2017年10月31日ーーハロウィンはお城探検part3

 中層の食堂を後にして、地図を見ながら進んでいく。


「ここを曲がって……こっちに行けば?」

「ふゅ?」


 とことこと歩いて目的の場所に到着すると、大部屋より比較的小さい扉があって上にはジャックオランタンのオーナメントがついていた。


「絶対ここだね」

「ふゅ」


 この部屋の用途は知らないが、こんなあからさまに目印があるなら間違いないだろう。

 背伸びをしてノブに手をかけたらすぐに開ける。

 ……そしてすぐに閉めた。これ前にもやったが、相手が相手なのでしょうがない。


「ふゅ?」

「……ちょっと深呼吸させて」


 出来るだけ大きく長く深呼吸を繰り返したが、向こうはきっと待ってはくれないだろう。


「よしっ」


 気合も入れて再度挑戦?

 ゆっくりと扉を開ければ、向こうには黒い影が固まっていた。


『……ハッピーハロウィン』


 複数の声が同時に聞こえてきたが、これまで会った方と比較するまでもなく感情がこもっていない。

 元々そんなに感情を表に出さない人達だから無理ないのもあるが。唯一出す時は食事の時だけだもの。


(しかし、ホスト集団になんて恰好を)


 一瞬彼らの本性を思わせるような装いだ。


窮奇きゅうきさん、その恰好はフィーさんがですか?」


 比較的話す回数が多い四凶しきょうのまとめ役である窮奇さんに尋ねてみた。

 全員顔にメイクをされているが、窮奇さんはしっぶい顔立ちに紫や赤なんかのアイシャドーを塗って、服はいつもの真っ白なチャイナ服でなくエディオスさん達のような洋装をボロボロにさせたものだった。それは他の三人も同じ感じで、テーマはなんとなくしかわからない。


「……ああ。異界の死霊の類と言っていたな」

「と言うことは、ゾンビ?」

「たしかそう申していた」


 何故この美形集団にそんな恰好を?

 まったく似合ってないわけじゃないけども、更に着飾るか元の姿に戻すよりはマシだからか。

 主人のファルミアさんは衣装プロデュースに口出しされたかはわからないが、本人ご一緒かと思ってたけどいないみたい。旦那さんのユティリウスさんと一緒かな?


「して、カティア。我らにも菓子をねだりにきたのではないのか?」

「うっ、はい」

「ふゅゆ!」


 クラウはさっきから饕餮とうてつさんにあやしてもらっていた。

 美形で無愛想だけど、面倒見が悪い人?達じゃないからね。クラウを頭に乗せてもらってから皆さんを見上げた。


「と……トリックオアトリート!」

「ふゅゆ!」

『いたずらは回避する故に菓子を渡そう』


 全員息ぴったりに言ってからお菓子を差し出してくれたのは、ゾンビメイクが一番濃い渾沌こんとんさんでした。

 四人分だからか大きい茶色の紙袋を渡されたが、一人じゃ亜空間付きの籐籠に入れれなかったので、檮杌とうこつさんが手を貸してくださってなんとか押し込んだ。


「じゃあ、失礼します」

「ふゅ」


 この後どうされるかはわからないが、とりあえず退室させてもらう。

 皆さんは無表情で小さく頷いてから僕とクラウを見送ってくれました。


「中層はあと一箇所だね」

「ふゅぅ」


 待ち構えてる人は一人か複数かはわからない。

 けど、この区画でもう一箇所となると大体予想はついていた。なんで四凶さん達は固まって待機してたかは不明だけど。


「ここを曲がって、こっち行って……あ、やっぱりここか」


 ここは勝手に開けるわけにはいかないのでノックした。

 少し待っていると、騎士服を着たお兄さんが出て来て僕らを見ればにっこりと笑ってくれました。


「将軍がお待ちかねだよ。どうぞ」

「お邪魔します」

「ふゅ!」


 手招きされて、将軍さんの執務室に入れば奥にいた人が仕事をしながら手を軽く振ってくれた。


「よく来たな? 似合ってるぞ二人共」


 カチューシャか生やしたかわからないが、ふさふさの獣耳に灰色の尻尾。

 服装は毛皮スタイルじゃないけど、ところどころに尻尾と同色のファーを使ったジャケットとぴったりフィットしているズボン。手はお仕事されてるから普通だけど、代わりに爪が黒くなって少し長い。

 なんか現代風な狼男だ。

 似合ってるからいいけども。


「サイノスさんもかっこいいですよー」

「ふゅ!」


 クラウもこくこく頷いてから彼の胸に向かってダイブしていった。

 勢いよく飛びついたにも関わらず、体格の良いサイノスさんは難なくキャッチされました。

 狼と天使って構図はちょっと不思議だ。


「あんがとよ。実は、俺だけじゃないぜ?」

「ほえ?」


 誰が?と、彼が親指を向けた方向を見れば……いらっしゃいました、一人だけ。


「……何故俺まで」


 髪に合わせて少し濃い目の緑のシルクハット。

 その帽子には数字の書かれた紙に僕のようにハロウィンのオーナメントやトランプのカードのブローチ。

 右目には銀縁の片眼鏡。服装は帽子の色に合わせた燕尾服だ。

 これってハロウィンと言うより、コスプレだよね?

 けど仮装自体がコスプレ? あれ?


「ジェイルさんよくお似合いですよ」


 似合ってるのは本当なのでしっかり告げる。

 すると、不機嫌でいたマッドハッターさんはきょとんと目を丸くされた。


「そう……だろうか?」

「はい、とっても」


 頷くことで強調すれば、ジェイルさんは少しほっぺを赤らめながら軽く咳払いされた。


「ありがとう、カティア嬢」

「いいえー。では、トリックオアトリート!」


 サイノスさんにもだけど、仮装されてるからには対象者だもの。

 僕が合言葉を言えば、イベント内容はあらかた聞いてたのか、ジャケットの内側に手を入れて二つの小さな紙袋を取り出した。こっちはリボンがついている。


「いたずらは敵わんからな。中身はあとで見てくれ」

「はーい」


 ささっと籠に入れてからサイノスさんの方に向かえば、既に椅子から立って仁王立ちで待ち構えていた。

 ただ、クラウが肩にしがみついてるから迫力が半減してるのは内緒。


「トリックオアトリート!」

「ふふ、どうせならいたずらしてみろよ。菓子はちゃんと渡すから」

「えー……」


 すんなり渡してくれるかと思いきや、意外とノリノリでいらっしゃる。

 って、よく思い出せば過去の悪ノリの大半に参加してたなこの人。イシャールさんともたしか同世代だったから悪友らしいし。


「……じゃ、クラウ。遠慮なくやっちゃって」

「ふゅ!」

「お?」


 クラウはぴこっと右手を上げて、ジャケットに潜り込むと思いきや何故か頭に向かって獣耳にかぶりついた。


「ちょっ、うひゃ⁉︎」

「ぶゅぶゅぅ!」


 クラウがはみはみしていくにつれ、サイノスさんが体をくねらせ、感覚が繋がっているような反応をし出した。

 やめさせようと手を伸ばすも、反対にクラウが飛んで移動するとか尻尾にまでかぶりつくなどと繰り返してくすぐっていく。

 イシャールさんの時以上のリアクションに僕もだけどジェイルさんや騎士の皆さんまで唖然してしまった。

 さすがにやめさせようと僕やジェイルさんも参戦し、尻尾にしがみついた時に僕がクラウを引き剥がせたことでようやく終われた。


「もうダメだよクラウ!」

「ふーゅぅ?」


 もっと触っていたかったのか、手足をジタバタさせていたけどダメだと言い聞かせて諦めさせた。


「ひーっ、久々にやられたな? フィーが生やしたがこうまで感覚が繋がってるとは思わなかったぜ」


 少し涙目になりながらも、サイノスさんは執務机に戻って引き出しから何かを取り出した。


「ほいよ、約束の菓子だ。一応ジェイルのとは違うらしいが」

「ありがとうございます」


 僕の両手にすっぽり収まる大きな紙袋には、紫とオレンジの二本どりのリボンで縛ってあった。

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