2017年10月31日ーーハロウィンはお城探検part4
◆◇◆
中層も終わったので、階段をゆっくり上りながら上層に戻っていく。
転移が使えればこんな長い階段を上る必要はないが、出来ないものは出来ないので疲れない速度で足を動かすしかない。
まあ、外見より多少の体力を持ってるからこれくらいでは疲れないけど。
「到着、っと」
「ふゅ」
最後の階段を上ってからクラウとうーんって伸びをした。ほとんど休まず歩いたりしてたから、ちょっと休憩。終わったらあったかいコフィーを飲みたいとこだ。
「あと何箇所あるかなぁ?」
人数はもう少ないが、一つのとこにいる可能性は低い。
それを示すように地図のマークもあと数個あったからね。
今いる大階段から近いところは、食堂を除けばゲストルームが並ぶ区画辺りだった。
だとしたらファルミアさんとユティリウスさんだろう。
「やぁ、その恰好はカティアちゃんだね?」
「あれ?」
「ふゅ」
いきなり声を掛けてきたのは、しばらく会っていない人だった。
声の方に振り向けば、僕は少し驚いてしまう。
「……ラディンさん」
「うん?」
「ラディンさんも、フィーさんに巻き込まれたんですか?」
そうとしか思えないくらいに、いつもの緑のコックスーツじゃなくて『仮装』していたのだから。
「あ、そうそう。フィーがせっかくだからって言うからね」
どう言う恰好かと言うと、サイノスさんとは違う形の獣耳に毛先が少し白い黄土色の尻尾。服は僕には馴染み深いが、こっちの世界に来てからは一度も見たことのない『和服』だった。それでも、普段着では着ないコスプレとか仮装らしい男性用の巫女服ではあったが。
けど、ラディンさんによく似合っていらっしゃいます。フィーさんの仮装プロデュースは今のところハズレがないから、見ていて楽しくはあるが。
「クラウちゃんも仮装かぁ? うん、可愛いね」
「ふゅ!」
久しぶりに会うラディンさんに頭を撫でてもらってるクラウはご機嫌さんだ。僕も空いてる手で何故か一緒に帽子の上から撫でられてますが。お子ちゃまだからそう言う対象なのは仕方ない。
「さて、ちょっと予定外ではあるけど趣旨は聞いてるよ? 僕にもおねだりしてごらん?」
と言って両手を広げられたので、僕は籠を抱え直してから口を開けました。
「トリックオアトリート!」
「ふゅぅ!」
「いたずらは嫌だから、お菓子を上げようか」
すると、右手を上に向けたかと思えばぽんっと音が鳴って、彼の手の上にペロペロキャンディが数本現れた。
「全部ほしい? 好きなのが良い?」
「えーっと……」
「ふゅふゅぅ!」
僕が選ぼうとしていたら、クラウが目の前に割り込んでラディンさんの右手にしがみついた。
「クラウ!」
「クラウちゃんは全部欲しいかな?」
「ふゅぅ!」
「欲張り過ぎだよ……」
他にもあれだけお菓子をもらったのに、底なし胃袋だからいくらでも欲しいのだろう。
ラディンさんもそのことは知っているので、クラウには持てないから僕に全部で6本のペロペロキャンディを渡してくれた。
「いっぺんにはダメだよ?」
「ふゅぅ?」
「多くて一日一本だからね」
「ふゅぅ……」
僕がめっと言い聞かせれば、わかりやすく翼と耳をしょげたのでラディンさんと苦笑するしかない。
「他のお菓子は全部その籠に?」
「フィーさんの魔法で、見た目以上に入るようにしてもらってます」
「ああ、それはフィーくらいしか無理だからね。じゃ、僕はちょっと用があるから行くね」
「そ、その恰好でですか?」
物凄い目立ちやしないだろうか。
けれど、彼は大丈夫大丈夫と口にして僕が来た方向に行ってしまった。
「ご自分が王子様オーラ放ってるのわかってるのかなー?」
「ふゅー?」
ユティリウスさんより正当王子様風のイケメンさんなんだから、僕が練り歩きしてた時以上に注目の的になるのに。
でも、もう行っちゃったのと本人が大丈夫と言うから気にしないでおこうと、本来の目的地に向かう。
まだ片手で数えるくらいしか行ったことがない場所なので、地図頼りに進んだ。
「ここ過ぎて……あ、ここかな?」
四凶さん達の時みたくハロウィンオーナメントがあって、コウモリとジャックオランタンに布おばけが出迎えてくれた。
ここも一応ノックしよう。
「……え?」
3回ほどノックしたら、勝手にこちら側に開いてしまった。
思わずぽかーんとしていたら、中からくすくす笑う男女の声が聞こえてきた。
「わかりやすいね?」
「カティだもの」
声にはっとして中を覗けば、仮装されたヴァスシード国王夫妻がくすくす笑っていた。
「ふゅぅ!」
先に覗いてたクラウが翼をパタパタさせながら中に入って、ユティリウスさんの方に飛んでいった。
「やぁ、クラウ。随分と可愛らしいね」
「金の翼だから、天使だけど。今のあなたの恰好にはお似合いの相棒じゃないかしら?」
「ああ、精獣の一種にこんな感じのがいたね。それが、ティンカーベル?」
「ええ、そうね」
お二人の仮装はいつもと大分違っていた。
チャイナ服が正装や普段着でいるのが、完全にこの国向きの衣装。
けど、ユティリウスさんは王様なのに狩人に似た服装だ。と言っても、全体的に緑っぽくて帽子にはオレンジの鳥の羽根。靴もブーツと言うより布の足先がとんがったタイプ。朱色の髪は首の付け根から三つ編みして前に流していた。
従者の妖精がいないけど、まさに。
「ピーターパンですね!」
近くで見れば見る程再現率が高い。
袖とかは秋だから半袖じゃないが、それにしたってピーターパンそのものだ。
「そうらしいね。なんでこれかはわかんないけど」
何故って、あなたはフィーさんの次に子供っぽいからじゃないでしょうか。
本人の前で言いにくいから言わないでおきます。
「ファルミアさん、お綺麗です!」
代わりにじゃないけど、奥さんのファルミアさんの仮装を見て拍手した。
「ありがとう。けど、ドレスって慣れないから重いのよね……」
ファルミアさんはチャイナドレスの代わりに、アナさんの正装並みに豪奢な暗色のドレス。黒がベースで、ところどころ紫やオレンジと言ったハロウィンカラーのレースや刺繍が施されたものだ。髪は少しカーリングして流しています。
ただ、そこから覗くお耳はエルフのようにとんがってるけど、つけ耳じゃなくて魔法で変化させたのかも。ぴくぴくって動いてるからね。
あとは彼女の目の色に合わせたエメラルドのような宝飾も身につけてて大変豪華だ。
「なんの仮装ですか?」
「妖精の女王、ティターニアよ。リュシアには別の恰好にさせるからって私が引き受けたの」
「ほえー」
アナさんでも似合うだろうけど、彼女には別の恰好をさせるってどんなのだろうか。
「さあ、カティ。今日の主役はあなたよ? 私達にしてほしいことがあるんじゃなくて?」
「あ」
そうでした、和んでる場合じゃなかった。
ユティリウスさんからクラウを受け取って、しっかりと口を開けた。
「トリックオアトリート!」
「ふゅゆ!」
「「いたずらは困るからお菓子をあげましょう」」
同時に同じ言葉でそう言われると、ラディンさんの時のように魔法で何もないところから大きな紙箱を取り出して二人で抱えられた。
「時短で作ったけど、私の手製よ。あとで皆で食べましょう」
「はーい」
「ふゅ」
籠に入れてもらってから、僕らはゲストルームを後にしました。
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