2017年11月20日ーーピザはピザでも生地がクレープ!
「ふーゅぅ、ふゅゆ!」
「え……っと、食べたい?」
「ふゅ! ふゅふゅ!」
「な、何を?」
ただ今部屋でクラウと会話?中だ。
お勉強もひと段落してクラウと食堂に行こうとしたら、クラウが何か言いたげに僕の服を掴んできて机の上でジェスチャー。
相変わらず意思疎通のテレパシー的な会話も出来ないから、可能なのがこれくらいしかない。
だけど、わからないものはわからない!
「何が食べたいかわかんないと僕も作れないよ……」
クラウの食べ方って、最初に作ったミニパンツェロッティ以降ほとんど変わらないもの。
手で持てるサイズのものを両手で持って、あーんするくらい。他の大きい場合は僕が食べさせるし。
「ん? もしかして、パンツェロッティ食べたいの?」
「ふゅふゅぅ!」
当てずっぽうで言えば、正解だったのか激しく首を上下させたクラウ。
「でも、今からじゃ無理だよ?」
僕は時間操作は出来ないから、生地の発酵時間を進められない。
いちいちフィーさんやファルミアさんにお願いするのも申し訳ないもの。フィーさんはピッツァと分かれば進んでやってくれるかもしれないが、今日は用事が珍しくあるからいない。
ファルミアさんも少しお仕事らしいからこれも同じく。
それをクラウにも言えば、わかりやすく耳と翼がしょげた。
「しょっぱいものかー」
そしてお腹に溜まりやすいのが食べたいみたいだ。
けれど、お好み焼きは重たいしウスターソースは今在庫切れだ。次作る予定が単になかっただけで。
トマトソースはこの間作ったから、代用品を使えばピザトーストならいけれるか?
「とりあえずは、ピザトーストっぽいのにしようか。行こう」
「ふゅ」
ひとまずは納得してもらえたようなので、一緒に食堂へ。
すると、いないと思ってた人達と出会えました。
「あら、カティにクラウ」
「ファルミアさん、お仕事終わったんですか?」
てっきりまだ終わらないと思ってたのに、四凶さん達とティータイムしていました。ユティリウスさんはいないから、あちらはまだお仕事中かな?
「ええ。ついさっきね? 何か作ろうとしてたの?」
「クラウが本当はパンツェロッティを食べたがってたんですが、ピザトーストくらいにしようと」
「そうね、それがいいわ。今ちょうどサルベ……イーストがないそうよ?」
「え」
ファルミアさんがいれば作れるかもと思った矢先に通告が。
イースト切れでは、ピッツァの命の一つである生地が作れない!
「私も何か作ろうとした時に聞こえたのよ。作り置きがなくなったから今急いで仕込んではいるそうだけど」
ここの材料は好きに使わせていただいてるが、あくまで趣味範囲。
基本はエディオスさん達や他のお偉いさん達のご飯を提供するところだもの。わがままは言えない。
「じゃあ、ピザトーストですかね……」
「ふゅぅ……」
残念だけど、それが無難だろうね。
「ん? ピザ……生地にこだわらなければ、それっぽいのは出来るわ!」
「え?」
「ふゅ?」
ピッツァの生地以外で出来なくもない?
パン以外に何かあっただろうか?
「カティも食べたことはあるはずよ? クレープのピザ味」
「ああ!」
いわゆる『おかずクレープ』のことか!
ツッコミ親友とは学生時代食べたりはしてたけど、さすがに休みの日までピッツァ関連はなーと普通のデザートクレープを食べていた。
もっと子供の頃にはお母さんにねだってはいたと思うが、そうしょっちゅう食べれていなかった。繁華街に行かないとクレープ屋さんがなかっただけ。
とまあ、機会がそう多くなかったのですっかり忘れていました。
「クレープ生地でも休ませる必要がないのなら覚えがあるわ。大量に作るなら、クレープパーティーもいいけど……ゼルがいるから今回はクラウ優先にしましょうか」
「ですかね」
ガレットとは違うデザートクレープメインでいくとセヴィルさんが苦手だもの。
それと、クラウがピッツァを食べたいと言ってるからには今回はそうした方がいい。
なので、クラウは四凶さん達に預けて僕とファルミアさんは厨房に向かいました。
材料の件は、イースト以外は特に問題がないと聞けたので遠慮なく作れます!
「生地は割とすぐに出来るから、具を決めておきましょうか? ピザクレープだと覚えてるのは……チーズ、ツナチーズとベーコンチーズだったかしら?」
「野菜よりは肉系かチーズですもんね」
打ち合わせは貯蔵庫で調達しながらこそこそと。
プレーンタイプのチーズだけでも悪くないが、せっかくボリューミーなものを食べるならとツナマヨとベーコンを作ることに。
材料とソースの下ごしらえが終われば、いよいよ生地作りだ!
「粉類は振るわずに泡立て器で混ぜておけば大丈夫なの。これに卵と牛乳を混ぜ合わせた卵液を少しずつ加えてだまにならないように綺麗な生地にすればいいわ」
材料はそう多くない。
粉も小麦粉と砂糖だけ。混ぜ合わせた生地にあと入れるのもバニラオイルと溶かしバターのみ。
家庭で作るならとっても簡単過ぎる材料だ。ほかのレシピで作ったことがないからわからないけども。レストランじゃ先輩が作るのを遠目で見てたくらいだし。
「全部混ぜ終わったら、フライパンに分量外のバターを薄く敷いて焼くだけよ。注意点はフライパンが熱くなり過ぎると焦げやすくなるから、その時は濡れ布巾で冷ますの」
実際のクレープ屋さんで使う業務用の鉄板は電気などで温度調節出来るだろうが、ここはそう言うのがない魔法の火での挑戦だ。
ガスコンロのように火の強さは調節出来ても、熱量はなかなか難しいもの。
「カティも焼いてみる?」
「挑戦してみます!」
それに二人で焼いた方が効率いいからね。
「火加減によるけど、中火で焼くから本当にすぐ表面が焼けるの。それと、この生地は結構破けにくいから慎重にならなくても大丈夫よ」
「はい」
生地のボウルを二つに分け、お互いフライパンに静かに生地を少量流し込む。
レードルことおたまで少し引き伸ばして待つこと10数秒。本当にすぐ乾いてきたのですぐにペリッとフライ返しで引き剥がした。
「あ、色が薄い」
きつね色には程遠い。
「大丈夫よ。ちゃんと火が通ってるから生焼けではないわ。お店とかじゃ片面だけど、今回は両面にしましょうか」
「はい」
焦げ目がない面を下にして待つこと数秒。
これをお皿に乗せて、また焼くを繰り返して生地がなくなるまでずっと焼きます。
「仕上げは食堂ですればいいわね」
下ごしらえが済めば給仕さんに識札で皆さんを呼んでもらいます。フィーさんだけはやっぱりいなかったので少し取り分けておきました。
「今日は庶民でも食べてるクレープとは少し趣向を変えてるの。仕上げは今からやるわ」
まずは、積み上げてしっとりさせてるクレープ生地の山から一枚別のお皿に乗せる。
中央ではなく、少し上にソースと具とチーズを乗せて、最後にチーズを火で溶けるくらいに炙ります。
これを両端を寄せて包み、端からくるくる巻いて別で用意しておいた厚紙を下に巻いて完成。
どこからどう見ても僕とファルミアさんがよく知るクレープだ!
「前に食ったピッツァみてぇに手で持って食うのか?」
「ええそうよ」
全員分、とりあえず一人一個作って渡してからエディオスさんがそう聞いてきた。
「生地はあまり甘くしてないので、中の具と一緒に食べてください」
では、いただきますと全員でひと口。
クラウには少し小さめのを作って手に持たせてます。
「あ、これ生地違うけどピッツァだ!」
「クレープですのに生地がもちもちしてますが、美味しゅうございますわ!」
「これもピッツァなのか?」
「違うわね。私とカティがいた世界じゃほとんどはデザート感覚のを食べることが多いけど、今日は材料が足りなかったのとクラウのご希望でこうなったの。ピッツァ味や他に食事で食べるのももちろんあるわ」
あ、ファルミアさんの説明にセヴィルさんが一瞬肩を跳ね上がらせたけど、最後のところを聞いてほっとされた。
さて、僕もひと口と少し口を大きく開けてかぶりつく。
少し濃いめのトマトソースによく伸びるチーズがまず口いっぱいに広がり、次に厚切りのベーコンを噛めばジュワッと肉汁が溢れてきた。
具はばっちりだけど、生地もアナさんが言ってたようにもちもちしててほんのり甘いがバターの風味が強い。トマトソース達との相性ばっちりだ。
「ふーゅ、ふゅふゅぅ!」
クラウは美味しい美味しいって風に鳴きながら、自分のお皿にあるクレープを次々に平らげていく。
クラウには紙はあえてつけなかったが……下の方からやっぱりソースが染み出していたせいでお腹が汚れていた。すかさず手ぬぐいで拭きます。
「あっれぇ? 皆おやつ?」
とここで、食堂にお出掛けしていたフィーさんが入ってきた。
「あら、お帰りなさい。お代わり組と一緒に作ってあげるわ」
「何食べてたの?」
「クレープです。甘いのじゃなくてピッツァ風ですが」
「食べる食べる!」
食べないの文字はフィーさんにない。
それからフィーさんはクラウに負けないくらいたくさんのおかずクレープをお腹に収めました。
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