2017年8月3日ーーぶんぶんぶん、甘うま蜂蜜part3

 なみなみと入っている蜂蜜は日の光でキラキラとほんとの金色のように輝いていたよ!


「さっすが高級品の中でも逸品とされてるシャインビスクの蜂蜜! これは俺とサイノスが持つね?」

「お願いします」


 僕じゃ落として割っちゃうのがオチだもの。


『コドモヨ、ヒトツヨイカ?』

「あ、はい?」


 なんだろう?

 虫さんだから表情の変化はわかりにくいけど、なんか背負ってるものから気迫を感じるよ。


『タマニデヨイ。サキホドノヨウナチソウヲクレルノナラバ、テイキテキニハチミツトコウカンセヌカ?』

「ぼ、僕のお菓子で?」

『ジツニビミダッタユエ』


 なんかすっごい交渉来ちゃったんだけどー!

 けどまあ、サイノスさんかユティリウスさんも了承してくれたので、交渉が成立と相成りました。


「思ったより機嫌悪くなくてよかったね?」


 転移魔法ですぐ帰るのはシャインビスク達に警戒心を持たせちゃうからと、ちょっと歩いています。


「多分クラウがいたからだろ。曲がりなりにも神獣だからな? 高位の魔獣だからって、自分達より格上の存在には分を弁えてるだろうし」

「あとはカティのクッキーだね。美味しいもんねー、ミーアと同じくらい」

「ファルミアさんの方が美味しいですよ」


 僕のクッキー特にコツとかないもの。


「いや、誇っていいぞ? あのシャインビスクの女王が自ら交渉を持ち込むくらいだ。しかも、定期的にってことは蓄えのも出すくらいだぞ? 新鮮なのも味はいいが、熟成されたのはより濃厚だそうだ」

「ほえー」


 食べてみたい、物凄く!

 なら、その為にもこのいただいた蜂蜜で美味しい料理作らなくっちゃ!










 ◆◇◆









「お・か・え・り?」

「み、ミーア……?」


 転移魔法で着いた先には、何故かファルミアさんがいらっしゃったよ。

 それになんでかものすごーくおこのご様子!


「窮奇に調べさせて転移の到達点を割り出してもらって正解ね。ここに来たってことは、採取は無事出来たってわけ?」


 怖い……怖いよぉ!

 美女がどんどん般若になってくような感じ!

 クラウとサイノスさんのマントにしがみつきます!


「サイノスだけならまだしも、幼子状態のカティにクラウまで同行させたってどー言うことかしらリース?」

「い、いや、カティにも経験をっ」

「大人しめのルトリビーグとかならいざ知らず、なんで高位魔獣のシャインビスクのとこなの⁉︎ 万が一のことがあってからじゃ、ゼルだけでなくフィーの怒りもくるわよ⁉︎」

「う"」

「つか、ファル。なんでそこまで知ってんだ? お前さんいくらか仕事してたんだろ?」


 あ、それはたしかに?

 ジェイルさんにでも聞いたのかな?

 それにここ食堂だし。


「……昼餉になっても来ないからカティの部屋に行ったのよ。そしたらいないし、リースも饕餮が呼びに行ったらいないとかで辿って行ったらサイノスのとこに行き着いてジェイルから聞いたの」

「エディとかは?」

「そこそこキレてたわよ? リース、あとでお説教はゼルとエディのセットだから覚悟しておいてちょうだいな」

「……はーい」

「と言うか今からいってらっしゃい。窮奇」

「御意」


 いついたのか、ユティリウスさんの背後からにゅっと大きい手が現れ、ユティリウスさんのマントを掴んで無造作に引きずっていったよ。止めようにも、もうドアから出ていっちゃってました。


「さて、蜂蜜はどう採取出来たの?」

「上物をもらえたぜ?」


 ほらっと、サイノスさんがユティリウスさんの持ってた分と合わせてファルミアさんの前に出した。


「……間違い無いわね。シャインビスクの蜂蜜の旬物。こんなにもってことは機嫌が良かったの?」

「いや、ほとんどはカティアとクラウの手柄だ。俺はユティと差し迫ってた星熊ストルスグリーを遠去けただけだな?」

「お説教追加ね。そんな危険区域によく連れてったわね、あの人」

「まあ、収穫時期だからしょーがなかったかもな」

「え、えっと……定期的にお菓子作っていけば蜂蜜と交換してもらえるそうです!」

「…………お菓子で交換出来るの?」


 女王様とのやりとりをファルミアさんにも伝えれば、なるほどと頷かれた。


「美味なるものを献上すれば友好的にもなるのね。あとはやっぱりクラウが同行してたからかしら?」

「ふゅふゅぅ!」

「舐めちゃダメだよクラウ!」


 料理に使うんだからばい菌入ったら意味がない!

 慌てて抱っこして引き離しても、今日は執念深いのかジタバタが落ち着かないよ。


「匂いはクラウの方が鋭いものね。ひと口食べたい?」

「ふゅゆゆゆゆゆ!」

「欲望に忠実過ぎない?」


 僕を守ろうとしてくれた勇姿はいずこ?

 とりあえず、ファルミアさんがミニスプーンと小皿を用意してくれて、卓で待機しているクラウの前に差し出した。


「甘過ぎるはずだから、ひとまずこの量ね?」

「ふゅふゅぅ!」


 お許しが出たら、クラウは勢いよく小皿の蜂蜜を舐め出した。小ちゃな舌だから量はほとんどすくえてないけど幸せそうな顔で舐めてるよ。


「カティもあーん?」

「ぴ?」


 反射で口を開けたらミニスプーンを差し込まれた。

 けどすぐにやってきたのはとろとろ甘ーい蜂蜜の濃厚な味だった。


「お、美味しいです!」

「この味がやめられなくて愛好家も後を絶えないし、一部は絶滅危惧種にも認定されそうなのよ。フィーも慎重に保護しているそうだから」

「どこの世界にもいるんですねー」


 そりゃタダで手に入れられないんだね?

 でも、なんでユティリウスさんは巣の場所知ってたんだろう?


「ユティは前に来た時に目星つけてたんだろ。あいつ、食いもんに関しちゃ執着深いからなぁ」


 と、サイノスさん談。

 なんか妙に納得出来ちゃう。


「けど、これを保存の魔法だけで置いとくのももったいないわね? 一部は飴にするにしても……」

「あ、作りたいのあるんですけどいいですか?」

「どんなの?」

「蜂蜜たっぷりカップケーキです!」

「いいわね!」


 ということで、ここからはサイノスさんは執務室に。

 クラウはフィーさんを呼んできて子守してもらいます。

 なんだけど、


「僕に無断でシャインビスクの巣に向かったについては、きつーいお仕置きしておかないとねぇ?」

「て、適度にしましょうね?」

「まあ、カティアがうまく交渉してくれたんなら加減はしてあげるけど」


 いえ、フィーさん。笑顔が黒いです、引っ込めてー!


「材料にバニラがなかったからダイラの香油を持ってきたわ」

「香料のようなものですか?」

「そうね。ほんのりだから、香りづけにいいと思うわ」


 まずは蜂蜜とバターを合わせるんだけど、バターが固いので柔らかくしなきゃいけない。この世界にレンジがないので湯煎という手もあるが、


「リースのお仕置きの1つに温風でも出させましょう」

「暑いよーーーーっ」


 ドライヤーならぬ自動温風装置的なのを無理矢理引き戻してきたユティリウスさんが担うことに。


「他にも方法あるんじゃないのーーー?」

「温風の方が柔らかくするのにはいいの。って、強くしちゃダメよ! 一定の温度でしなきゃいけないんだから」

「ううっ……」


 これで柔らかくなったバターに蜂蜜を加えてどろどろっとなったら香油を数滴入れて混ぜます。

 ユティリウスさんはここでまたお説教へと退場。


「次に混ぜておいた粉類を篩に入れて、ちょっと高いとこからボウルに振るい入れましてーー」


 全部振るったら木ベラでさっくり混ぜていくよ。

 この時点で粉っぽさが残ってても大丈夫。


「溶き卵を二、三回に分けて加えて」


 ちょっともろもろしてくるけど、問題なし。

 さらに牛乳も入れて粉っぽさがなくなって滑らかになればよし!


「オーブンは予熱したし、紙型はあったから入れるわよ」


 ここでひと手間。

 生地を入れるだけでなく、別口で作っておいた蜂蜜玉を一つずつ入れればより蜂蜜感が味わえるケーキになると思うんだ。

 焼き上がりが楽しみ!


「最初は強火で5分、次は中火くらいで10分焼けば」


 時間通りに取り出せば、しっとり甘ーい匂いが堪らないカップケーキのご登場!

 ただ、熱過ぎるのでいくらかは冷却させるよ。


「美味しそうーー!」

「ふゅふゅぅ!」

「堪らない匂いだわ!」

「あ、これ先にサイノスさんのとこに持って行きたいんですけど」

「そうね。彼は功労者だもの……って多くない?」

「副将軍さんが甘いもの大好きって聞いたんで」

「ジェイルね。きっと喜ぶわ、彼もこの蜂蜜好きらしいから」

「場所覚えてる? 僕ついていこうか?」

「……そうですね、お願いします」


 まだ行き慣れてないとこは難しいので甘えちゃいます。バスケットの準備と残りの蜂蜜はフィーさんが亜空間に保管することが決まってから、僕らはファルミアさんと別れた。ファルミアさんはユティリウスさんのお説教に加わりにいくんだって。

 ユティリウスさんご愁傷様です……。

 道を覚えながらサイノスさんの執務室に向かい、フィーさんが立ち止まった扉前で僕とクラウも止まった。


「サイノスー、僕とカティアだけどーー?」


 相変わらずマイペースな聞き方だなフィーさん。

 けど、程なくして扉は開いて、騎士さんの格好をしているお兄さんが対応してくれました。


「よぉ、フィーにカティア。もう出来たのか?」

「ふゅふゅぅ!」

「忘れてねぇよ、クラウ」

「ふゅ!」


 仲良いことは良きかなと言うけど、微笑ましいなぁ。

 とりあえず、目的を忘れちゃいけないね。


「少し冷ましましたが、シャインビスクの蜂蜜たっぷりカップケーキです。ジェイルさんや皆さんもよかったら」

「お、いいもん作ったな。ジェイルの好物だしよ、ビスクの蜂蜜」

「しょ、将軍!」

「カティアの料理は美味しいよー?」

「噂で伺っていますが……中層や下層にも新しい菓子を広められたと。実に美味でした」


 あ、ティラミスのことだね。

 召し上がられたってことはあの激戦に加わったのかな? ちょっと想像つかないけど。


「まだ温いな。って、カティア。お前さん昼餉食ってねぇだろ? 一緒に食わねぇか?」

「え、あははは」


 実は結構お腹空いてます。

 なので、皆さんと一緒にいただかせていただくことに。


「いただきまーす」

「いただきます」

「ふゅ!」


 まずは上の部分をひと口。

 サクッとふわっと蜂蜜の風味に加えてほんのりラズベリーの香りがしてくる。甘味は全部蜂蜜だけにしたけど、余分な甘味料加えなくて正解。バターの甘塩っぱさもちょうどいいな、さて二口目は紙を剥いて中心に向かってかぷりと!


「うわ、蜂蜜が出てきた⁉︎」

「けど、いいな。周りの生地に馴染んで良い食感だし、やみつきになりそう」

「これ、本当にお嬢ちゃんが?」


 騎士さん達には大好評のようだ。

 サイノスさんも上機嫌に召し上がられてるし、あと気になるのは……。


「……副将軍、あんまりないんですから独り占めしようとしないでください」

「うっ」


 心配する要素ゼロだったね。

 むしろびっくりしてるとこ。あのクールビューティの印象を受けたお兄さんが両手にカップケーキ持って貪るように食べてた。騎士さんの1人に注意されたら自覚したようだけど。


「はっはっ、そんなけカティアの作ったもんが美味いってことだ。実際美味いしな! この蜂蜜を中に入れてあんのどうやるんだ?」

「飴のように固めてから生地に沈めて一緒に焼きこむんです。焼き立てだともっと流れてくると思ったんで少し冷やしましたが」


 フォンダンショコラとちょっと似た用法と思ってるけど。

 もうひと口食べれば、濃厚な蜂蜜が生地にたっぷりかかって贅沢パンケーキ食べてる感じになるなぁ。


「蜂蜜結構いただけたんで、パンケーキとかじゃなくてお肉料理にも最適ですよね」

『肉料理⁉︎』


 あれ? 皆さん目がまん丸?


「どう使うのカティア?」

「砂糖の代わりにもですが、照りつけと言ってお肉に艶を出させたりも出来ますし柔らかくて食べやすいんですよ。ソースは醤油サイソースがベースですが」


 オーソドックスなのはチャーシューとかだよね。

 あー、白ごはん欲しくなる。まだお米見つけれてないと言うかファルミアさんに聞けてない。


「肉が柔らかく……」

「食いたくなるぅ……」

「お嬢ちゃん、中層や下層にもたまに来るんだろ? 料理長達に伝えてくれないか!」

「……考えておきます」


 まず先にエディオスさんの許可ないとね。

 ってそうだった。


「エディオスさん達のとこにも行きましょう」

「ミーアが持ってったのに?」

「いえ、ユティリウスさんへのお説教とか少しでも軽減させてもらえないかなと」

「「無理だな(でしょ)?」」


 サイノスさん、フィーさん即答。

 そんなに?

 実際僕に直接危害が向けられる事は無かったし、結果オーライで終わったし。

 けど、それだけで済まないんだろうなぁ。他の皆さんは。

 カップケーキ二個食べてからエディオスさんの執務室に向かうと、半屍と化していたユティリウスさんとすっきりされたお顔でカップケーキを頬張る皆さんがいらっしゃいました。

それとはまた別の日に蜂蜜カップケーキをシャインビスクに持っていけば、なんとローヤルゼリーまでもらえましたとさ。

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