第113話 代理参り 其ノ壱
「……ここか?」
私は手にした手紙をもとに、今一度眼の前を見る。
……少し古びた家。しかし、手紙に書かれた住所は合っているようである。
しかし……どうにも私にとっては不審なことしかなかった。
そもそも、いつのまにかウチの郵便受けに手紙が入っていたのだ。
手紙が来たという話は佳乃からは聞かなかったし、佳乃も手紙が来たことを認識していなかった。
そして何より手紙には宛先も差出人も書いていないのである。それなのに、ウチの郵便受けに入っていた……ありえない話である。
手紙に書いてあったのは、見たことのない住所と、一言「来訪希望」の文字だけ。
おそらく、不要になった家財道具なんかを引き取ってほしいのだろうが……あまりにも不躾な方法である。
だが、仕方なく私も手紙を頼りに住所を捜索した。そして、最終的になんとか住所を見つけたわけである。
私はとりあえず家の主人に会うことが先決だと思い、家の扉の前に立つ。
ドアを叩いてみるが……反応はない。扉のノブに手をかけてみると……扉はゆっくりと開いた。
「……随分と不用心だな」
私は訝しく思いながらも、家の中に入っていく。家の中は薄暗く、なんだか埃っぽかった。
玄関の奥には廊下が続いている。
「すいませーん!」
大声で奥に向かって呼びかける。返事はない。代わりに廊下の奥からなにか音が聞こえる。
リリリリリ……この音は……
「電話?」
私は仕方なく廊下を歩いていく。しばらく歩くと居間らしき部屋が見えてきた。
そこも相変わらず埃っぽかった。机が中心にあり、椅子がある。しかし、それ以外の家財道具はほとんど見当たらない。ただ、部屋の隅の電話がけたたましく鳴り響いていた。
私は一瞬躊躇したが、電話を手にとった。少し大胆だと思ったが、もしかすると家の主人かと思ったからだ。
「はい?」
……しかし、電話に出た瞬間、ブツリと音が切れた。
私は仕方なく電話をもとの状態に戻す。それにしても一体主人はどこに行ったのだろうか……
「……ん?」
と、見ると、机の上に何か……紙切れのようなものが置かれている。先程まではなかったはずだが……
私は紙切れを手にしてみる。紙切れには……何か書いてあった。
「『二階へ』……?」
紙切れにはただ一言、それだけ書かれていた。
さて……いよいよいつも通りに、一筋縄ではいかない展開になってきたが……ここでここから帰宅すればいいのに、最期まで付き合ってしまうのが私の悪い癖である。
と、居間から見ると、今まで気づかなかったが、すぐ出た場所に階段があった。
「……最後まで付き合ってみるか」
我ながらどうしようもないと思ったが、私はそのまま二階へと足を進めたのだった。
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