2017年10月31日ーーハロウィンはお城探検part1

「ねーえー、ダメー?」

「…………」

「だーめ?」

「……はぁ」


 さっきからずっとこんなやり取りが続いている。

 質問はフィーさん。その相手は……ファルミアさん。

 なんで神様が逆にお願いする立場になっているかと言うと、きっかけは善哉会が終わってからだった。

 ファルミアさんの旦那さんのユティリウスさんが皆に説明した『ハロウィン』をこの世界でもやりたいと、世界を管理する立場のフィーさんが段々とやる気を出してしまったんです。


「うちうちだけでいいじゃない」

「だからって、準備も結構かかるのよ? 衣装はまだ変換アイゼンなんかで出来ようにも、飾りだったり仕込みだったりはすぐには無理だわ」


 善哉会が本来のハロウィンの日程だったんだけど、ここは異世界だから関係がない。

 準備に時間がかかっても、やりたくて仕方ないフィーさんはずっと駄々をこねているのだ。他にやりたがっていたエディオスさんやユティリウスさんは仕事と用事があるからといない。他にいるのも僕とお昼寝中のクラウだけだ。クラウはご飯を食べて少しするとすぐに寝ちゃいます。


「僕が手伝うって言っても?」

「……そこまでやりたいの? あれはどちらかと言えば大人数でやる行事だから、うちうちだからって少なくてよ?」

「そうですねー」


 家々を練り歩くか、イベントに参加してお菓子をねだりに行くことが多い内容だ。

 ごく一部の参加にさせても20人弱。

 そのうちセヴィルさんとかは参加したくないと嫌がりそうだ。


「じゃあ、あえて城の色んな箇所に居てもらうって言うのは?」

「それじゃ誰が歩くの? 子供っぽい人は居ても、具体的に子供はいなくてよ?」

「いるじゃんここに」

「え」


 ねー、と振り向かれて僕を見てきた。








 ◆◇◆







「……外見がお子ちゃまだからって」

「ふゅゆぅ!」


 僕が代表して練り歩く側になりました。

 あと、本当に生まれて間もないお子ちゃま神獣のクラウの引率も兼ねて。

 子供の外見なのは中学生くらいのフィーさんもだけど、彼は別行動らしい。何故だ。


(いたずらする側になれるのに? 一人で回るのかな?)


 けれど、お菓子は事前に準備してあるからいたずらをすることは多分ないだろう。

 と言うか、僕がいたずらをしにくいのもあるのが本音だ。外見が8歳児だからって、実年齢20歳が子供に帰って遊ぶなんて非常に恥ずかしい。

 せめてお菓子をねだりに行くのがいいところだ。


「ふゅふゅぅ!」

「あ、そうだね。行こうか」


 開始時間は真昼。

 つまりお昼ご飯を食べた後。

 仮装は僕とファルミアさんから内容を聞いたフィーさんが魔法で大変身させてくれました。

 ただ、他の人達の仮装は先に見たらつまらないからとフィーさん以外は見ていない。お菓子をもらいに行く時の楽しみにしててって。


「さて、地図を見るからには」


 ポイントを記した宝の地図のように、今回の行き先はあちこちあるようだ。

 ただ、上層の食堂だけは最後にして欲しいとは言われていた。


「一番下から行こうか?」

「ふゅ」


 転移で移動が出来ないので、自力で向かいます。

 だから、道中色んな人の視線が集まってきた。

 その中から、


「カティアちゃんムッチャ可愛ぇえ‼︎」


 やっぱりやってきたのは近衛女騎士の一人であるシェイルさんだった。

 抱きついてきそうな勢いだったので逃げたかったが、速攻でクラウとお縄にかかってしまう。


「見たことない装いやけど可愛いわぁ!」

「しぇ、シェイルさんっ、く、苦しいですっ!」

「ふゅぅ!」

「やって可愛ええもん!」

「おい、シェイルやめてやれ」

「いてっ」


 誰かがシェイルさんを引き剥がしてくれたようで、苦しさから解放されてぷはーっとクラウと息を吐いた。


「悪いな、嬢ちゃん。こいつ可愛いもんに見境がないからな?」


 誰だろうと顔を上げれば、視界に入ってきたのは萌黄色の髪。

 なんか見たことがあるな……と首を捻れば、セヴィルさんとのお城散歩途中にシェイルさんやほかのお兄さんと、トーテムポール状に倒れて一番下になってたお兄さんだった。


「あ、ありがとうございます」

「お。いいってことよ。俺はライアって言うんだ。出来れば、お兄ちゃんってつけてもらいたいな」

「あ、ライア抜け駆け!」

「いいだろこんくらい」


 お兄ちゃんって、まあたしかに実年齢はお兄ちゃん以上だけども。

 外見は元の年齢と同じくらいだからちょっと違和感があるなぁ。しかし、助けていただいてからのお願いを聞かないわけにはね。


「ライア、お兄ちゃん?」


 ちょっと恥ずかしがるように言えば、何故かライアさんだけでなくシェイルさんまでぷるぷる震え出した。


「ちょっ!」

「……破壊力抜群。ずっとそれでお願い!」


 ライアさんもシェイルさんと同類かと勘違いしそうになりますよ?


「ずーるーい! ライアだけならあたしもお姉ちゃんって呼んでもらう!」

「シェイルさんはシェイルさんです」

「えー」


 恥ずかしから予防線は張らせてもらいますよ。


「ところで、その格好どうしたんだ?」

「ちょっとした催し物に参加してるからです」


 具体的なことは全員参加ではないから言いません。

 でも、ここでシェイルさんと会ったからにはお城中に広まっちゃいそうだ。そこは仕方ない。


「全体的に黒っぽいけど……カティアちゃんは可愛ええからなんでも似合うな!」

「こっちの白いのは聖獣? 君の守護獣なのか?」

「あ、はい」

「ふゅ!」


 クラウも当然仮装してます。

 ただ薄金色の翼があるから、あえての天使風スタイル。服は毛が白いから目に近い水色オパールの天使服。飛んでいるとひらひらはためく感じが実に天使を思わせる。

 対する僕は魔女っ子。

 目は下層に行くことも考慮して蒼色にさせてるけど、他は服装で完全魔女っ子スタイルだ。黒のとんがり帽子にリバーシブルタイプの黒と赤のマント、黒のミニワンピースに合わせて、黒と紫のストライプ柄のタイツとローファーに近い黒の革靴。

 箒は無くて、帽子にハロウィンオーナメント達のブローチがいっぱい。


「可愛いけど、なんだか太古の魔法師に近いな?」

「魔法師??」

「魔法に特化して研究する職業のことだ。今じゃ大分減ったからいるかどうかは怪しいが」


 魔女っていたんだ。

 でも、この世界の今は魔法が使えるのが普通だから魔法使いと魔女は当たり前過ぎなのかも。


「で、その籠はなんなん?」

「お菓子をもらうためです」


 ジャックオランタンを模した籐籠は、普通の籐籠に見えてフィーさんが魔法で簡易亜空間を作ってくれたのでいくらでも入るらしい。


「お菓子ならカティアちゃんならお茶の子さいさいやん?」

「いえ、子供が大人にお菓子を貰いに行くんです」


 もう話しちゃうことにして、大まかにハロウィンの内容をお二人に伝えた。

 すると、ライアさんの方がなにかを思いついたようににんまりと口を緩めた。


「カティアちゃん、クラウちゃん、お兄ちゃんにねだってみな?」

「え? えーっと……トリックオアトリート」

「ふゅゆ!」


 クラウと一緒におねだりしてみれば、ライアさんは片手を騎士服の懐に入れてからすぐに僕らの前で開いた。


「いたずらされると困るしこれをあげよう」


 開いた手の中には飴ちゃんみたいなお菓子がこんもりと。

 中身が子供じゃないから、服の中で溶けてないか心配になった。

 けど、いただけるものはありがたいので籐籠に入れてもらいました。


「あー、うちどこにもない!」


 焦った声に振り向けば、シェイルさんは騎士服の隅々まで探していたがお菓子は一個もなかったようだ。


「よっしゃ、うちにはいたずらしてええで」

「え……」


 まさかもういたずらする羽目になるとは思わず、なにも考えていなかった僕の方も焦ってきた。

 と思っていたら、


「ふーゅゆゆゆ!」


 何故かクラウがシェイルさんに向かって飛んでいき、緑のマントの中にすっぽり入ってしまうともぞもぞと動き出した。


「ん? あひゃひゃひゃひゃ⁉︎」

「どした?」

「もももも、ものっそくすぐったい‼︎」

「あー……」


 古典的だが、クラウなら唯一出来るいたずらだろう。

 しかし、一度も教えたことも他の人が実践してるのも見ていないのにどこで知ったんだ?

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