2018年2月14日──千代香を煮込もう!その肆

 








 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(ディシャス視点)







 休憩と言った茶会を終わらせてから、先程セリカが言っていた作業をカティア達は取りかかっていく。

 我の重要な仕事はクラウを抱えて飛びつくのを防ぐ事だ。

 我も我慢してるのだが、肉とソースとやらの煮込みの匂いがとてもよく、よだれが口の中で溜まっていくのだ。

 あの、甘くもほろ苦いココルルとやらが肉と合うのか不思議だが、仕上げに入れても匂いはとても良かった。

 しかし、出来上がってからたっぷり食べれると言うから我慢するしかない。


「お肉ほろっほろですね!」

「私もちゃんと冷却覚えようかしら? 場合によるけど、お菓子作りにも便利だろうし」

「フィーさん曰く、火をつけるのと同じ要領ですって」

「うーん、イシャールお兄様にもちゃんと聞こうかしら?」


 セリカが担当していた鍋の中身を氷の魔法で冷やし、肉だけを取り出して手で引きちぎる作業。

 何故大きなままではダメなのかわからぬが、少し前に食べさせてもらった白いのと関係があるからだろう。

 邪魔せずに、クラウを抱えることにした。


「出来たわね。手を洗ってから器に入れましょう」

「はい」


 それからセリカは一度外に出て大きな四角の白い器をいくつか持ってきた。

 その皿は肉を入れるにしては随分と底が深い。


「順番は、芋、シャロル、肉にカッツね。これを合計二回繰り返せばちょうどいいはずよ?」

「僕だとソースとカッツの方がいいですね」

「お願いするわ」


 何をするのか台に乗って覗き込むと、黄色いモノを器の底に敷き詰め、その上にあの白いソース。更に上にはほぐした肉と茶色いソースを混ぜたもの。また更に上には薄い黄色のカケラを散らばせ……と言うのをもう一度繰り返した。

 あれで完成かと思いきや、台の下にある黒い戸を開けて、出来上がった器を全部中に入れてしまった。


「どーちゅりゅの?」

「焼くのよ。カッツが溶けて美味しいの」

「普通は焼かないのに、これだけ別なんですか?」

「そうね。シュレインじゃ、この料理だけ例外だったわ。あとは何故かカティアちゃんが作ってくれたようなのはないし」


 カッツとやらがどれかわからぬが、美味であるようだ。


「じゃあ、ディス君には我慢出来たご褒美にお肉の残りあげるわ。クラウちゃんもお口開けて?」

「ふゅ!」

「食べりゅ!」


 ココルルが加わった肉がどのように美味いか確かめたかった。

 小さな匙に乗せられた肉を口に入れられると、なんとも表現しがたい幸福感に包まれた。


(ちっとも甘くないが、代わりに少し酸っぱい。だが、美味い!)


 この少女もまた美味を作れるのだと認識出来た。

 焼き上がるまでまた暇になったが、クラウが匂いに耐えられぬだろうと我と共に食堂で待つ事になった。


「……ふゅぅ」

「わりぇも、我慢してりゅんだ」


 移動したので、今の我の鼻でもごくわずかにしか匂わぬが、ちゅーぼーからは他にも良い匂いがするので腹が空く。

 なんと言う拷問なのだろうか!


「……聞いてたがマジでまた来てたんだな?」

「う」

「ふゅ」


 何故主人が一番に来るんだ!

 てっきり創世神だと思っていたのに!


「こ、こんにちゃは」

「おう。クラウはなんでしょぼけてんだ?」


 相変わらず我に気づいてないようだ。

 いいのかとも思うが、バレてはいけないので我も黙っておく。


「んちょ、ごはんの匂いー」

「おー、こいつじゃ匂いに敏感だしな?」

「やっほー! って、本当にいるね?」


 今度こそは創世神がやってきた。

 なので、当然だが念話を送ってきた。


【君が獲っただろうけど、一角のに聞いたからって怪しまれるよ?】

【……すまぬ】

【まあ、今回はセリカが困ってたようだからね?】

【何故それを?】

【送ってきた識札から記憶読んだんだよ】


 よくわからぬが、相変わらずなんでも出来る方だ。


「君もなーんか手伝ったの?」

「う、うん。かちあに言われたのちょか」


 念話の交信はバレてはいけないので、普通の会話を装った。

 主人は特に気にせずに席に座ったが。


「つか、ディスって変な名前だな? ほんとにお前の名前か?」

「しょ、しょーなの」


 ディシャスとバレてはならぬからなんとか誤魔化そうと頷いた。


【縮めたにしたって、変でしょ?】

【……考えてなかったのだ】


 そもそも、ヒトと話すのは主人以外そうそうないからだ。


「まあ、まだ自分の名前覚えれないからそう呼ばれてるのかもね? 普通なら、僕とかが問い詰めてやりたいけどぉ」

「それはやめとけ」


 我としてもやめてほしい。

 だが、お陰で話題?とやらはそれたようだ。

 そして、この後にセヴィルやサイノスもやって来た。

 ただもう一人、我と同等に髪が赤い者までやって来たが誰だ?


「ほーぅ、これがセリカの言ってたガキか?」


 随分と主人以上に尊大な態度でいるが、本当に誰だ?


「で、ディス、でしゅ」

「……お前、それほんとに親に呼ばれてるのか?」

「う、うん」


 頼むから早く目の前からいなくなってほしい。

 なんだか、この者の瞳を覗き込まれると考えてる事まで読まれそうな気分になるのだ。


「おい、子供相手に魔眼使うのよせ」

「あー、悪りぃ。癖だ」


 サイノスが止めてくれたお陰で、嫌な気分から解放された。

 どうやら、この者の眼には何か仕掛けがあるようだ。

 今は見られても特に感じない。


「悪かったな? 俺はイシャール、セリカの兄だ」


 ちっとも似てないぞと言ってやりたかった。


「お待たせ致しましたわ。あら、本当にいらしたのですね!」


 妹御もやって来たと言うことは、これで全員か?

 カティア達はまだのようでなかなかやって来ない。

 クラウもいい加減卓の上でも良いだろうと置いてやった時に、二人は大きな道具を使って戻って来た。


「「お待たせしました!」」


 料理は既に取り分けてあるようで、我の分が目の前に置かれると綺麗な層が重なった料理が目に飛び込んできた。


「ふゅふゅぅ!」

「クラウにはひと口ずつ食べさせてあげるからね?」

「ふゅ!」

「これなんなんだ?」

「えと、牛角猪ザルバドをポワゾン酒で煮込んで、シャロルとマロ芋を重ねたものです。上の部分はカッツですエディお兄様」

「へぇ……って、肉は聞いてるが捌いたのお前か?」

「あ、はい。そうですが?」


 これにカティアや我達以外引きつった表情になるのは無理もない。


「セリカ。お前結構料理作れんのか?」

「ミービスさん達を手伝ってたくらいだけど?」

「一度家でも作ってくれよ」

「え、でも、お菓子ならともかく料理はお母様達許してくれるかしら?」

「俺が見とくならいいだろ」


 どうやら、イシャールの方は料理が得意らしい。

 これで奴の纏う様々な食材の匂いの疑問が解けた。

 料理は冷めてしまっては勿体無いとすぐに食すことになり、我はカティアに切り分けてもらいながらすべて食べ切った。

 ココルルが入ってることに、他の者達も驚いてたが全員気にならないと言うくらい気に入ったらしい。

 我もまた食べたいと思ったが。


【あんまり頻繁に来ると、さすがのエディでも調べさせると思うよ?】

【……承知した】


 帰る前に創世神にそう言われてしまっては、仕方あるまい。

 極力、極力来ぬつもりではあっても……また行くであろう事を予感しながら獣舎へ転移していった。










【おまけ?】




「気づいてるのだろう?」

「まぁな? ありゃやっぱディシャスだ」

「イシャール呼んで正解だったな」

「カティア会いたさに化けるのはいいが、なんであの年齢なんだ?」



※男性陣にはバレてますwww


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