2017年11月11日ーー宝石発掘はドッキドキ!part2

「ふーゅふゅゆぅ!」


 フィーさんの言葉を聞いたクラウは、僕らが掘ってる結晶体じゃなくて、また別のとこにある青い結晶体に飛びついていった。

 そうしてすぐにかぶりついてもクラウの歯じゃかじれるかと思って見てたら……『ガジガジガジガジ』と壁が削れるような音がしてきてクラウの表情はとっても満足気だ。


「……好きにさせておくしかあるまい」

「そうですね……」


 あの子には害がないのと手持ち無沙汰でずっと浮かんでるのもつまんないから、ちょうどいいだろう。


「うっしゃ、取れたぜ!」

「うむ」


 エディオスさんの声が洞窟に響き渡ったので振り返れば、エディオスさんの髪色に負けないくらいの緑色が濃い結晶体を掘り出したようだ。

 この距離からも見える大きさと言うことは、彼の頭より大きいんじゃないかな?

 僕達が掘ろうとしてるのはその何倍もあるから頑張らなきゃ!


(掘って、掘ってー掘るんだよー)


 セヴィルさんとの共同作業だから適当な即興歌は披露しません。

 なんか恥ずかしいから?


「よいしょ……あれ?」


 今なんか土が異常に柔らかく感じた?

 気のせい?と作業を続けようとしたら……ズボッと片手がいきなり沈んだ。


「え⁉︎」

「どうし……カティア⁉︎」

「うぇえ!」


 セヴィルさんに手を伸ばそうに、体がどんどん土の中に沈んでいく。

 彼がピッケルを放り投げて僕が外に出してる方の手を両手でつかんで引き上げようにも、重力かなにかの力が働いて僕の体は沈む一方。

 このままじゃ二人で沈んじゃう!


「セヴィルさん離してください!」

「出来るか!」

「ふゅ、ふゅゆゆゆ!」


 クラウもようやく気づいたが、自分じゃ力不足だと理解してエディオスさん達を呼びに行った。

 だが、距離が距離なのでクラウが戻って来る前に僕らは地面に吸い込まれていきました。








 ◆◇◆








 目を開けた時は真っ暗闇でした。


(う、うーん……?)


 さっきまで宝石発掘してたんじゃ?と疑問に思ったが、すぐにセヴィルさんと地面に吸い込まれたと思い出して気絶したんだと納得。

 早く起き上がって明かりの魔法出さなきゃとは思いましたが……どうしてか強い力に上から圧をかけられてるようで体が動かせなくて口も何かに押さえつけられて開けない。

 土が上に乗っかってるにしては軽いし、なんかあったかい?


「……動かない方がいい」

「う?」


 あれ、この声?

 それと超至近距離過ぎない?息かかったよね?とだんだん焦りや恥ずかしさで顔全体に汗が流れていった。


(せせせせせセヴィルさんに抱き込まれてる⁉︎)


 吸い込まれてから多分落ちていくのに受け止めてくださったんだと予想は出来るけど、なんでまだその状態に⁉︎


「暴れるな。今は動かない方が得策だ」


 どんな意味で⁉︎

 全く状況がわからない僕だったのでパニックになって慌てるしか出来なかったんですが、不意に耳に届いてきた土を引っ掻く音にまた強く抱き込まれたんでもがくのをやめた。


「やはり、ここは奴の巣だったか……」


 セヴィルさんの固い声に嫌な予感全開だとはわかりました。

 とりあえず動かないでいれば、セヴィルさんは態勢を変えて僕を抱っこしたまま立ち上がった。感覚でしかないけれど。


「仕方ない。明かりをつけるか」


 と言って無詠唱で明かりの魔法を出せば……ちょっと向こう側に黒い影がありました。

 あまりの大きさに声を上げそうになったけど、我慢してすぐに両手で口を塞いだ。


「いい判断だ。俺の後ろにいろ」


 こくこく頷いてから下ろしていただき、すぐにセヴィルさんの背後に回った。

 けど、あの正体は何か少し気になってそろーっと前を見れば……また声を上げそうになったんで口は塞ぎましたあ。


(クワガタのハサミ持ったでっかい蜘蛛⁉︎)


 大きさはセヴィルさん以上で、サイノスさんに届くかどうかくらい?

 色はちょっと灰色がかった黒で目は蜘蛛と同じくらい複数の赤い目。足も8本くらいありました。


蜘蛛蟻ゾルクか……傷をつけずに退散させるのは少し厄介だ」

「ま、魔獣ですか?」

「いや、四凶達と似た聖獣の類だ。ただ、自身の巣穴に無断で侵入した者には容赦ないと聞く」

「あ、穴に吸い込まれただけなのに⁉︎」

「奴が掘った巣の端が脆くなっていたせいだろうが。念話の交信も出来ないからな。上はもう塞がれているからあちら側へ向かうしかない」


 と言うことは、戦闘は避けられないんですね?


「重傷を負わせなければ、自己治癒力でいずれ治る。絶対そこから動くな」

「はい」


 僕なんかは非戦闘員もだけど、訓練なんて一度も受けてないので対処出来ないもの。

 だから前を見ないように回れ右をして耳を両手で塞ぐ。

 出来るだけ怖いものは耳に入れたくないビビりだからです! セヴィルさんの戦闘シーン拝んだって僕には色々とトラウマになりそうだから見ません!

 詠唱しながら魔法を飛ばす音や金属音に似た挟み込み音が聞こえても前を向かないよ?

 それから5分か10分経ったかはわからないが、とんとんと肩を叩かれたので振り返った。


「動けなくした。今のうちに行くぞ」


 と言って何故か僕を姫抱っこしてから、駆け足で蜘蛛擬きなのから逃げることに。

 ちらっと見たら、ぷすぷすと焦げ臭い匂いを放った奴がおりましたとさ。

 しかし、それからが大変でした。


「……どこでしょうね」

「……こうも入り組んでいては」


 僕達絶賛迷子になりました。

 さっきの蜘蛛擬きの巣は行き止まりの一つだったようで、僕とセヴィルさんが進んだ先は蟻の巣のように迷路となって出口がわかりにくいことになってます。


「上ってどっちでしょう?」


 単純にそれっぽい道を歩いてもそれが正解かはわからない。


「……苦手だがやらざるを得まい」


 僕を下ろすと、セヴィルさんはしゃがんで地面に手を置いた。


「……我が魔力を伝えよ、流せ、導け」


 すると、ほわんってセヴィルさんの手が青く光り出し、その光が前に伸びるかと思えば後ろにレーザー光線のように細く伸びていった。


「……成功か。あちらへ行くぞ」

「はい。今の、どんな魔法なんですか?」


 歩きながら聞けば、セヴィルさんは少し苦笑いした。


「俺の魔力を一部使って、目標物にまで道を繋ぐようなものだ。緻密な制御が必要故にあまり得意ではないが」

「今回は成功でしたね!」

「ああ。標的をあえてフィルザス神にしたのもあるだろう。あちらもすぐに気づいただろうから手を貸してくれただろうが」


 フィーさんなら指パッチンなんかでほほいのほいの要領だものね。

 光を辿ってしばらく真っ直ぐだったり曲がったり上がったり下りたりを繰り返していましたが……またもや危険に遭遇しちゃった。


「……さっき、セヴィルさんがなんとかしてくれましたよね?」

「……どうやら番で住んでるようだな」


 さっきのと今目の前にいるのどっちがオスメスかわかりませんが、ピンチに変わりない。

 進行方向の光は蜘蛛擬きの向こう側なんで、また戦闘不能状態にするしかないです。

 僕が少し下がって後ろを向けば、セヴィルさんが素早く対応してくれました。


「次はないと思うが、少し急ぐぞ」


 また黒焦げにさせたセヴィルさんは、そう言ってから躊躇うことなく僕を姫抱っこして駆け出した。

 僕も恥ずかしがってる場合じゃないので大人しくしていましたが、ある角を曲がった時にセヴィルさんが珍しく何かに滑って僕を落とさないように抱き込んだ。


「……だ、大丈夫か?」


 それはセヴィルさんの方がと言いたかったんですが、口が何か柔らかいのに押し当たっててもごもごとしか動かせない。


(なんかあったかい?)


 巣に落ちた時の温かさとも違う、布じゃないしプルプルしてるし……少し、人肌に近いような……人肌?


(ま、ままま、まさか⁉︎)


 一体どこに⁉︎とゆっくり目を開ければ、唇は回避出来てました。

 ツルツルプルプルなのは頬っぺたでした。これってセーフ?


「……か、カティア」


 セヴィルさんも気づいたようです。

 お顔は絶対見ません。色々と見れませんよこんな状況下で!


「…………邪魔だったか?」


 あれ、セヴィルさんじゃない声?

 これには起き上がって振り向けば、軽装の騎士服を着用しているサイノスさんが立っていました。他には誰もいなくて、サイノスさんはちょっと苦笑いしながら頬を掻いていた。


「さ、サイノスさん?」

「いや、悪いな?」

「……からかっている場合じゃないだろう」


 セヴィルさんも起き上がってから僕を膝上に下ろしてくれました。何故その位置?


「側から見りゃ幼子に抱きつかれてるようにしか見えんな?」


 それは外見上仕方ないことですが、ちょっと傷つきますよ?

 だがそれはすぐにサイノスさんも気づいて『悪かったな』と僕の頭を撫でてくれました。


「んじゃ、フィー達のとこに戻ろうぜ」

「他は?」

「あとは四凶だけだ。こっちが動けばすぐに気づくだろ」


 ここからは歩かずに転移魔法で戻ることに。

 何故出来なかったのは、セヴィルさんが札を持っていなかったのと札なしで行使する時は大量の魔力が必要だとか。戦闘する必要が一回目もだが二回目も避けられなかったので、フィーさんと繋ぐのが精一杯だったみたい。

 戻ったら、速攻でクラウに抱きつかれた。


「ふゅふゅゆぅ!」

「ただいま、クラウ」


 よしよし撫でてあげれば、猫のようにごろごろと気持ち良さげになった。


「しっかし、蜘蛛蟻ゾルクねぇ」


 フィーさんは僕らが落ちた穴を見ていたが、いつもの指パッチンで何かをしたようだ。


「ここは塞いだけど、この結晶どうする? 僕が掘り起こそうか?」

「ど、どうします?」

「クラウが欲しがってただけだからな」


 なのでクラウを見れば左右に首を振ったので、それはそのままにしておくことに。

 さすがに僕とセヴィルさんが地面に吸い込まれたのは衝撃的だったろうから執着するのをやめたようだ。

 それからほかの無難な結晶体をたくさん掘り出して袋に詰め込んで、お城に帰りました。

 その数日後の寝る前に、何故か僕の部屋にセヴィルさんがやってきたんですが。


「……渡したいものがある」

「僕に、ですか?」


 なんだろうと思ってたら手を出すように言われたので両手を前に出した。

 そこに乗せられたのは、小さなハート型のブローチでした。


「え、え? これって?」

「巣に落ちた時に見つけた原石で加工したものだ。今日出来上がってな?」

「い、いいんですか?」

「お前にしかやらない」


 きっぱり頷かれたので、僕は単純だから嬉しくなっちゃった。


「大切にします!」


 そのブローチは、その後青いチュニックの時にはいつもつけるようになりました。

 当然皆さんにはからかわれて、サイノスさんにほっぺにキスをしてるのを見つかった以上にセヴィルさんと一緒に慌てる羽目になるのはもう少し先のこと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る