2017年9月21日ーー心を込めた、優しいモノpart1
「うーん、たまにはいいかしら?」
『【何をだ?】』
宮城で借りている部屋で本を読んでいたけど、ふと思い出したことに男性の声が四つ返ってきた。
彼らは人ではない。今も人の姿をしてないしね?
どれもこれもが女性ならず男性でも全員が全員気絶しかねない異形の姿ばかりだけど、私にはこの世界に産まれた時からずっと一緒に生活している大事なパートナー達。
とは言っても、赤ん坊の時は流石に泣き叫んだけどね?
彼らは四凶と呼ばれている守護妖と言う聖獣に似た存在。ヴァスシードの暗部の間では伝説の存在とされているのだ。
人型をとればホストでしょ?と思うくらいの美形集団に変貌するんだけど……慣れればフツメンにしか見えないのよね。贅沢だろうけど。
だって、今の旦那様と比べたら彼の方が好みだもの。恥ずかしいから本人の前じゃ滅多に言わないわ。ああ、だいぶ話が逸れたわね?
「カティとゼルに、ちょっとしたものを贈りたいのよ」
『【あの二人に?】』
「ええ」
カティは私が前世にいた蒼の世界からトリップしてきたらしい、小さな女の子。本当は20歳らしいんだけど、どう言うわけか外見が8歳程度しかないの。髪も目も日本人にしては異色過ぎるし、本人も城に連れてきた創世神のフィーもわかってないみたい。
そこはいいとして、彼女とこの世界の中枢を治める神王国の宰相セヴィルことゼルと魂の相性が最高に良い相手同士の御名手となってから少し。ゼルはもう完全にカティ一筋なのはわかってるんだけど、肝心のカティは半分以上義務感でしか婚約者として接していない。
これは由々しきことだわと自分も似た環境下にいたこともあったから、日々色々考えてはいたのよ。
その中で、あることを思い出してね?
「前にリースにココルルのケーキを贈ったでしょう? あれには別の逸話もあってね」
『その逸話をカティアに知らせずに、セヴィルに渡すようにさせるのか?』
「正解よ、
さすが四凶のまとめ役。私の良き相棒だわ。
彼が人型になると、かなり長身の筋肉ムキムキのしっぶいタイプの男性になる。好みではあるけど、産まれた時から一緒だからどっちかと言えばお兄ちゃんみたいね。それは他の三人も同じだけど。
『何故それをカティア達に?』
これは
「あなた達はあまり見てないでしょうけど、焦れったいのよあの二人!」
ゼルはゼルでぐいぐいいきたくても思いの外ヘタレっぷりを発揮していてカティにアピール出来ていないし、カティはカティでゼルには好意を持たれても御名手だからだろうと勘違いしまくっている。
お互いの本当の初対面の話をゼルが打ち明けてからでもそれはほとんど変わりない。ちょびっとくらいはカティも意識してるようだけど、料理のことが関わればほぼそっちのけになってしまう。
側から見れば、焦れったくてしょうがないのよ。この国の第2王女のリュシアことアナリュシアもそこは深く同意してくれている。
あ、そうだわ。
「リュシアにも声をかけて協力してもらいましょう!」
最初は四凶達にサポートさせちゃえばと思ったけれど、今日はたしか彼女は休暇の日。調理場はマリウスの部屋を借りれば出来るから大丈夫なはず。
ならば、女子だけで行動すべきだわ!
「あなた達にもおすそ分けは用意しておくから休んでて!」
『【御意】』
そうと決まればと、手製のシュシュを片手に私は部屋から飛び出した。あ、一応王妃だから廊下は走ってないわよ?
◆◇◆
「まあ、それは素敵ですわ!」
リュシアに部屋に入れてもらってから事情を話すと、彼女はやっぱり喜んでくれたわ。
隣の部屋はカティだけど、今は文字の勉強中らしくってフィーと一緒だ。出来るだけ悟られないように行動しなくては。
「で、カティのももちろんだけど、リュシアも作らない?」
「わ、わたくしも、ですの?」
「想う相手はいるでしょう? 私からすればほぼ御名手候補だと思うけど」
「ななななな、何故それを⁉︎」
「伊達に40年の付き合いしてなくてよ?」
カティ達程露骨じゃないけど、元地球人の私からすれば実に分かりやすい。身分的にも私の時よりはるかに問題はないのに、恋愛婚が主流とも言い難いこの世界の方式じゃ簡単にくっつけられないのよね。
それとリュシアは先王の王女でも、兄のエディが未だ御名手が見つからずで独身だから、第一継承者でいるせいで重責はかなりある。まったく、面倒な世界だわ。私は運が良かっただけだけど。
それは置いといて。
「これを機に兆しが見えるかもしれないわ。何事も行動しなければ、結果は出なくてよ?」
私のようにはなって欲しくないからね?
その事情を知っているリュシアは、最初複雑な笑みを浮かべたが次第に頬が髪と同じくらい紅く染まっていった。
「よ、喜んでいただけるでしょうか?」
「もちろん。女性から贈り物をされて喜ばない殿方はいなくてよ。補佐はしっかりしてあげるから、頑張りましょう?」
「はいっ」
いい返事をして、リュシアは両手の拳を握りしめた。
とりあえず、カティの普段着に近い物に着替えてもらい、持ってきたシュシュで天パの髪をまとめてから彼女の部屋を後にした。
他の男性達にも悟られたくないので、転移札を使って素早く食堂に移動したわよ。
「さて、多分大丈夫だと思うけど」
昼餉も終わって少しだから、そこまで忙しくないはず。問題は、マリウスが例の部屋を使ってないことくらいだけど。
「……おや、妃殿下に……アナリュシア様?」
給仕が来たかと思えば、マリウス本人がやってきたわ。ナイスタイミング!
「こんにちは、マリウス。ちょっといつもの部屋を貸して欲しくて来たの」
「私のところの、ですか? ええ、大丈夫ですが……」
彼の視線は私じゃなくてリュシアに釘付けになっていた。
まあ、それは当然よね? 仕えている王の妹で現統括補佐が普段着のドレスでも乗馬服でもないかなりラフな恰好でいるもの。髪もひとまとめにするなんて多分初めてじゃないかしら? 王族でも女性がこう言う格好をするのも。
「ああ、リュシアも初めて料理をするからこの格好にさせたのよ」
「あ、アナリュシア様も、ですか?」
「いきなり難しいものは作らせないし、怪我はさせないから心配しないでちょうだい」
「いえ、その……」
マリウスが言い澱むのも無理ないわね。私は例外だけど、貴族や王族の者達が厨房に立つだなんて普通ないもの。私は一応貴族の部類に入ってたが家の事情があれだったので、自分でやるべきことは全て叩き込まれた。その延長線上で前世でも得意だった料理スキルをフル活用してきただけ。おかげで、今の旦那様と出会えるきっかけになったんだけど。
「大丈夫よ。それに私はともかく女の子の手料理を食べさせてあげたい相手がいるの」
「……アナリュシア、様が?」
「誘ったのは私だけどね。これは秘密よ?」
「……わかりました」
ゴリ押しで無理矢理納得させたわ。
「じゃあ、片付けはいつも通りにするから借りるわよ? 行くわよ、リュシア」
「は、はい」
カクテル作り以来だから、少し緊張してるのかも……いえ、状況は全然違うわね。あの時は私とカティとだけだったけど、今日は調理人達や給仕がわらわらいるから注目の的になって当然。通路ですれ違う調理人や給仕達の目が私じゃなくて彼女に向けられると皆一様に目を丸くしたわ。
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