2017年8月3日ーーぶんぶんぶん、甘うま蜂蜜part2

 色はどぎついけど、サイノスさんから受けた説明とほぼ同じくらいの働きシャインビスク。

 攻撃はして来ないが、なんかじーっと僕らを見ているようなんだよね……。複眼だから一箇所を見ているのかわかんないけど。


「ふゅゆゆゆ、ふゅぅ!」


 クラウは僕に抱っこされながらも、なんか懸命に僕を護ろうとしてくれてる?

 一応はフィーさんに任命された僕の守護獣だから?

 けど、残念なとこは威嚇が超可愛くしか見えないんだよね……。


『…………シンジュウサマガ、ナゼココニ』

「ぴょ?」

「ふゅ?」


 言葉を喋った?

 いや、もしくはテレパシー?

 ものっそ片言だったけど。


「ふゅ?」

『……ハチミツヲ?』

「ふゅ!」

「クラウ、話せるの?」

「ふゅ‼︎」


 僕が聞けば、そうなのかこくこく頷いた。

 すると、飛んでたビスクは地面に降りて来た。


『コドモ、ハチミツホシイノカ?』


 今度は僕に振ってきたーー⁉︎

 だけど、聞かれたら答えなくちゃこの場合は。


「え、えっと……少し、分けて欲しくて」

『オマエダケカ?』

「ほ、他にも来てます。ただ、グリー?と応戦してる仲間がいるんですが」

『グリー……ストルスグリーカ?』

「あ、それです!」

『フム。メニウソハミラレナイ……』


 距離が近い近い近い!

 けど、花か蜂蜜のような甘いいい匂いするなー、コロンみたい。


『ダガ、グリーガイルトナレバ、ジョオウサマノゴキゲンハサイアク。グリーヲシリゾケテクレタダケデモワカラナイ』

「……そうですか」


 世の中うまくいくこととそうじゃないことがあるんだなぁ。

 どうしよう……。


『タダ、オマエ。ナニカイイニオイガスル』

「いい匂い?」


 特にこれと言ってコロンや何かつけてないけどなぁ……?


「ふゅぅ!」


 クラウがぽんぽんと胸の辺りを叩いて来たので、そう言えばと僕も思い出した。

 確か、クラウのおやつ用に持って来たバタークッキーだ。

 それかなと袋ごと取り出してみる。


「これですか?」

『オオ、ソレダ。ヨイニオイダ』


 どうやらすっごく興味有り気なので、一枚だけ手の上に取り出したらつんつんと手?のような前脚でクッキーをつついてきた。

 それからそーっと両脚を使って持ち上げて、口らしき場所まで持っていくとぱくっと放り入れた。


『…………ウマイ! コウバシイ‼︎』


 なんか気に入ってくれたみたい?

 もう一枚渡そうとしたけど、何故か遠慮されちゃった。


『ジョオウサマニゼヒワタシタイ』

「じゃあ、これごとどうぞ?」

『オマエモコイ』

「えぇえ⁉︎」


 き、危険じゃないかなぁ?

 でも、有無言わさずな雰囲気なんで、仕方なくクラウとついていきます。

 ちょっとずつ近づくにつれて剣か何かの鍔迫り合いの音が聞こえてくるけども、怖いけど行くしかありましぇん!

 そう言えば、巣の近くにはユティリウスさんがいるはず?


「……ん? って、働きビスク⁉︎ っと……カティ? なんで一緒に?」


 それらしい木のとこに行けば、当然ユティリウスさんがいたわけで。

 護身用に腰に佩いてた剣で一瞬威嚇してきたけど、僕やクラウを見ればぽかんとしながらビスクと交互に見てきた。


『ジョオウサマノタメニツレテキタ』

「念話? 部隊長ビスクがなんでわざわざカティに」

『ヨイニオイヲマトッテイタ』

「このクッキーを女王様に渡したいそうなんです」


 嘘がないようにクッキーの袋を見せれば、蜂さんはコクコク頷いてくれたよ。


「……雑食とは聞いてたけど、人間の食事まで興味を持ってるのか」

『ストルスグリーノタイジダケデハ、ジョオウサマオソラクキゲンナオラナイ。ケンジョウヒンガヒツヨウダ』

「それはカティのクッキーなら至高の献上品だろうね」

「大袈裟過ぎますよ……」

「君は自分の腕前を過少評価しがちだよ」

『ウム。ビミダッタ』


 ところで、さっきからガキィンガキィンと音が近づいて来てるような?


「くっそ! こいつ、中級くらい強ぇえな!」


 なんかサイノスさんが接戦してるっぽい⁉︎

 ひょいっとユティリウスさんの影からのぞいて見ると、腰に佩いてた剣は細身のように見えたのに手にしてるのは彼の巨躯に負けないくらいの刃を持つ大剣!

 ただ、両刃でなく片刃なのが不思議な形。

 それを相手してるのが、毛色は真っ白だけどところどころに黒い星マークが散りばめてある全長5メートル越えに見えるでっかい熊さん!

 眼は獰猛そのもので、額には螺子のビスのように鋭いツノが生えていたよ。サイノスさん、トキントキンの爪の攻撃もだけど、頭突きのように繰り出すツノの攻撃もなんとか避けてます。


「峰打ち難しそうー?」

「意外にすばしっこくて急所狙えねぇんだよ! なんか援護してくれねぇか? 下手すっと他の巣にも影響しかねん!」

「りょーかい。カティ達はここで待ってて」

「はい」

「ふゅ」


 クラウと蜂さんと大人しく待つ宣言をしてから、茂みに身を潜めつつ戦況を見る。

 サイノスさんは怪我してないようだけど、生け捕りにするのは難しそう。よっぽど強い魔獣なんだね。

 エディオスさんは歳いったのとは言えど、よく倒せたなぁ……こっちのが若いから戦闘力が違うのかな? 魔獣の歳ってよく知らないけども。

 たーだし、ユティリウスさんの援護がここから入りますのことよ!


「拘束するだけでいいでしょ。……繋がれ広がれ彼方の礎。我のかいなより解き放て、失われた鉤の手ーーーー【拘陣シェイド】‼︎」


 おおお、なんかファンタジー満載な詠唱と技の名前だ!

 ユティリウスさんが前にかざした手の中から風の球のようなものが現れ、そこから鉤縄みたいなロープが出てきて飛び退いたサイノスさんの先に居た熊さんに向かっていく。

 一本一本が細いから大丈夫かな、と思ってたけど結構丈夫なようで体に巻きついていくと動きが少しずつ鈍くなっていくよ。それで、全部ぐるぐる巻きになったらユティリウスさんが端を持って引っ張った。


「今だよ!」

「ちぃっとだけ寝てな!」


 どっから飛び上がったのか、サイノスさんが熊さんの首根っこ辺りにまで宙に浮いていて大剣を振り落とそうとしていた。峰打ち予定だからか背の方でだけど。

 多分加減してるだろうけど、剣が熊さんに当たるとものすっごい轟音が周囲に響き渡り耳を塞ぎたいくらいだった。クラウ抱っこしてるんで出来なかったよ。


「うっし、このまま転移だな?」


 と言って、サイノスさんが鎧の隙間から取り出したのは一枚の札。

 よく見えないんだけど、多分文字とか魔法陣が描いてあるんだろうな? それをペタっと動きを止めた熊さんに貼り付けた。


「ふゅぅ!」

「……消えちゃった」


 ほんと跡形もなく、あのでっか過ぎる巨体が瞬間的に消えちゃった。魔法の凄さを改めて認識したね。

 とは言っても、


「つかなんでカティアまでこっち来てんだ? 大人しくしてるが働きビスクまで一緒に」

「え、えーと」


 説明は当然必要なんで、自分からひと通り言うよ。

 そうしたら、サイノスさんがちょっとため息吐いちゃったけど。


「遠去けただけじゃ無理か。んで、ほんとにカティアのクッキーだけで対処出来るのかよ」

『キイテミルノハオマエタチ。ジョオウサマヨンデクル』

「え」


 心の準備がーー、と思う間も無く蜂さんは飛んでいき、目だけで追うとものすっごい大きな木の枝にツリーハウスくらいの大きさがあって不思議でない蜂の巣があったよ。入り口の大きさも蜂さんをひと回り以上大きくしている。


「お、大っき過ぎる……」

「あれでもまあまあな大きさだな?」

「古参くらいになるとあれの倍はあって不思議じゃないね」

「マジュウノセイタイケイフシギデス」

「カティ、ビスクの口調になってるよ?」


 そりゃそうですとも。

 ファンタジー要素ほぼほぼ皆無の世界出身者には驚きだけですみましぇん!

 それからわいのわいのしていたら、程なくして蜂さんが戻ってきたよ?

 ただ、蜂さんより数倍大っきい黄金色の蜂さんがやってきたからお口あんぐりしそうになったんだけどね!


「女王か? 個体としては結構なもんだな」

「機嫌がいいかどうかだけど……」


 こっちサイドで驚いてるの僕だけのようですね。

 クラウは楽しそうにきゃっきゃしてるだけだし。

 とにかく、クッキー落とさないようにするしかないや。


『……ココマデクルトハナ』


 女王様らしい蜂さんもテレパシーのようなもので僕らに話しかけてきた。

 よく見たら、首回りのもふもふしたのがマーブル模様になってて可愛い……って、余所事考えてちゃダメでしょ!


「ふゅう!」

『ヤハリ、シンジュウドノガイラッシャルトハ。ブタイチョウノイッテオッタコトハマコトカ』

「ふゅふゅぅ!」


 クラウが手をぱたぱたしながら声を上げれば、女王様はなんでか地面に降りて僕達の方に近づいてきた。サ、サイノスさんくらいないですかこの蜂さん!

 サイノスさん達はと言うと、警戒はしてても無闇に手出し出来ないようで僕らを見守るしか無理みたい。


『シテ、コドモヨ。ストルスグリーヲトオザケタノハ、コノモノラダトイウノハミテオッタ。ソチハワラワニナニカチソウヲクレルソウナ?』

「あ、は、はい! これです‼︎」


 クラウを頭に乗せてから包みのリボンをほどいて、バタークッキーを女王様の前に差し出した。

 女王様はすぐに前脚は伸ばしてこなかったけど、匂いを嗅いでるのかな?


『フム。タシカニヨイニオイダ。ソレヲショクシテモヨイカ?』

「ど、どうぞ」


 クラウのおやつはまた帰ってから作ればいいものだし。

 了承すれば、女王様は両脚で一枚持ち上げ口に運んでいった。


『…………ウム。ウマイ! コノショッカンハハジメテダ!』


 それからひょいぱくひょいぱくとクッキーを頬張っていき、瞬く間に袋からなくなっちゃった。

 そこそこの量あったのに大食いなんだね?


『ナカナカノチソウヲイタダケテナニヨリ。ソチラハワレラノハチミツがホシイトキイタガ』

「す、少し分けていただければ」

『タイカニフサワシイモノヲチソウニナッタカラナ。ヨカロウ、イクラカモッテコサセヨウ。ツボノヨウナモノハショジシテオルカ?』

「壺?」

「採取用のだね。俺持ってきてるよ」


 と、ユティリウスさんいつ持ってたのか○ーさんに出てくるような蜂蜜の壺を取り出した。しかも一個じゃなく二個と用意周到。

 それを近くにいる働きビスクに渡せば巣の方に飛んで行っちゃった。


「ふゅふゅぅ!」

『ワレラノハチミツハビミトショウサンサレテイルソウナ。シンジュウドノモキットキニイルダロウ』

「ふーゅぅ!」


 クラウはきゃっきゃと相変わらず楽しそう。

 それにしても、女王様の機嫌って悪かったんじゃなかったっけ? 意外と普通だけど。


『モッテキタ、ハチミツ』

『コレダケデヨイカ?』

「うわぁ! 黄金色の蜂蜜⁉︎」


 それくらい綺麗な蜂蜜だったよ!

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