2017年12月6日ーー姉の日に優しいコンポートを
「うーーーーーーーーん…………」
悩んでいます。
非常に悩んでいます。
大した悩みと言うか選択肢が限られてると言うか。
唐突に思い出した何気ない記念日についてですが。
「姉の日……」
「ふゅぅ?」
一緒に?考えてくれてるクラウはわからずでくりんと首を傾ぐだけ。
「友達と言うか、お姉さんって感じなんだよね……」
年齢はもちろんだけど感覚的にも。
誰かと言うのは、アナさんとファルミアさんのことだ。
アナさんはちょっと違うけど、ファルミアさんは僕を同世代のように扱ってくれてるから少し友達に近い。
けど、お二人は超々歳上なんで僕から見ると歳上のお姉さんのように思えちゃう。
それを自覚した時に日にちは忘れちゃったけど、今日の記念日的なのを思い出したのだ。
「たしか12月くらいだったと思うんだけど……」
妹の日の三ヶ月後が目安で、弟の日も兄の日もあるがいつだったか覚えてない。男兄弟が多かったのに殺生なと自分の兄達だと言うだろうが、マイナーな日が多い記念日についていちいち覚えておけと言うのも酷なことだ。
じゃあなんで姉の日は覚えてたかと言うと……職場の先輩に聞いたからです。
先輩は自分のお姉さんに、姉の日にリンゴのコンポート入りケーキを贈ったらとっても喜んでくださったと満面の笑顔で話してくれたのだ。それが印象的でよく覚えてただけです。
「けど、この世界のリンゴってこの時期にあったかなぁ?」
保存の魔法が効くから貯蔵庫に行けばあるだろうけど、使っていいだろうか?
しかし、迷ってては何も始まらない!
「マリウスさん達に相談に乗ってもらおう!」
「ふゅぅ!」
クラウと意気込んでから、自室を後にしました。
◆◇◆
「ほう。実の兄弟ではありませんが、お二方にケーキを贈りたいと?」
「どうですかね?」
「いえ。素晴らしい記念日だと思いますよ? 材料は気にせずに使われて大丈夫です」
「ありがとうございます!」
リンゴが使えると分かれば、せっかくなんでファルミアさんに教わったタルト生地を活かせるケーキにしようと意気込んだ。
「まずは生地を作らなきゃ」
「ふゅ」
クラウには頭の上に乗っててもらって、その間に生地作り。
以前はファルミアさん作のラップに包んで時間操作したが、僕じゃどっちも出来ないんで出来上がったらボウルに晒し布を被せて氷室で寝かせておく。
「次はコンポート作り!」
染色しないタイプの白いコンポート作りだ。
皮と芯を取り除き、縮むことも考慮して少し厚めに切り分けて鍋に全部入れます。
この時砂糖水を計量分入れる事を忘れずに。
水が沸騰するまで強火にして、沸騰してからは10分程度中火で煮込む。
「待ち時間にフラン作りもしなきゃ」
コンポート以外にタルト生地に流し込むプリンのような生地のこと。
作り方は簡単。
卵と砂糖を入れてホイッパーで混ぜ、そこにレモン汁と生クリームと牛乳も入れて混ぜるだけ。
焼くから固さとかはそこまで気にしなくて大丈夫なのは先輩談。これが先輩がお姉さんに贈ったケーキで以前一度作り方を教わったんだけどすっごく美味しかった。
「あ、コンポート煮えたかな?」
「ふゅぅ?」
煮え具合を脚立に乗ってコンロのを覗けば、大きさはそこまで変わってなくてもリンゴ自体くたっとしたくらいに出来ていた。
「これをザルに越して、すぐに冷却しなくていいから先に釜を予熱して」
「あ、さっき使ったからまだ熱いよ?」
「ライガーさん」
テキパキ動いていたらライガーさんにそう声をかけてもらえた。
「メロモを使ったお菓子かな?」
「ケーキですね」
「それにしては生地が見当たらないけど?」
「ファルミアさんに教わった生地を今氷室で寝かせてるんです」
「なるほど。出来上がりが楽しみだね?」
「あ」
「どうしたの?」
あえて連絡してなかったが、ファルミアさんはお仕事がほとんどなくても、アナさんはきっといつも通りお仕事だ。
それに大体のおやつ時間は他の皆さんと一緒だから、今日はそのくらい用意していないんで皆さんを呼べない。
事情をライガーさんに説明すると、少し考え込まれた。
「なるほど、妃殿下やアナリュシア様のためだったら陛下方はお呼びできないね」
「まだお願いする前でよかったんですが、アナさんをお呼び出来るかどうか」
「一度識札で僕が聞いておいてあげるよ。せっかく女性方をお呼びするなら食堂よりはカティアちゃんの部屋がいいんじゃないかな?」
「お願いします」
とりあえずはそう言うことになり、僕は作る方を優先にした。
オーブンが温まってるなら型探しだ。
今回は普通のタルトケーキ作りだから、波状の普通のが良いと思ったんですが、心配せずともちゃんとありました。
型を探してもまだ寝かせる時間は必要だったので、休みながらコンポートを冷却させ。生地が出来たら伸ばして型にはめ込んでフォークで穴を開けた。
「これにコンポートをお花の形になるように敷き詰めて」
出来上がったらフラン生地を流し込んで天板の上に乗せ、オーブンで40分焼けば完成だ。
「カティアちゃん、アナリュシア様は八つ時辺りに休憩が取れるそうだから大丈夫みたいだよ。妃殿下も」
「ありがとうございます!」
ならば、少し久しぶりに女子会決行だ!
◆◇◆
「お呼ばれになるわよ?」
「お邪魔致しますわ」
「いらっしゃいです!」
「ふゅ!」
あの後、改めてお誘いの識札をライガーさんに飛ばしてもらってから約一時間後。
僕は自分の部屋に来てくれたファルミアさん達を出迎えました。
「今日は女子だけの集いかしら?」
「正確には、僕からお二人へのプレゼントがあるんです」
「まあ、わたくし達にですの?」
期待に満ちたアナさんに応えるためにもと、ライガーさんと二人で用意したティータイムセットを披露することにしました。
「あら、今日は何かあったかしら?」
「僕が思うのはおこがましいかもしれませんが、今日は『姉の日』のはずなんで、僕からお二人への感謝の気持ちです」
「「まあ」」
えへへとクラウを抱っこしたまま告げると、お二人は少し目を丸くされた。
「……たしかに、年齢的には私達はカティにとっては姉かもしれないわね?」
「そそそそそう言う意味ではないんですが!」
「ふふ、わかってるわよ。なら、ご相伴に預かりましょうかリュシア?」
「ええ、ええ。そうですわね!」
「ふゅーゅゆ!」
クラウにとってもお姉さんなお二人は、いつも以上の笑顔で僕の作ったお菓子を美味しそうに食べてくれました。
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