に心当たりなどなかった。
そして、紙切れの下の方には住所が書かれている。ここの近くではあるが、この場所は……
「確か……墓所だったはずだが……」
それから、私は紙の裏にも何か書かれていることに気付く。紙切れを裏返す、その文字を見る。
「……『ベッドの上にあります』……?」
文字を見てから、私はベッドの方を見る。
と、今までなかったはずのベッドの上に質素ではあるが、何本かの花が、束になって置かれていた。
そして、花束の近くにはまたしても紙切れがあった。私は迷わずそれを拾い上げる。
「『私はこの家から動けません。ですから、私の代わりにあの人の眠る場所へ花を手向けて上げてください』……ああ、なるほど」
その紙切れを見て、私はようやく理解した。我が店の郵便受けになぜ、謎の手紙が入っていたのかを、そして、この家の主がなぜ私の目の前に現れず、紙切れがそれこそ、注文のように唐突に現れるのか、を。
「……わかった。では、行ってくる」
私はそう言ってから花束と、住所が書かれて紙切れを手にして部屋を出る。
そのまま階段を降りる。ふと、リビングを通り過ぎるときに、またしてもテーブルの上に紙切れが置いてあるのを見つける。
私は紙切れを取り上げた。文字が書かれている。
「『どうか、お願いします』……ああ。わかったよ」
私は紙切れを机の上に置き、今度こそ、廊下の歩いて玄関から外に出た。玄関の扉を閉め、家をあとにしようとした……その時だった。
と、足元に紙切れが落ちていた。私は思わずそれを広上げる。
「『あの人はお酒が好きだったので、もしよければお花と一緒にお酒も持っていってあげてください』……やれやれ。注文が多いことだ」
私は今一度古びた家を見る。そして、その家から動くことができない「依頼主」のことを考えながら店の方へと歩き出したのだった。
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