2018年1月23日ーー太らないアーモンドピッツァ後編

 何もかもが悪いわけじゃないけど、その分代償は避けられない。

 難しい話はここまでにして、下準備の続きだ。


「あ、随分かりっとしたわ。カティアちゃんこれでいいの?」

「えーっと……はい、大丈夫です。すみませんが、これ全部お任せしてもいいですか?」

「もちろんよ」


 単調な作業で申し訳ないが、焼き加減は重要なので助かります。

 それからお互いすることに徹して、仕上げ手前まで終わったらひと休み。


「やっほー!」


 お茶を飲んでいたら、何故かフィーさんがやって来た。


「あら、フィー」

「カティアが見当たらないから、マリウスにここだって聞いてさ?」

「僕にですか?」

「気分的にピッツァ食べたいから、お願いしようかなって。時間操作はもちろん手伝うよ」

「今日ピッツァですよ?」

「え、ほんと⁉︎」

「趣向が少し違うけどね?」

「いつもと違うの? あれ、なんか香ばしい匂い」

「もう少ししたら出来ますから、お手伝いは大丈夫ですよ」

「そう? じゃ、お言葉に甘えて食堂で待ってるね」


 嵐のように来て嵐のように去って行かれて、僕らはちょっとほっとした。

 まだ趣旨をフィーさんに伝える訳にはいかないからだ。


「今言っちゃうと全員に伝わっちゃいますもんね……」

「説明は私がするわ。カティのことは伏せておいてあげるから、うちの人を理由にしておけばいいし」

「ユティリウスさんには申し訳ないですが」


 女子の悩みは、繊細なので。

 お茶休憩を済ませてから、片付けと仕上げを再開させて焼き上げに取り掛かった。

 焼き方は、いつものピッツァのようにするけど焼くのは今日ずっと大活躍したオーブン釜の方で。

 今度の焼きは僕が担当して他をファルミアさんとセリカさんが担当してくれました。


「お待たせしましたー!」


 盛り付けも整ってから食堂に向かえば、いつも通り皆さんが勢揃いしていた。クラウは窮奇さんにあやされていました。


「おいで、クラウ」

「ふゅふゅぅ!」


 準備が出来てから呼べば、クラウはすぐに飛んできた。


「窮奇さん、他の皆さんもありがとうございました」

『いや、構わない』


 相変わらず息ぴったりに言い切る四凶さん達だった。


「なーんか、今日はいつも以上に生地が薄くないかい?」


 早速ユティリウスさんには気づかれて、彼はお皿を持ち上げて眺めていた。


「今日からは少しずつ食事を変えていくのよ。あなた鍛錬もほとんどしてないから、以前のように戻りそうだもの」

「へ?」

「こ、小麦粉を使ってないピッツァなんです」

「お、美味しいの?」

「論より証拠! 文句言わずに食べてみなさい?」

「お、かりかりしててうめっ!」


 既にエディオスさんは召し上がられてて、ほとんど無くなりそうだった。


「あ、ほんとだ。これ結構香ばしい……」

「具材はオーラルソース以外いつも通りだな? それは変えなくていいのか?」

「一概に全部が悪いわけじゃないけれど、主食は置き換えた方がいいとされてるの」


 言い出しっぺが僕とは言いづらいので、ファルミアさんが積極的に皆さんの質問に答えてくれます。


「おーいし! この味だと生地にはナルツ粉と……カッツかな?」


 ぺろんちょと完食されたフィーさんが、すぐに食材を言い当てた。


「これがナルツ?」

「言われねぇとわかんなかったな?」


 セヴィルさんやエディオスさんは分からなかったみたい。

 まあ、料理しないと難しいのもあるけど。


「けど、結構カッツ使ってんのにそっちはいいのか?」


 サイノスさんはさすが軍人さんだから、多少食生活について気づいたようだ。


「太りやすい食品かと思いがちですが、カッツも大事な置き換えしていい食べ物なんです。太りやすい代表は小麦粉や砂糖ですね。それが体の資本ではあるんですが、食べ過ぎると蓄積して体が太っちゃうんです」

「ほぉ、面白いな。もうちょっと詳しく教えてくんねぇか?」

「え、はい?」


 何故サイノスさんがこうも食いつき気味になるんだろう。

 この中じゃ一番体を使うお仕事をされてるから、太るなんて無縁なのに。


「サイノス達はその身体が資本だからな。全員が全員ではないが、だらけた輩もいなくはない。イシャール達と掛け合って兵達の食事を変えようとしてるのだろう?」

「さっすがゼル。大雑把にゃそうだな?」

「ああ……」


 見かけることはなくても、中層のバイキング形式や下層のセルフサービスなんかじゃ自分の好きなものを好きなだけ食べれるからか。


「じゃあ、あとで個別に教えますね。僕まだ食べ終わってないんで」

「おう、執務室に来てくれ。ジェイルともまじえたいからな?」


 と言って、サイノスさんはイシャールさんやミュラドさんも呼んでくると行ってしまわれた。


「……なんか大掛かりなことになりそうですね」

「そうね、太りにくい食事って制限以外浸透がなかったもの」


 僕個人の我儘のはずが、大変なことになっちゃった。

 アーモンド粉のピッツァは美味しかったけど、その後が予想以上に大変でした。

 その一つは、


「カティアがちょっとふっくらしたから、ユティの理由は後付けでしょ?」


 フィーさんにはバレバレだったようで、暴露された後にセヴィルさんからは『身体がその状態ならばもっと食べろ。食事内容を変えるのは賛同するが』と、こんこんとお説教されました。

 もう一つの方では、


「栄養を偏り過ぎもいかんが、置き換えはいいなぁ?」

「腕が鳴るね!」


 中層、下層料理長のお二人がやる気満々になってしまい、僕に予想以上の質問に加えてレシピ伝授をお願いされて、サイノスさんやジェイルさんも近衛さん達にメモしておけと指示されるくらい。


「うわぁ───────ん、カティアちゃん他のメニューないのぉ⁉︎」


 時折廊下でシェイルさんに泣きつかれたりと、メニューが徹底されたこともありました。

 しかし、シェイプアップなどには貢献出来たようで、サイノスさんからは保有地特産のチーズをご褒美にいただきました。

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