2017年12月22日〜ーー冬至の日には運気を呼ぶものを?

 冬も近づいてきたが、この世界と言うか神王国は雪の季節が他の国よりも遅いので、外気温が下がってもすぐに雪は降らない。

 大体年末年始当たりだそうな。

 でも、寒いものは寒い!


「きょ、今日はここまでにしようか?」

「ぶ、ぶゅ!」


 防寒着を着ながら隠れんぼや鬼ごっこで運動しても、寒いものは寒い!

 冬の方が体脂肪を燃焼しやすいとかなんとかーって謳い文句みたいなのを思い出したから、美味しいものを食べ過ぎてちょっとぽっちゃりしてきた体を動かすのにクラウと遊んでいた。実際は30分も経たずにリタイア。

 皆さんはデスクワークが多いのに、サイノスさん達軍人さん以外でもなんであんなにスマートなんだろう解せぬ!


「うぅ……冷え冷えだよぉ」

「ぶゅぶゅぅ……」


 手を合わせて擦りながら、はぁーっと手に息を吹きかける。

 手袋は一応してたけど、薄地だし裏生地がないから結構寒い。中に入っても、すぐに体はあったまらないからクラウも体をぷるぷる震わせちゃってる。


「着替えて飲みものもらって、休んでからあったかいもの作ろうか?」

「ぶゅ!………ふーゅぅ?」

「どうしたの?」


 急にクラウが首を傾げたので聞いてみると、小ちゃな左手を僕の後ろに向けた。

 なんだろうと振り返れば、みかんのような小さな果物が落ちて……いて、ずっと向こうにまで続いている。


「なんだろうね?」

「ふゅぅ?」


 何かのいたずらにしては結構量がある。

 とりあえず、一個を拾ってみれば触っただけで果物の正体がわかった。


「これゆずだ!」

「ふゅ?」

「皮だけど、匂い嗅いでごらん? いい匂いがするから」

「ふゅぅ?」


 鼻に近づけてあげれば、クラウはふんふんと口の上を動かした。

 ただ、柑橘類の匂いは美味しいと思わなかったのか首を傾げちゃったけど。


「ふゅぅ?」

「これ中身は酸っぱすぎだから直接は食べにくいけど、ジュースやジャムとかに加工すると美味しいんだよ」

「ふゅ!」


 ジュースはわかるからか、その単語が出たらピコっと両手を上げて喜びを表したよ。


「けど、なんでこんなにも落ちてるんだろ?」


 全部拾えるほど腕は大きくないし、あいにく袋も持ち合わせていない。

 とここで、向こうの方から足音が聞こえてきたんでそっちを向けば、


「あ、カティア!」

「フィーさん?」


 ひょいひょいとゆずをサンタクロースのような袋に入れながら、少年神様のフィーさんが駆け足でこっちにやってきた。


「あーあ、ここまで落ちてたんだ」

「これ、フィーさんが落としたんですか?」

「正確には、饕餮とうてつがね? 持ってきた袋に穴が空いて、今向こうでも手分けしてるんだ」

「饕餮さんが?」


 珍しくうっかりさんが出ちゃったんだ。


「まーったく、クリストムがたわわになるくらい実ってるのわかったからってこんなにもさ? いきなり持ってきたはいいけど、ほとんどを廊下に落としちゃってるんだから」

「何か作るんですか?」

「ミーアは花風呂代わりに、これでお風呂もいいねーって言ってたけど」

「ゆず湯ですね!」

「ユズユ?」

「柑橘類の皮は香りとかがお湯に溶けやすいんで、お肌に効いたり匂いがいくらかうつるんですよ」

「それは女の子にはいいね」


 洗えば問題はないだろうけど、饕餮さんが食材にしたがってたのは却下になりそうだからと二人で落ちてるのを袋に詰めていった。


「ただ、クリストムの代わりになるようなおやつは厨房で作ってるそうだよ?」

「おやつですか!」


 作ろうと思ってた時にちょうど良かったかも。

 けども、最初の作業がすっごい大変そうなんで、行ってもまだ出来てなさそうだろうってフィーさんは言っていた。


「たーだいまー!」


 食堂を通り抜けて厨房に入れば、もわっとした熱気とほんのり野菜のような甘い匂いに包まれた。


「あら、お帰りなさい。カティ、いいところに来たわ。手伝って」


 ファルミアさんが気づいてくれたけど、僕を見つけるなりすぐに手を引いて調理台の方へと連れてく。

 着くなり、服は魔法でちょちょいっといつものチュニック姿に変えられました。


「カティには、餡子をお願いしたいのよ」

「餡子ですか?」


 匂いはしなかったけど、いったい何に使うんだろ?

 とりあえず、時間はかかるから急いでライガーさん達と仕込んでから聞くことにした。


「ファルミアさん、お菓子を作るってフィーさんには聞いたんですが」

「ええ、そうよ。材料はそう多くないけれど、餡子はせっかくだからカティに頼もうと先にこっちを下ごしらえしてたの」


 今も一生懸命に包丁やスプーンで緑色の皮からオレンジの柔らかいモノをこそげている……これって、たしか。


「かぼちゃ……カルキント、でしたっけ?」

「ええ、そうよ。冬至がそろそろだから、クリストムはお風呂に回すとしてカルキントでおやつを作ろうと思ったの」


 この世界でも冬至ってちゃんとあるんだ。


「冬至は一陽来復って、縁起が良い日でもあるから。フィーも蒼の世界の縁語を用いたりしていくらか広めたらしいのよ。日が年に一度一番短くて、翌日には少し長くなるから復活の意味を持つとか諸説あるらしいけれど」

「……それは初めて聞きました」

「私も詳しいことは、今の父や母とかに聞いたわ。その翌日には運気が上昇するとかで、一般民達の間でもちょっとしたお祭りが開かれるそうよ。とは言っても、ここじゃ忙しいから出来ないし、代わりに運盛りに関連する食べ物でもってね?」

「運盛り?」

「ええ、こっちは日本とかの伝統だけれど」


 かぼちゃや小豆はよく聞くけど、その話は初めてだ。


「日本語で語尾に『ん』がつくものは、運を呼び込めると言われてるらしいの。こちらじゃそうじゃないけれど、かぼちゃの漢字は南って方角でしょう? 北から南に陽が向かうってなぞらえから縁起が良いものとされてるわ。あと、栄養価が高いのもね。夏が旬だけど、保存がきくから冬に食べるって先祖達の知恵から重宝されてるのよ。普通の風邪予防にも最適だから」

「く、詳しいんですね」

「前の母が伝統を大切にする人だったのよ。祖母の影響もあるわ」


 僕もおばあちゃんに水無月の事を聞かされてはいたが、冬至については結構あやふやだ。

 正しい知識を知れて良かった。


「あれ、でも小豆ってかぼちゃといとこ煮にするのが多くないですか?」


 僕の家ではそうだったけれど、餡子作りをするからにはどうも違うようだし。


「地方によるわ。うちじゃなかったもの」

「そうですか」

「それに箸が使えない人達ばかりだし、フォークじゃ崩れやすいもの。冬至粥は私作った事がないから無理だし味の好き嫌いが出るから、せめて食べやすいものにしようとね」

「妃殿下、カルキントの下ごしらえすべて完了しました」

「あら、ありがとう」


 マリウスさんからの声がけでお話は一時中断。

 僕も餡子の仕込みの続きをするのにコンロの方へ戻った。

 ちなみに、ずっと放置状態にしてしまってたフィーさんはクラウを頭に乗せたままゆずの洗浄をしてくれてました。


「餡子はこれで出来た。……どう使うかわからないけど、冷まさない方がいいのかな?」


 話を聞くのに夢中で、そこすっかり聞きそびれていた。


「あ、カティ! 餡子は丸めるから冷却して構わないわ」

「あ、はーい!」


 じゃあ、包み込むのだろうか?

 それくらいしか予想は出来ないけれど、とりあえず言われたように餡子を粒餡状態にさせてから冷却をかけた。


「生地が出来たから、これをひと口大に丸めるわよ」

「はい」


 なので、コックさん達もまじえて全員で餡玉作りだ。

 バット全部使うくらい餡玉が出来てから、ファルミアさんはボウルを一つ持ってきた。

 中身はかぼちゃがベースなのが一目でわかるオレンジの生地が入ってました。


「これには、普通の砂糖じゃなくてトヨって植物を使った砂糖少しとトロミ粉を混ぜてあるの」

「おやき、みたいにするんですか?」

「半分正解ね? 芋餅の応用に近いわ。包み込んで平たくしたら、油で焼くのよ」

「美味しそう……」

「食べるには作らなくてはね? じゃあ、だいたいはわかるでしょうけど、一応見本は見せるわ」


 それからは、生地を手の上で広げては餡玉を乗せて包み込むの繰り返しをひたすら続けていきました。

 出来上がってからフィーさんに識札を頼み、その後にフライパンでどんどんかぼちゃ餅を焼いていきます。


「あ、圧巻だ……」


 調理台の上に山のように積んだ形になってるかぼちゃ餅達。

 コックさん総出で作ったから結構な量になるのはわかっててもすごい。


「上層部に配る分も用意したもの」

「大臣さん達にもですか?」

「ええ。年末で忙しい上に帰宅も難しい面々もいるから、せめてね?」


 優しいなぁ、ってこの時は感心したんだけども。


「あのこうるさい糞爺共にも、慣習は意識させておかないと後始末がこっちに来るもの」


 なんか怖い独り言が耳に入ってきたんで、気持ちがヒュンとしました!


「まあ、それはさておき。美味しいものを食べましょう?」

「は、はい!」


 その後にいただいたかぼちゃ餅は文句なしに美味しかったし、ゆず湯も女性三人で一緒に入っていい匂いに包まれたけど。

 僕はしばらく、ファルミアさんのこっわい独り言が忘れられませんでした……。

 だって、その言葉を伝言してないのに大臣のおじさん達は馬車馬のように働きまくって、年末は帰宅ラッシュが続いてエディオスさん達を唖然とさせちゃったから。

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