2017年10月31日ーーハロウィンはお城探検part5
次はお借りしてるゲストルームの隣にあるアナさんのお部屋だ。
ここには本人しかいないだろうと思ってる。
「アナさんはどんな仮装なんだろうねー?」
「ふゅ」
妖精の女王様の仮装以上にお似合いのになるとなんだろう。
アナさんもファルミアさんくらいに美女だから、ハロウィンの定番だと何になってくるのかな? 打ち合わせには僕は少しだけしか参加していないから、詳しい内容のほとんどはファルミアさんの前世知識からだ。
色々予想しながら自分の部屋を通り過ぎてアナさんの部屋に着くと、お馴染みのようにノック。
今度は勝手に開くことはなくて、アナさんがお返事をしてくださってから開きました。
「ハッピーハロウィンですわ、カティアさん」
「ハッピーハロウィンです!」
「ふゅ!」
なんと言うことでしょう。
予想外も予想外。
アナさんは全身を人魚に変化……してるように見せたマーメイドドレスに身を包んでいた。
一瞬錯覚しかけたのは本当だよ?
青と緑のグラデーションに、マーメイドライン?レース?を組み合わせた豪華なドレス。元いた世界じゃ、ウェディングドレスでも肩を出すのが多いデザインだけど、この世界じゃ未婚の女性は肩出し厳禁だそうなんで、薄い銀色の大判ストールを羽織っています。
髪にはティアラはなくて、白のレース生地で出来たこちらもマーメイドラインが特徴のベールをつけていた。
髪が深紅だから、こう言うデザインのドレスを着ていたら人魚姫の人間verに見えるね。
その前にこの人は王女様だけども。
「人魚姫ですね!」
「そのようですわ。半人半魚の種族はこちらですと
「……異種族いたんですか」
お城をほとんど回ってないから見かけたことはないけど、モンスターや神獣なんかがいる時点で普通じゃないもの。いつか、会ってみたい。
「中に入りましょう? お菓子は奥においてありますの」
先に入るように促されたので遠慮なくクラウと入れば、わかりやすいくらいに大き過ぎる白い紙箱が机に置かれてました。
「さあ、あちらをご所望でしたらどうされますか?」
「もちろん、トリックオアトリート!」
「ふゅゆぅ!」
「ふふ。いたずらはご遠慮願いたいですから差し上げますわ」
けど、あれはさすがに亜空間付き籠に入れようにも入り口から入らないだろう。
なので、休憩がてらここで見させてもらうことにした。
「……わぁ!」
「ふゅぅ!」
紙の蓋を取れば、中にはシンプルなパイが鎮座していた。
香ばしいバターの香りに混じって、かぼちゃの甘い匂いもする。
「パンプキンパイですね!」
「パンプキン?」
「あ、えーと……かぼちゃってこっちじゃ何でしたっけ?」
あんまり使うことがなかったからだど忘れしている。
「このお菓子の主役はカルキントと言うものですが……パンプキンとは可愛らしいですわ」
「向こうと呼び名がかすりもしないですね……」
「ファルミア様がお作りになられたようですが、少し変わった仕掛けをされてるとか」
「仕掛け?」
ぱっと見なんにもないように見えるが、中身が工夫されてるのだろうか。
だが、今食べる訳にもいかないのでこれはアナさんに一時的に預かってもらうことにした。
「食堂以外にもう一箇所あるんで行ってきまーす!」
「わかりましたわ」
「ふゅぅ!」
ゴール手前の場所に向かうべく、アナさんのお部屋を後にした。
場所はちょっと今行って大丈夫かと心配するところだったが、フィーさんが企画したのだから大丈夫だと信じよう。
そこに行くまでフィーさんと遭遇するかと思ったが、結局は誰とも会わずに着いてしまった。
「……やっぱりここなんだ」
一部の部屋の扉に取り付けられていたハロウィンのオーナメント。
ここは、ジャックオランタンもだけど……色々あった。
魔女。
布おばけ。
フランケンシュタイン。
コウモリ。
あと悪魔。
「なんか最終ステージを思い浮かべちゃうね?」
「ふゅぅ?」
クラウには当然わからないだろうが、僕がそう思っただけなので気にしないでと頭を撫でておいた。
とりあえず、ここでもノック。
ギィイイイイイイイ!
ノックし終わったら、ファルミアさん達のところ以上に音を立ててゆっくりと開いて、中からスモークが溢れ出て足元を覆っていく。
これ絶対ボスステージとかのゲームシナリオ参考にしてないか⁉︎
「よく来たな、小さき魔女よ!」
そしてお決まりのような台詞が僕の耳に届いてきた。
顔を上げれば、奥の執務机に堂々と座っていらっしゃる……魔王様がおりました。
牛に似た黒い角に、髪や眼を除けば全身黒装束。
フィーさんとはまた違う形のマントを羽織り、革のような材質の軽鎧と防具まで真っ黒。胸から下は見えないけど全部真っ黒だろう。
「エディオスさん」
「ふゅ」
「よっ」
魔王コスチュームに身を包んだエディオスさんは、僕が呼べばいつも通りの態度に戻った。
執務室なのに他の御付きの人達やセヴィルさんもいない。
とりあえず開けっ放しもいけないので閉めようとしたら、エディオスさんが指を鳴らして閉めてくださいました。
「エディオスさんだけですか?」
「いや、ゼルはいるぜ?……おい、いい加減出てこいよ」
どこに声を?とエディオスさんが向いたところを僕も見れば、彼の背後にある大窓のカーテン脇に黒い影が一つあった。
(あの綺麗な長い黒髪は間違いなくセヴィルさん!)
ただ、エディオスさんが言うように何故出てこないのだろうか?
考えられる理由としてはいくつか思いつくが。
「フィーさんに変な恰好をさせられたんですか?」
「いや? 俺と少し似てんが悪くないと思うぜ?」
「エディオスさんと?」
似ててセヴィルさんにお似合いとなれば、ハロウィンの定番中の定番かもしれない。
「ヴァンパイア……吸血鬼ですか?」
「たしかそうだったな? おーい、バレたんだから素直に出て来いって」
来い来いとエディオスさんが手招きすれば、動かないでいた影がこそっと動き出した。
「…………変、ではないか?」
「……………」
恥ずかしがる声と仕草よりも、僕は彼の仮装に目が釘付けになった。
服装は定番中の定番なヴァンパイアの装い。
タキシードのような服に裏が赤地の黒いマント。ファルミアさんよりは少し尖が短い耳に、紅い唇から覗く犬歯のような牙。
シンプルだからこそ似合うと言うべきか。似合い過ぎている。
実は、セヴィルさんだとヴァンパイアかなと予想していたんですが、こうも想像通りに似合い過ぎるのを目にしちゃうと言葉にするのが難しい。思わず、口があんぐり開いちゃうくらい。
「ふーゅぅ!」
僕の心情を知りもしないクラウの方は、セヴィルさんの方に飛んで行って彼の周りをくるくる回っていた。
「……カティア、見惚れてんのはいいが返事してやれよ?」
「み、みみみみみとれ⁉︎」
「お前ら婚約してんだからおかしくねぇだろ?」
だからって、普通恋愛してる間柄じゃないので変なことを言わないでください!
けど……見惚れていたのは本当なので照れ隠しだ。
「と、ところで、他の人達がいないのはどうしてですか?」
僕が疑問に思ってることを聞けば、エディオスさんは口端を上げてから大口を開けた。
「ふっふっふ……ある程度片付けたからな! 今日はこの恰好でいるために半日休養させてんだ! あいつらはさすがに休みじゃねぇから別の奴らの方に回ってるがな」
「お休みですか?」
「それでも、重要案件だけはするようにここで待機だがな」
クラウを連れながらセヴィルさんもこっちにやってきた。どうやら開き直ったみたい。
美形吸血鬼が近づくにつれ、心臓のドキドキが加速していくが落ち着こうと何度も深呼吸をする。
「……しかし、カティアの装いは魔法師に近いな?」
ライアさんに言われたことと同じ言葉を口にされた。
「魔女って聞いてたが、俺らの知ってる絵本なんかよりはガキ向きだな?」
「外見に合わせた恰好ですしね」
お子ちゃま外見だから着れるものだともう割り切ってますよ。
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