2017年10月31日ーーハロウィンはお城探検part2

 クラウが散々シェイルさんにくすぐり攻撃をしてから、ライアさんがシェイルさんを無理に引きずっていくことで僕らは別れました。

 予定外のことだったから、早い事回らないといけない。

 下層の食堂に向かってても視線はずっと集まりっぱなしだったが、無視して扉を開けました。


「うわー、今日もいっぱい」

「ふゅ」


 ティータイムよりは早いけど、まだランチタイムだから人は多い。

 ここはあんまり来る回数が少ないから、コックさん達や給仕さん達のお顔はあんまり覚えていない。

 とりあえず、厨房入り口でいいだろうかと足を進めようとしたが、


「あ、来ました。カティアちゃんだよね?」


 給仕のお姉さんが何故か僕に声をかけてきました。

 見覚えはあるようなないような人ですが、僕のことは知ってるみたい。

 無視するわけにもいかないので頷けば、にっこり笑ってくれました。


「着いたら誰かしら料理長のところに案内することになってたの」


 だからいらっしゃっい、と手を差し伸べられたため、僕は流れるままに自分の手を出せば軽く握られました。


「可愛いわ。料理長も結構凝った恰好をしているけれど」

「ミュラドさんもですか?」


 けどたしか、フィーさんがお菓子配布係には仮装をさせるからと提案していたので、ミュラドさんも巻き込まれたのだろう。となると、いつものメンバーに加えて数人は巻き込んだ形になってるはず。


「カティアちゃん達をお連れしましたー」


 お姉さんが厨房入り口のところで声をかければ、扉は向こうから開いて誰かが飛び出してきた。


「ハッピーハロウィン!」


 出てこられたのはミュラドさん。

 フィーさんに説明した時に伝えたいハロウィンの歓迎文句をミュラドさんが言いながら出てきたんです。

 格好は、紺と赤がメインの……キョンシー。

 髪が真っ青だから実によく似合っています。札はフィーさんが魔法で用意したのか中国文字っぽいので書かれた黄色い紙に赤い字で帽子に貼られていた。再現率が高い。手製じゃなくて魔法だから出来る事だけど。

 さて、出迎えてもらったからには僕も言わなきゃ。


「トリックオアトリート!」

「ふゅゆ!」


 とんがり帽子にしがみついてたクラウも声を上げれば、キョンシーのミュラドさんはにっこり笑って袖口から紙袋を取り出した。


「いたずらは勘弁だから、はい。中身はあとで食べる時に見てね」

「ありがとうございます」


 受け取った時の感触から察するに分厚いクッキーのようなものと感じたが、言われたようにあとの楽しみにしておこう。


「よくお似合いですよ」

「カティアちゃん達もね」


 帽子の上から撫でられてしまったが、悪い気はしないのでてへへと笑った。

 クラウも恰好を褒められてから撫でてもらっていて嬉しそうだった。


「けどこれって、なんか傀儡人形みたいだとは思ってたんだけど」

「そ、そうらしいですね」


 中国のゾンビとは言い難い。

 ゲームやなんかであるような死霊術?と言うのはこの世界であるかわからないが。ハロウィンは日本で言うお盆に近いらしいから、あの世から帰省する先祖達を出迎えるがその列に紛れないようにあえて似た恰好をしておくんだったっけ?

 具体的な由来だったりとかは詳しくないので、日本風の仮装パーティくらいしか僕も参加経験がない。

 大人になってからは、勤め先近くでイベントがあるのでそれに向けての屋台を出店するばかりだったんで、こうやって童心に帰って練り歩くなんて久々だ。


「さて、次は中層かな?」

「うーん、地図じゃ下層はここだけみたいですし」


 エディオスさん達があまり下の区画に来ると大変なことになるから仕方ないもの。

 帰りもお姉さんに手を引かれて入り口まで送ってもらいました。


「中層でも誰かしら迎えに来るでしょうから、その人にも手を引いてもらいなさい」

「どうしてです?」

「君は結構有名人なのよ? それに、今日その恰好だから余計に注目を浴びてるわ。質問責めに合うだけで済まないからね。道中はさすがに気遣ってくれるでしょうけど、食堂とかは気分が開放的になってるから保証できないの」

「き、気をつけます」


 お姉さんの忠告をしっかり耳に入れ、何故か敬礼のポーズをしてから下層を後にした。








 ◆◇◆







 お姉さんの忠告通り、廊下を歩いている間は視線が集まる以外特に何もないでいたが、中層の食堂に着くと下層の場合とほぼ同じように注目の的になった。

 しかし、先に仮装されてたシャルロッタさんが待機してくれてたので、大丈夫っちゃ大丈夫だった。


「ハッピーハロウィンー、カティアちゃんクラウちゃん」

「ハッピーハロウィンです、シャルロッタさん」

「ふゅ!」


 シャルロッタさんの恰好は猫娘かと思ってたら全然違う小悪魔スタイルだった。

 悪魔の象徴のコウモリ翼に先端が三角の触覚はカチューシャでつけていた。服は僕と少しデザインの違う黒のミニスカワンピースで、足は紫のストッキングと黒いブーツで覆われてる。ストッキングに星マークがあるのがオシャレだ。


「さーて、お菓子は料理長が代表で渡すから行きましょうか?」

「はーい」

「ふゅ」


 多分イシャールさんも仮装されてるよね。

 色々思い浮かぶけど、あの容姿だからどんなのでも楽しみだ。

 シャルロッタさんに手を引かれながら厨房入り口に向かうと……既にイシャールさんが待ち構えていた。

 物凄いらしい・・・恰好で。


「よぉ、来たかお前ら」

「ふゅ!」

「ど、どーも……」


 口にした台詞とマッチし過ぎてる。

 全体的に服の色は髪が赤だから臙脂色にさせてはあるが、ハロウィンだと定番にもなっている『海賊キャプテン』の恰好だった。

 様式はピーターパンのフック船長くらいに豪華。帽子も上着も片手が鉤爪なのも再現率がこれまた高い。鉤爪なんてどうやって持ってるんだろ。


「んじゃ、菓子が欲しいんだったら言ってみろよ?」


 この人にいたずらってしにくいんだけどなぁ。


「と……トリックオアトリート!」

「ふゅゆ!」

「ふーん、いたずらだったら何してくれんだ?」

「料理長、そう言う趣旨じゃないはずですよ?」

「ただやるんじゃつまんねぇだろ?」


 やっぱりイシャールさんは簡単にはくれませんか。


「よし、クラウ。やっちゃって!」


 某モンスターゲームと似た台詞を口にしてクラウにお願いしてみた。


「ふゅぅ!」


 ノリノリなクラウは翼をパタパタさせながらイシャールさんに向かっていき、上着の隙間の入るともぞもぞと動き出した。


「お?…………あひゃ、ひゃひゃひゃ⁉︎ く、クラウ、やめやがれ!」

「ふゅゆ!」


 やっぱりこれはイシャールさんでもくすぐったいようですぐに笑い出した。

 その拍子に鉤爪が落ちた。仮装用だからか手で持つタイプでした。


「なかなか可愛いいたずらね?」

「子供らしいいたずらってわかりませんから」

「君は子供じゃない?」

「あ、あははは……」


 危うくボロが出るところだった。

 それからクラウが満足するまでくすぐってからお菓子をもらうことになった。

 お菓子はミュラドさんより少し大きい紙箱だった。


「一人で食わねぇだろうから、エディ達と食えよ」

「はーい」


 中層一個目はこれで完了。

 実は中層はここだけじゃないんです。

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