2021年6月6日​──飲み水でも飲んじゃダメ



(…………どう言うことでしょうか??)



 今目の前で起こっている事態がうまく飲み込めません!?



「カティア〜!! 神域で遊びに行こうよ〜〜!!」



 この言葉を口にしているのは、黑の世界この世界の創世神でいらっしゃるフィーさんことフィルザスさんではありません。



「ふゅぅ?」



 僕の相棒兼守護獣でもあるクラウは今日も可愛く、首を傾げているだけ。今叫んだ相手を見ても動じていないのは神獣だからかもしれないか、元々の性格なのか。


 とりあえず、僕はそんなクラウを抱っこしながら……フィーさんじゃなくて、神霊オルファであるリージェカインさんのいきなりの登場に大きく息を吐いた。



「……リーさん。いきなり僕の部屋に来てなんて事言うんですか!?」


「いいじゃん、遊ぼうぜー?」



 今日はお勉強も差し入れなども特に作らない完全にお休みの日。それを知ってか知らずか、リーさんがお昼寝から起きた僕らの前にいきなり登場したわけです!?



「と言うか、どうやってここに来たんですか!?」


「術で」


「……そうですか。けど、なんで僕を? 他の神霊オルファさん達や聖獣さん達がいるんじゃ?」


「俺はカティアと遊びたいの!!」


「……はぁ」



 初対面の時に、リーさんの休眠状態からの復活。あと、フィーさんの神域での収穫祭での再会から……どうも、僕は彼に気に入られたようだ。あと、ピッツァじゃないけどご飯も気に入ってもらえたらしい。


 最後のは嬉しいけど、今日はご飯を作ってと言う意味じゃない感じだ。



「今日暇なんだろ? 神獣殿も連れて来ていいから遊びに行こうぜ?」


「そうは言いましても……。フィーさんには許可は?」


「ない! だから、こっそり!!」


「全然こっそりしてません!?」


「ふゅゆぅ??」



 単身? で神域に行ったら絶対怒られる!!


 フィーさんにもだけど、セヴィルさんにも!!


 ここは断る以外しませんとも!!



「……いいのかぁ? 暑いだろ?? 神域には水場が多いから水浴びで遊べるのに」


「……水浴び」



 したい。


 それは物凄くしたい!!


 今年は猛暑で、とにかく水風呂にも入るけど……基本温泉なお城だからあんまり水浴びが出来ないでいた。


 それに、クラウも暑さに参っているから今日はともかく、他の日は元気がないでいる日も多い。


 けど、魅力的なお誘いだろうが、フィーさん達に怒られるようなことはしたくありません!!



「ほら、行きたいだろ? 行こう……ぜ!!」


「ひゃぁ!?」


「ふゅゆぅう!?」



 リーさんに腕を掴まれた瞬間。


 僕はお城の部屋から瞬間移動させられてしまい、気がついたら金ピカ葉っぱが多い茂る聖樹の前の泉に立っていた。



「とーちゃく!!」


「ふゅぅ!?」


「なんでここに!?」



 水浴びって、聖樹水の泉でやっちゃっていいものなの!?


 僕がジタバタしていると、リーさんはふふんと鼻を鳴らしていた。……なんで?



「ここの水は常に水浴びしやすいんだ。だーいじょぶ、お前は飲まなきゃいいだけ。万が一飲んでも俺が取り出してやるから」


「……副作用的なのは?」


「なんとか……する!」


「いい笑顔で中途半端な事言わないでください!!」



 けれど、クラウを連れてお城に帰ることは出来ないので、仕方なく遊ぶことになった。


 水浴びと言うけれど、体は子供でも中身は大人だから靴と靴下を脱いで岸から足を浸けるだけにしました。


 それと、クラウは初体験だから手を掴んでバタ脚を練習させることに。



「ふーゅゆう!!」


「気持ちいいだろー?」



 クラウは初めての水浴びにご満悦。


 リーさんは透けそうな服装なのに、濡れても真っ白な白装束で器用に泳いでいる。


 水も滴るいい男とやらはこう言う人を言うのかな?


 カッコいいけど、ドキドキはしない。普段過ごしていて、リーさん並みに顔が良い人に慣れてきたからかな?



「……たしかに、冷たくて気持ちがいいですけど」



 このお水をたらふく飲んじゃったのがきっかけで、フィーさんに連れられて……エディオスさんもだけどセヴィルさんにも出会えた。


 ヴァスシードに帰ったファルミアさん達にも。短期間で色んな出会いがあったが……二度と元の世界に戻れなくても充実した日々を過ごしている。特技と仕事だった料理も出来てるし、ちょっと不便だけど概ね良好だ。


 だから、自然の中でこんなのんびり出来るのも久しぶり。



「気晴らしには、自然に帰る。たまにはいいだろ?」



 水から顔を出したリーさんは、にっと歯を見せるように笑い出した。



「そうですね?」



 ところで、さっきからクラウが静かだなと前を見たら……以前水場で自分で飲んでたように聖樹水を自分で飲んでいた!?



「おっと!」


「ク、クラウ!? 飲んじゃダメ…………じゃなかったっけ??」



 たしかフィーさんが、聖樹水は神獣なら飲んでもいいようなことを言ってた気がした。


 クラウが最後にごっくんと音を立てて飲み終えると……僕の補助もなく自分でバタ脚使って泉を泳ぎまくったのでした。



「まー。ただの神獣じゃないし、副作用はないと思う」


「そうだといいですけど……」



 そして、リーさんが満足するまで泳いだ後に。


 いきなり、フィーさんがご登場となり僕とクラウは免除されたが、リーさんにはいつものハリセン込みでキツイお説教をされてしまいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る