2017年10月31日ーーハロウィンはお城探検part6

 だが、ここに来た目的は果たさなくては。


「エディオスさん、セヴィルさんトリックオアトリート!」

「ふゅゆゆ!」


 多分最後になるだろう台詞を言えば、エディオスさんもだがセヴィルさんも軽く口端を緩めた。


「いたずらは勘弁願いたいな?」

「俺はいいぞー?」


 それぞれ違う言葉を告げたと同時に、エディオスさんは挑発するような手招きをされて、セヴィルさんは魔法でお菓子の詰め合わせが入ったミニバスケット(ご丁寧にジャックオランタンの形をしている)を僕の前に差し出してきた。


「ありがとうございます」


 中身を落とさないように自分の籠に閉まってから、クラウを指した。


「クラウー、遠慮なくやっちゃえ!」

「ふゅゆ!」


 ぴこっと右手を上げてから、クラウはエディオスさんに突進していった。

 そして、マントの中に入ってお約束のくすぐり攻撃。


「あ?…………あひゃひゃひゃ⁉︎ ちょ、く、クラウ! や、やめやが……あははははは!」

「ふゅゆ、ふゅーぅ!」


 僕の指示通りに、クラウは容赦なくエディオスさんをくすぐっていたずらを遂行している。

 あの攻撃ってすぐに終わりそうだけど、実際は5分くらい続くんだよね。こう言う時だけは指示できる主人で良かったと安心しちゃう。


「……あれは、されなくてよかった」


 セヴィルさんの大笑いってどうなんだろう。

 ちょっぴし興味あるけど、あとが怖そうだからすぐに想像するのをやめました。

 それからたっぷり5分過ぎて終わりを迎えた時には、魔王様は膝をついてお腹を抱えてうずくまっていた。

 どうやら、笑い過ぎて腹筋が痛くなったそうな。


「ひぃーーっ、お前やるなぁクラウ」

「ふゅぅ」


 エディオスさんの言葉に、クラウは胸?を張って大きく反り返った。

 本当にああいう仕草とかどこで覚えたんだろ?

 普段は僕とほとんど一緒なのに……多分、フィーさんとかだな。


「んじゃ、菓子だったな。でかいのもあんが、持ってなくてよかったぜ」


 と言って執務机の方に向かい、下の引き出しから何かを取り出した。

 黒くて大っきい紙箱でした。サイズ的には籠にぎりぎり入りそうなくらい。

 頑張ってエディオスさんと入れたらなんとかなりました。


「最後は食堂ですね!」


 長い長い練り歩きもようやくラストだ。

 結局フィーさんとは会わなかったが、ほんとどこにいるんだろ?


「俺達も行くぜ? そこには同行しろってフィーが言ってたしな」

「ああ」


 と言うことで、戸締まり貴重品を確認?されてから三人と一匹で食堂に行くことに。

 この時間はあんまり廊下を通ることがないのか誰ともすれ違わなかった。それには少しほっと出来た。

 僕はまあいいかもしれないが、王様と宰相さんが普段と違った仮装された姿を目にしたら、お城勤めの人達の目が丸くなるだけで済まないもの。

 ただでさえ、神々しいのからかけ離れた悪の権化の象徴揃い踏みだからね。


(エディオスさんだと狩人とかが似合わなくもないけど……)


 それだと初対面の時のあの服装がそれみたくなるから普段着と変わりなかったかも。

 いやまあ、魔王コスチュームは似合わないどころか似合う方だけど。

 いかつい恰好だから動きにくそうに見えるのに、そこは王様の正装の方で慣れてるのかごく普通に動けてる。対するセヴィルさんはぴっちりとしたズボンに慣れないのか少し歩きにくそうでいた。


「結構もらったのか?」

「う?」


 エディオスさんに聞かれたので何を?と最初は首を捻ったが、すぐにお菓子のことだとわかって頷いた。


「アナさんのお菓子だけは預かっていただいて、他は全部この中です」

「「アナのだけ?」」

「大き過ぎたんですよー。ファルミアさんが作ってくれたカルキントのパイだったんですけど」

「ちっさくなかったのか?」

「なんか、少し趣向を凝らしたパイらしいんですが」


 あとでいただく予定ではいるので、その時にでも切り分けよう。

 他の場所での出来事を話しながら歩いていたら、すぐに食堂に到着しましたが……エディオスさんの執務室以上にデコレーションされた扉とご対面になった。


「ここがメイン会場っぽいですね」

「俺らもあんま聞いてねぇな?」

「ああ」

「ふゅふゅぅ!」


 クラウはオーナメントが気に入ってるのかペシペシと軽く叩いていた。大した力じゃないので好きにさせています。

 けど、ここでじっとしてる場合じゃないからクラウを抱っこしてから開ければ……


「「「「「『ハッピーハロウィン‼︎』」」」」」


 掛け声と同時にクラッカーが鳴って、僕達に紙吹雪やテープが飛んできた。


「ぴょ⁉︎」

「ふゅぅ!」


 中には他の階層にもいた皆さんがいらっしゃって、全員がクラッカーを持っていました。

 食堂もいつものシンプルな飾り付けが一変して、ハロウィンカラーオンパレードのモールやコウモリとかジャックオランタンなどの数珠つなぎモールなんかが、天井やシャンデリアとか壁に吊るしたり貼られていた。

 机もオーナメントやお菓子がたっぷりありました。

 あれは多分マリウスさん達の力作だろう。丸ごとかぼちゃプリンとか夢のようなものまであったが、それはファルミアさんだね。地球じゃそう言うのあったから。表面はチョコで加工したジャックオランタンの顔になってるとか芸が細かい。


「やーっと来たねー!」


 飛び出してきたのは仮装魔法以降出会わなかったフィーさんだ。

 彼は幼稚園児や小学生ならって感じの、ジャックオランタン風のかぼちゃパンツと帽子に加えて猫耳と尻尾をつけた猫男?と言う可愛らしい仮装だ。

 見た目美少年だからこう言うのが実によく似合うよね。


「時間かかるのわかってたけど、もうちょっとかかってたらさすがに呼びに行こうとしたけど」

「これ、ハロウィンパーティーですか?」

「そうそう。仮装した子だけしか参加出来ないけど、すごいでしょ?」

「はい」


 食事系は少ないが、オーソドックスなものからすべてハロウィン仕様のデザートばかりだ。

 その中央には、アナさんに預けておいたパンプキンパイが切り分けて置かれてもいた。多分、初めからこうするつもりだったのかも。


「マリウス達と僕がほとんど作ったんだー。皆に預けておいたお菓子もだいたいね?」

「フィーさんが?」


 それで参加側にはいなかったんだ?

 マリウスさん達を見れば、マリウスさんはフランケンシュタイン。ライガーさんがミイラ男でした。あれで作ったんじゃないよね?


「君に渡したお菓子は君のだけど、カルキントのパイだけは進呈してくれるかな? ミーアに教わった余興があるからね」

「余興?」

「ふゅ?」


 クラウと首を捻ったが、いい加減中に入ってと促されたのでエディオスさん達と一緒に席に着いた。

 座ってないのはコックのメンバーですが。まあ、立場上難しいのはしょうがないから気にしないでおきます。

 全員が席に着いてから、一番動きやすい恰好でいるフィーさん自らパイを取り分けてくださって、立っている人達にもひとつずつ配っていく。


「ミーア、説明いいかな?」

「わかったわ。このパイにはカルキント以外にそれぞれ違うものが入っているの。その中身ごとに運勢を占う習わしがあるわ。わかってから言ってちょうだいな」

「ああ!」


 クリスマスにやるようなケーキ占いのことか。

 異世界知識を披露出来ない面々もいるから言わないでおくけど。

 味付けは全体的に甘いお菓子が多いので、香辛料でスパイシーに仕上げているようです。


「おいひい!」

「ふゅふゅぅ!」


 ちょっとピリ辛だけども、かぼちゃの甘みが程よく効いてるからちょうど良かった。ひょいぱくひょいぱくと食べ進めていれば、カツンと固いものがフォークに当たった。

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