2017年9月6日ーー風邪に効くのは甘〜い純白?part3

 






 ◆◇◆







 思ったよりあっさり終わっちゃいました。


「フィーもだけど、クラウがいたからあんまり警戒されなかったわね?」

「でしょうか?」


 ただいま、ロザランを守護している聖獣達がロザランを持ってきてくれるからと待機中。フィーさんとクラウは選別するためにとついて行っちゃってる。僕とファルミアさんは女性でもさすがに連れてけないと聖域の入り口でお留守番だ。


「そう言えば、ロザランってどう言う果物なんですか?」

「見た目はザクロそっくりね。味はなんでか苺に近いけど」

「甘酸っぱいのは共通点なんですね」

「ただ、一個だけ問題があるのよ」

「問題?」


 取り扱い注意とかかなぁ?


「実が小さくても今のカティの体半分くらいあるのよ」

「ビックフルーツですか!」


 それって持ち帰れるのだろうか。

 けど、今回はフィーさんがいるから亜空間収納してもらえるよね? 大丈夫だよね?


「おーい、選んできたよーー」

「ふゅゆー」

「あ」


 ヴァルキュリーに似た格好の妖精さん達(あれで聖獣らしい)が数人がかりで何かを抱えながら、フィーさんとクラウの後ろについてきている。

 近づいてくるにつれてその全貌が明らかに!

 ファルミアさんの説明通りに、大っき過ぎるザクロの実でした。ただ、あれってエディオスさんくらいの成人男性サイズくらいありません?


「結構大きいの選んできたわね?」

「熟成度と糖度考えたらあれくらいしかね。僕の亜空間に入れて帰る前に見てもらいたくてさ?」

「たしかに、美しい実ね。でも、ロザランは収穫したら保存の魔術も効きにくいくらい腐敗進行が早いわよ? 全部をゼルになんてとても無理でしょう?」

「それは考えてあるよ。万能薬のこれは滋養強壮にもいいから皆で分けて食べよ? 僕が許すから」

「じゃあ、贅沢なロザラン料理をしていいのね?」

「もち」


 言いつつ、いつもの指鳴らしで聖獣さん達が抱えてた巨大フルーツを空間に収納させました。


「ふゅゆゆゆ!」

「帰ってからだし、セヴィルさんのお薬なんだよ?」

「ふゅぅ」


 転移の魔法使ったからそこまで時間経ってないけど、セヴィルさんの容態どうなったのかな?







 ◆◇◆







「よーし、こんなとこかな?」

「マジで色々作ったな……」


 一刻近くかけて、ユティは本気で生クリームを主要食材とした料理を作ってしまった。

 さすがは料理上手で国内外に知れ渡ってるファルの夫。婚約かそれ以前から手伝ってたのか手際も良く、見た目も申し分ない。

 味は俺が何度かしたが普通に美味い。甘いのはスープくらいで、他は塩気が多いもんだ。嫌がらせの割には有言実行している辺りなんか引っかかるが、単に驚かせるだけだしな?

 ちなみに、俺とユティの昼餉のメニューもだいたいは似たもんだ。


「じゃあ、片付け完了してから持ってこ!」

「おう」


 洗いもんはユティが、俺は拭き係と大物を元に戻していくと分担しながら急いで片付けていく。保温とかの結界張ってるが、早くしねぇとフィー達が帰ってきちまう。あいつらが帰ってくる前に実行したいそうだ。


「っし、終わったぞ」

「こっちも。じゃ、転移しようか?」


 軽く腕を伸ばしながらワゴンごと俺の隣に立つと、右手を俺の肩に置けば瞬時に景色が変わり、いくらか浮遊感を感じた。

 足が地につけば、そこは厨房の奥ではなくてつい一刻前にいたばかりのゼルの私室。奴は大人しく寝ていてコロネは部屋の隅で繕い物なんかをしていた。冷徹宰相と名高いゼルの私室脇で怯えもせずにそんなこと出来んのって、ファルやカティアを除いたら多分こいつくらいだろうな。ゼルの乳兄弟は全員男だし乳母は静養のために遠方に行ってっから。

 そこはまあいい。

 俺とユティが部屋に到着するなり、コロネは繕い物を椅子において最敬礼してきた。


「お帰りなさいませ」

「ゼルの調子どーう?」

「一度起きられました。熱はまだかなり高いですが、ご気分は落ち着かれたようです。咳は四半刻前ほどからなくなりました」

「そっか? じゃあ、俺達が看ておくから下がってくれるかな?」

「かしこまりました」


 ユティの言葉に言い返すこともなく、コロネは持参した物を持って退室していった。王が普通看病するのはおかしいとかの頭が硬い連中と違うからな? アナの乳姉妹だし、俺とも付き合いが長い。俺ら今の王族が爺様のおかげでそこそこ庶民地味てるせいもあるしな。

 一部の狸ジジイ共は反対派であるが、いつかひっくり返すつもりでいる。

 それより、今はふせってる従兄弟の方だ。

 遠目から見てもよく寝ているのがわかる。低血圧で寝起きが最悪でいるが、一度寝付けば起き上がるまで起きない。

 ユティが近づいていっても、警戒を一切周囲に向けてないのか眉一つ動かなかった。


「どう起こす?」

「いっつも、こう言うのはサイノスの役目だかんな?」


 俺が起こすのは滅多にない。

 ガキの頃は仕方なかった時もあったが、今は俺が怪我しにくい立場だからサイノスが引き受けてくれてると言うのもある。


(まあ、風邪花粉の症状で大分弱ってるから……最悪はねぇはず?)


 だが、念のためと俺は前にサイノスに教えてもらった場所に向かい、その棚の中から金属の円盤を紐で吊るしたものと撥を取り出した。


「あ、銅羅?」

「耳栓ねぇな……ユティは塞いどけ」

「うん」


 至近距離では何があるかわからんから、ベッドから少し距離を置いて俺は銅羅を構えた。






 ジャラララララァァアアアアンンンンッ‼︎






 一回叩いただけでこの音量。

 体も震えるんじゃないかってくらい響いてきた。

 だがゼルは?と前を見れば、奴は寝返りを何度も打っていた。


「ん、んーーっ?」

「おい、ゼル。起きろ」

「……ディ、オス?」


 今回は病で弱ってるせいで不機嫌ではないようだ。

 銅羅を一旦ユティに預けてベッドに大股で近づき、まだ寝たそうにしている従兄弟を無理矢理布団から引きずり出した。


「寝るな! カティア達が帰ってくる前に腹に入れるもんユティが作ってくれたんだから食え!」

「……ユティリウス、が?」

「エディも手伝ってくれたけど、ほとんど俺の手製だよー」


 銅羅を適当なとこに置いてきてからワゴンを押してきた。ちゃんと台に乗ってるものを見せれば、ゼルは珍しく目を丸くさせた。


「これをすべてお前がか?」

「ふふーん、伊達にミーアの夫してないからね」


 台にはマリウス達の料理に負けず劣らずのフルコースが勢揃いしていた。どれもこれもに生クリーム入ってるのは今言えねぇがな!


「ベッドから降りなくていいよー? こう言う時に便利な精製魔術もミーアに教わったから」


 と言って、起き上がったゼルの前に手を軽く振れば小さな机のようなものが出現した。ベッドに固定しやすいように横長で、端がしっかりとベッドの脇にくっついていると言う。

 だがこれって、食事が終わるまでベッドから動けねぇようにしてないか? 食事のためもあるが、絶対逃さないことも考慮してるに違いない。


「量はいつもより少なめにしてあるから、全部食べてね?」

「あ、ああ……」


 まだ半ば信じられない表情で親友が手がけた料理の数々と本人を交互に見ていた。

 俺もちぃっとは信じられない部分もある。が、この料理を生み出したのは間違いなく目の前のヴァスシード国王本人だ。俺も多少手伝ったからってたかが知れている。ずっと生クリーム泡立ててばっかだったが、まだ腕しびれてんだよな……。

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