2017年9月6日ーー風邪に効くのは甘〜い純白?part2

 









 ◆◇◆








「さて、俺達も行こうか?」

「は? どこにだよ」


 カティア達が転移するのを見送ってから、急にユティがそう言った。俺以外他の連中はいない。サイノスとアナはゼルの仕事を手分けするのに早々と退室してったからだ。医師くすし達も既に退室していて、ゼルはあの後気が抜けたのか爆睡。俺は公務もあらかた終わらせたからこいつの看病でもしようかと思ってたとこだ。昔からその役割はだいたい俺で、逆の場合も然り。


「ふふーん。俺が料理するから、エディもちょっと手伝って?」

「……なんか企んでんだろ?」


 さっきのニヤつきに裏があるのは俺でもわかった。わかってないのは、風邪で疲労困憊のゼルと付き合いの浅いカティアくらいだろうな。ファルとフィーはわかってても特効薬のロザラン採取は最適だと納得したのかもしれない。

 まあ、カティアがあれだけやる気出してたら行かないってのは言えんだろうし。


「とりあえず、厨房に行く前に着替えようよ」

「つか、こいつの看病どーすんだよ?」

「あー……誰か女中にお願いするしか?」

「アナとか呼び戻すか?」

「いや、仕事お願いしちゃったし……アナとかにはまだバレたくない」

「何する気だ?」

「まあ、そっちはあとで言うから。とりあえず、小姓か女中呼ぶのが妥当かな」

「そうすっか」


 伝達用の識札を使ってコロネ辺りを呼び寄せ、彼女は少し慌てながらやってくると快く引き受けてくれた。

 それを見てからお互いマントもないガチの身軽な私服に着替えて食堂に向かう。当然、出迎えの給仕達には目を丸くされた。


「ど、どうされました?」

「とりあえず、マリウス呼んできてもらえるかな?」

「あ、はい」

「まだ教えてくんねぇの?」

「ここじゃねー」


 まだはぐらかす辺り、マリウスにも言えねぇってことか? だが、厨房じゃ余計に筒抜けな気がするが。


「お呼びでしょう……何故そのような御召し物で」

「やあ。君に頼みがあって来たんだー」

「は、はぁ……何でしょうか?」


 まあ、マリウスも驚くだろうな? 休日じゃなきゃしない格好のままいきなり来られたら拍子抜けするだろ。

 それよか、ユティの思惑が少し聞けるのに集中だ。


の部屋貸してほしいんだけど」

「や、あそこですか? 妃殿下からお聞きで?」

「うん。何回か使わせてもらったって聞いたから。ダメかな?」

「構いませぬが、陛下自ら料理を?」

「ミーア程じゃないけど、少しはね」

「左様ですか。……エディオス陛下もご一緒に?」

「一応な」


 何手伝わされるのかわかんねぇけど。

 ひとまず説明も中断され、俺は奴と一緒に厨房裏に入ってくことに。前のカクテル作り以降も来てないが、他の調理人がいるとこを通り過ぎて更に奥の黒い扉の前に向かって行く。王としてもだが、王太子時代もつまみ食いしに来ただけでここまで来たことはない。


「中の説明はよろしいですか?」

「材料は好きに使ってもいいかな?」

「構いませぬが、昼餉前ですのに何故料理を?」

「あ、ゼルが風邪で倒れたのまだ伝わってなかった?」

「閣下が⁉︎ いえ、まだこちらまでには」

「そのゼル専用の昼餉を作ろうかなって。カティとミーアにフィーはロザラン採取に出掛けてるから、少しずらしておいてよ」

「俺とお前の分は?」

「もちろん、並行して俺が作るよ」

「そこまで作れんのか?」

「任せて」

「で、では、私はお手伝いなどは」

「食材の場所聞きにいく以外大丈夫かな」

「はっ」


 と、マリウスを下がらせてから俺らは扉を開けて中に入った。

 部屋、と言うか外の厨房よりは簡易的に整えられた場所だ。器具とかも多分全部揃ってんだろう。


「なんだここ?」

「各層の料理長達には代々受け継ぐ研究室のような部屋があるらしくってね? マリウスの場合はここらしいよ。ミーアがずっと前に俺達を驚かせてくれた時に料理仕込んでたのはここでだったみたい」

「そんなもんがなぁ?」


 俺にはわかんねぇが、まあ定期的にメニューが変わってる時があるからそれを考えたりするのに必要なんだろう。いつの代からあるか知らねぇが、目立った汚れとかは特にない清潔そのもの。ユティは自信ありげでも片付けとか俺出来るか?


「で、ただゼルに昼餉作るだけの好意的な魂胆じゃねぇだろ? 何作んだ?」


 ゲテモノはねぇだろうが、病状を悪化させるようなことしたらいくら俺でも怒るぞ? そんなことをすれば、カティアが戻って来たらぜってぇ泣きそうになるはずだ。


「ああ、難しいことじゃないよ。これをきっかけにゼルの苦手なものを食べさせようかなぁって」

「は? 苦手なもの?」


 つーと、ほとんどが甘いもんとかになってくるが……カティアが来てからは少量でも食うようになったからあんま意味ない気がすっけど。


「生クリームだよ!」

「……なんで風邪引いてる奴に食わせんだよ」


 無茶振りさせやしないか?

 あれが一番苦手でいるのは確かに間違いないが、今仕掛けてどーする。素面でいる時なら俺だって便乗しなくもないが、奴は今病人だ。無駄に怒らせる体力を使わせたくない。


「まあまあ、甘くないものを作る予定だよ。デザートは作れそうだったらにするけど」

「……本音は?」

「全部完食させてからこれ見せて驚いてもらう」


 俺が即座に突っ込めば、ユティはどっから出したのか立て札のようなものを取り出した。板には『ドッキリ大成功!』とかふざけた文言がデカデカと絵の具かなんかで派手に装飾されていた。

 意味がわからん。


「ドッキリ?」

「ミーアやカティの世界じゃ娯楽文化も富んでるらしくってね。大道芸人のようなものとかがわざと相手を引っかけることをしたりするんだってさ」

「それをゼルにか?」

「こんな機会じゃなきゃ出来ないでしょ! エディも手伝ってよ!」

「……普通の時ならいいが」


 だが、今の無防備状態でなくては逆に出来ないか?

 素直に食べるかはわからんがけしかけるだけでもやってみるかと俺もなかなか悪い奴だ。


「……まあ、いいぜ。けど、そんな手伝えんぞ?」

「混ぜたりするのに力仕事が必要だからさ? そこお願い!」

「ん」


 さて、ファル達より劣るとは言えどこまで出来るか見ものだな?










 ◆◇◆








「…………寝てた、か」


 まだまだ体は重い上に、咳も止まらない。

 だが、寝たことでいくらか気分はマシになってきていた。


(戻ろうとしたら、カティアには無駄に心配をかけさせてしまうな……)


 弱った姿を見せてしまったことは情けないが、彼女は俺の容態を心配してくれてたように思う。

 氷嚢から頭を外して体を起こせば、部屋には誰もいなかった。医師すら退室させたのだろうか?


「あら、セヴィル様。目が覚めまして?」


 いないと思っていたら、奥の洗面所から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。

 彼女は濡れ手拭いを作っていたのか、固く絞った手拭いをいくつか盆に乗せながらやって来る。


「……コロネか」


 アナの乳姉妹で現女中頭の腹心。

 アナかエディオスが呼んだにしてもよく手が空いてたものだ。

 多分だが、俺が気兼ねなく話せる数少ない女性の一人だからと言うのもあって呼び寄せてくれたのだろうな。


「よく眠られていらっしゃいましたね。お身体を拭くのにご用意しましたが、いかがなさいますか?」

「……自分でする。そこに置いて少し表に出ていてくれないか?」

「大丈夫ですか?」

「無茶はしていない」

「では、新しい氷嚢をお持ちしますので、少し失礼いたします」

「ああ」


 氷嚢自体も中の氷が溶けていたのでちょうど良かった。

 コロネは俺の前に手拭いの盆を置くと、言葉通りに氷嚢を持って部屋を出ていった。今度こそ完全に一人だ。


「……カティアは、たしか」


 眠る直前に、ユティリウスがロザランを採ってこればなどと提案していたが……本当に行ったのだろうか?

 ファルミアやフィルザス神も同行しているのは聞こえたから、心配する必要はあまりないだろうが。


「……とりあえず、拭くか」


 どれだけ寝たかわからないが、寝汗が酷かった。着替えだけはコロネに頼まずとも出来そうなので、一度全て脱ごう。

 俺はまず寝間着の上を脱ぎにかかった。

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