2018年3月14日──お返しに、ホワイトチョコのパンピザ

 








 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(ディシャス視点)









「はーい、次はこれを頑張ってこねようか?」

「が、がんばりゅ!」


 我は今日、人型で創世神の元へ訪れていた。

 理由はただ一つ。


(カティアに、何か渡したい!)


 いつもいつも、カティアは幼児の姿をしている我に様々な美味を馳走してくれる。

 だが、それだけではいけないと思ったのだ。

 一角のに相談したところ、『お返し、と言うものがいいかもしれないですね』と言われた。

 なので創世神にも相談したのだが、わざわざ本来の居住地である神域の小屋にあるチューボーを貸してくださった。

 そのお返しとなるものを、創世神と共に作ればいいとのことで。


「あー、やっぱりべちゃべちゃだね?」


 しかし、我は元々が聖獣でも竜種。

 人型になるなど、ほとんどない種族故にヒトの子の動き方を会得するのが難しい。

 歩く、と言う行為も練習するのに時間がかかったが、手と言うのはもっと細かい動きを求められた。

 カティアも幼いのに、やはりヒトの子だからなんでも出来る。

 何が言いたいかと言うと、創世神に言われたキジをこねる作業がものすごく難しかった。

 カティアならすぐにまとまっていくのに、我がやってみてもまったく変化がなかったのだ。


「うーん、僕がやればすぐだろうけど……ディシャス、それ以上大きくなれる?」

「む、むりでしゅ」


 試みたことはあるが、何故かこれ以上成長した姿にはなれない。

 創世神が我に術をかけても良いかもしれないが、一つ問題が。

 その姿を例えば主人達に合わせたら、セヴィルが黙っていないからだ。

 カティアの御名手である奴は、想像以上にカティアを好いている。理由は知らないのだが、男でも幼児の我にすら警戒を解くことがないくらいに。

 なので、もし仮に成人期の姿でカティアに近づけば何が起こるかわからない!


「んー、じゃその生地は僕が預かっておくから。四角パンで代用しようか?」

「パン?」

「前に君がマリウスからもらってた白くて柔らかいのとか。たーしか、保存かけて置いたのがどっかに……」


 白くてやわらかい?

 はて?と思ったが、カティア以外に馳走してもらったもの達を思い出した中に、ふわふわとやわらかくて甘酸っぱいのがあった。


(あのやわらかいのが、パンと言うのか?)


 創世神はチューボーのあちこちを探しまくっていたので、とりあえず気持ち悪い手だけでも洗おうと台を降りた。

 カティア以上に小さな幼児の姿なので、台と言うのはとても役に立つ。

 必要のないくらいに成長した姿にもなりたいが、先程も思った通りセヴィルが怖いので練習するだけにしよう。

 その台を手洗い場に持っていき、作る前に教えてもらったように手を差し伸べて水を出す。

 すぐにとれるかと思ったが、色々な材料をこねたので簡単には取れない。

 全部取れた頃には、創世神も目的のパンを見つけたようだ。


「おっ待たせ! これで作ってみようか?」


 持ってきたのは、白くもやわらかそうにも見えない茶色の四角い塊。

 あれも、どうやらパンらしいがうまそうに見えぬ。

 創世神は、それを刃物を使って薄く切り出す。切り口から見えたパンの内側は我の知っているものと同じように白かった。


「これを何枚か切っておけばいいから、次はプチカも切って」


 赤くて少し三角に近い木の実のようなものも、創世神は刃物で切っていく。

 我は刃物を使うのが危ない姿なのと、手を切ると大変だからとやらせてもらえない。

 なので、手を布で拭いてから台に乗って見るしか出来ない。


「うん。これでよし! じゃ、ディシャスにも手伝ってもらおうか?」


 我の前にも、切った材料やパンが置かれた。


「このパンの上に、少し砂糖と牛乳を混ぜたバターを塗るよー」


 見てて、と言って創世神は白っぽいバターとやらを匙の裏でぱんに塗りつけていく。

 やってみろと言われたら、我も頑張ってみた。

 バターはとてもやわらかく、簡単にぱんに塗りつけることが出来た。


「次に、そっちの赤い切った果物を好きなだけ乗せて。多過ぎると重いから、適度にね?」

「うん」


 内側がほんのり白い果実は食べたくなるが我慢だ。

 多過ぎてはいけないと言われたから、小さく切ったのも合わせて7個くらいにして置いた。


「ん。最後には、この白いパルルって言うんだけど。これを何個か乗っけたら焼くんだー」

「ぱりゅりゅ?」

「君が好きな、ココルルと同種の食べ物かな? 甘さはだいぶ違うけど」

「ここりゅりゅ!」


 この姿ではたくさん食べてはいけないあの甘いモノ!

 ひと口食べてみたいが、カティアに渡すものだと思い出したので我慢することにした。

 不ぞろいな大きさのパルルとやらを乗せ、出来上がったそれを創世神は黒い板の上に乗せてからカマと言う場所に放り込んだ。


「まだまだ作るから、僕は焼き加減を見てるから君は同じものを何個か作って?」

「うん!」


 こう言うことをブンタンと言うそうだ。

 我は焼く前の仕上げ、創世神は焼く加減とやらを見て取り出すを繰り返していけば……チューボーの中は甘酸っぱい匂いに加えて、パルルの独特な甘い匂いが強くなっていく。

 むせ返る匂いだが、よだれがあふれそうになるのを堪えた。


「よーし、今作ってるの最後にして持ってこっか?」

「あ、あい……」


 食べたくなる限界が近かったのでありがたかった。

 出来上がったパン達は、創世神が術で小さくさせて皿に乗せた。それを亜空間収納と言う術で焼き立てのままカティアに届けられるそうだ。

 片付けとまたしっかり手を洗ってから、創世神の転移で宮城に戻り、二人でカティアの部屋を訪ねた。


「カーティア、セリカー、いるー?」


 戸を軽く叩きながら創世神が中へ声をかけて少し、開いた向こう側にはセリカがいた。


「フィルザス様、どうかされましたか?」

「今少し時間いーい?」

「ええ。カティアちゃんのお勉強もひと段落したので、休憩しようと」

「じゃあ、お茶のお供にいいの持ってきたんだー!」


 ね、と創世神は我を見てきたので、セリカの方もようやく我に気づいてくれた。


「あら、ディス君。少し久しぶりね?」

「こ、こにちは」


 まだまだ拙い言葉使いだが、セリカは気にせず笑いかけてくれた。


「いらっしゃい。カティアちゃんに御用かしら?」

「う、うん」

「お返しがしたいって、僕と一緒に作ったんだー」

「まあ、そうなんですか?」

「セリカさん? フィーさんまだなんですか?」


 カティアの声だ。

 だが、背丈のあるセリカで我や創世神はよく見えないのだろう。

 背伸びをしても無理なのはわかるが、せずにはいられない。

 すると、セリカが小さく笑いながらその場から少しずれてくれた。


「フィルザス様以外にも、カティアちゃんにお客様よ?」

「そうなんですか?……あ、ディス君!」

「ふゅふゅぅ!」


 我に気づいたカティアは、クラウを抱えてやってきた。

 ああ、今日は何故かいつもと違って少女らしい装いでいるが随分と可愛らしい。

 これをセヴィルが見たらどう思うのか。あれなりに喜ぶだろうが、今は考えないでおこう。


「こ、こんちは、かちあ」

「こんにちは、今日はどうしたの?」

「いっつもカティアが何か作ってくれるから、お返しにいいもの持ってきたんだよ」

「いいもの、ですか?」

「そう。僕とディスの二人で作ったんだー」

「そうなんですか!」


 驚いたようだが、少し嬉しそうなのが混じっていた。

 やはり、お返しと言うのは良いことだったようで、我もほっと出来た。

 とりあえず、部屋の中に入れてもらい、創世神が卓などを準備してから例のお返しを出してくださった。


「カッツは乗せるのやめたけど、パンでのデザートピッツァかな?」


 焼き上がったものは、焼けたパンの香りに甘酸っぱい果物と溶けたパルルの香りが強いピッツァ。

 クラウは当然よだれをこぼしそうな程に口を開けたが、カティアとセリカは目を輝かせていた。


「「可愛い!」」

「ど、どうじょ」


 我も食べたいが、これはカティアへのお返しだ。

 ほとんど作ったのは創世神だが、きっと美味いはず。

 カティアは我を見てくれると、本当に嬉しそうに笑った。


「うん、いただくね?」

「私もいいのかしら?」

「ど、どうじょ」


 たくさんあるので、カティアだけでは食べ切れないはずだ。

 すると、我も食べていいと言ってくれたので創世神と一緒に座って、パンを手に取る。

 出来上がった時に刃物で切ってあるので、手に持ちやすい大きさのそれを口に持っていく。


「美味しい!」

「この上にかかった白いのはパルルね? 下の方は何かしら?」

「んー、甘みをつけたバターでしょうか?」

「さっすが、カティア。せいかーい!」


 我も食べたが、プチカと言う果実を思い出せた。

 マリウスがくれた白パンにも挟まっていたし、カティアが作ってくれた果実たっぷりのピッツァにも加わっていた。

 それとパンに塗ったバターの甘さと塩っぱさが、溶けたパルルともよく合う!

 プチカの甘酸っぱさともちょうどいい。


「ふゅふゅ、ふゅぅ!」


 そして、何故か一番食してたのはクラウ。

 これはカティアへのお返しだぞ!と念話を送っても聞こうとせずに貪っていく!


「あ、クー! いっぺんに食べちゃダメ!」

「ぶゅ?」

「いっぱいあるんだから、エディオスさん達にも渡してあげたいのに」

「え」


 主人達にも?

 おそらくだが、我の正体に勘付いてる主人達には出来るだけこの姿では会いたくない。

 帰ろうと思ったが、創世神にはため息を吐かれた。


【バレた時はしょうがないよ?】

【二度と会えないのが嫌だ!】


 なので、名残惜しいが適当な理由をつけて獣舎に戻ったのだった。


(……だが、料理は難しくともいいものだった)


 大して出来なくても、カティアがあのように喜んでくれたのだから。

 機会を伺って、また創世神と一緒に作って持っていきたい。

 主人にバレる機会が増えるのは仕方ないが、もう諦めるしかない。

 なった時はなった時だと納得させて、我は元の姿に戻ってから眠りにつくことにした。

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