2017年10月18日ーー恋しくなる手間いらずの語らい

 それは秋めいた気候も落ち着いてきたある日のことでした。


「口寂しいわぁ……」


 麗しの貴婦人が、何故か憂い顔でお茶を飲んでいます。

 ヴァスシード王妃のファルミアさん。

 いつもは微笑んだりしていらっしゃるのが多いのに、今日に限っては僕とお茶してる途中からずっとこんなだ。他にはベッドでお昼寝中のクラウしかいないから気にかけれるのは僕だけだ。

 彼女の守護を務める四凶しきょうさん達は、主人の彼女に言われて一旦お国に帰国されてていないんです。


「口寂しい、ですか?」

「ええ、とっても」

「……ポテチ食べてますよね?」


 彼女も僕も今食べているのはお手製ののり塩チップス。

 作ったのはライガーさんだけど、さすがはプロで作り方教えたらあっという間に。海苔はファルミアさんからの提供で破砕したものを使用したんだ。

 それはさて置き、食べながら口寂しいと言うのは矛盾している気がするが。


「それとは違うのよ」

「と言いますと?」

「手軽に作れるのじゃなしに、温めたり水に戻すだけで食べられる食品がないのがたまに恋しくなるのよ」

「インスタント、ですか?」

「今は特に冷凍ものね」


 そして口に二枚重ねてアヒル口作られるのはシュールでしかない。

 ただでさえ美女過ぎるのに、地球人の記憶持ちの転生者だからその感覚が抜けないのか。やめろとは言えないが、旦那さんのユティリウスさんが見たらどう思うんだろう。それも受け入れる感じかな?


「レンジでチンとかで食べられるあの手作りとも違う味がねー?」


 よっぽど食べたいみたい。

 ご自身で出来る限り再現はされていても、ほとんどが一から作る必要がある料理だ。

 手間いらずの人工調味された味付けは、僕ら現代日本人だと活用しない方が少ないから一種の国の味でもある。

 そう言われちゃうと僕も食べたくなってきた。


「カティは就職してからは一人暮らしだった?」

「ええ、学校卒業してから割とすぐに」

「家賃とかは仕送りで?」

「いいえ。学校にいた時も就職先のところでバイトしてそれなりにお給料もらえたので、貯金を切り崩して」

「じゃ、食費は結構使えるわね。インスタントや冷凍とかは?」

「週一くらいに使う感じでしたね」

「やっぱりピザ?」

「さすがにしょっちゅうは……」


 当たってるけど、なんでわかるのかな?


「出来立てピザを食べれる側としては贅沢過ぎるけど、ああ言うのをレンチンしてもかりかりとろーりで美味しいわよね……」

「ええ、侮れませんよね」


 ソースもメーカーによって味が違うのもあれば自分で作る以上にすごいところもあるので、ちょくちょく食べたりもしていました。


「カティのはさすがに冷凍向きではないわよね?」

「やったことありませんが……レンチンするように解凍させて焼くのは無理あるかもですね」


 生地を分厚くさせてもちゃんと焼けるか正直わからない。

 いや、むしろ試してみる価値はあるだろうか。


「もし出来たとして需要はここだとおやつかまかないですかね?」

「そうね。この世界のコースには加えにくいわ。けどエディやリースならいつでも食べたいとか言いそうだわねー」

「ですね」

「私も食べたいけど、チャーハンとかパスタも食べたいわ」

「冷凍の王道ですね……」


 あれってなんで美味しいのかな?

 チャーハンはレンチンだけなのにパラパラで味付けもしっかりしてて、鉄人監修のだとなお美味しい。


「焼き豚チャーシュー入りのはよく買いましたね」

「美味し過ぎるわよね……再現しようにも台所入らせてもらえたのなんて120歳までお預けだったのよ。だから思い出そうにも難しくて無理だったわ」

「ひゃっ⁉︎」


 忘れそうになるが、この世界の寿命は仙人並みで老化もだいぶ遅い。

 ファルミアさんの外見年齢だって25歳前後にしか見えないのに実際は340歳以上だった。


「それって、地球じゃどれくらいですか?」


 僕ぐらいの外見でも日本じゃ高齢域になっているが。


「だいたい中学生前後かしら? 一応は貴族だったから頼み込むのに時間がかかってね」

「なるほど」


 現世でのお家事情はなかなか大変だったようだから。


「美食三昧も悪くはないけど、前世が一般人だったから……たまに欲しくなるのよ」

「魔法がなくても恵まれた生活出来てた世界ですしね」


 今も労働せずに好きなことを出来る毎日を送れるのは、贅沢極まりないが。


「そもそも冷凍って文化自体が希薄なのよ。魔法が使えて、かつ腐敗速度を低下させることが出来るからわざわざ冷凍保存する必要がないもの」

「そう言えば、貯蔵庫で見たことがないですね」


 氷室は基本すぐに使用する予定の食材を置くのに使われるので、冷凍庫なんてなかった。

 氷も魔法で生み出せるからわざわざ保管しておく必要が特にないようなんで。


「北方はともかく、中央のここはねー……あら、もうないわ」


 しゃべりながら食べてたので、ポテチはすぐに空になってしまった。


「お代わりもらいに行きます?」

「そうねー……もう、冷凍は諦めて近いものを作ろうかしら?」

「と言いますと?」

「チャーハンやパスタは止められるでしょうから、無難にパンケーキね。あれも冷凍であったけど、作るからにはスフレパンケーキを作るわ! とびっきりふわっふわのをね!」

「おお!」


 ファルミアさんの本気が出たとなれば、きっと美味しいパンケーキが出来上がることだろう。

 僕もクラウを起こしてから一緒にお手伝いして、宣言通りのふわっふわなスフレパンケーキをたくさんいただきました。

 冷凍食品の試行錯誤は、また今度かな?

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