2017年8月3日ーーぶんぶんぶん、甘うま蜂蜜part1

 それは突然の来訪から始まりました。


「ふふふ、良い時期が来たよカティ!」

「いきなりドア開けて来ないでください!」


 着替え最中じゃなかったから良かったけど。

 朝ごはんも終えていくらか食休みしていたら、何故かユティリウスさんが僕の部屋にやって来たんだよね。珍しく無作法に。


「だってさ、だってさ! シャインビスクの蜂蜜がいま収穫時期なんだよ⁉︎」

「…………どう言うのかわかりませんが、ミツバチの蜂蜜と思えば?」

「あ、そうだね。ミーアは前にそんなこと言ってた」


 やっと朱色の髪を落ち着かせて、普通に応対してくれた。

 ふむ、蜂蜜の収穫時期?


「美味しいんですか?」

「そうだね。魔獣の蜂蜜の中じゃ、かなりの高級品だよ。産地も神域を除けばごくわずかで、多いのはエディの領内かな」

「ま、魔獣?」


 え、なんですか、ものっそ怖い単語出て来ましたけど。


「ふゅぅ?」


 食休みで一寝入りしていたクラウも起きちゃったようで、ふよふよとこっちに飛んで来た。


「やぁ、クラウ。寝起きかい?」

「ふゅぅ」

「美味しいものを取りに行こうとしてるんだけど、君もどうかな?」

「ふゅ?」

「クラウを人質にしないでください!」


 それといくつか疑問点があるんですが!


「ファルミアさんや四凶さん達は?」

「ミーアはちょっと仕事があるからね。彼らはその補佐で手は借りられないんだ」

「ユティリウスさんのお仕事は?」

「俺のは特にないね」


 つまり、手すきなんですね。

 ただ、


「僕達で行くにも相手が魔獣なら、僕とかクラウは防御策ないんですけど」

「なーに、俺だって護衛抜きに行こうとは思わないよ?」

「へ?」


 誰だろうと思っていると、まあおいでとユティリウスさんにあるとこへ連れてかれました。


「んで、なんで俺なんだ? 護衛任務は初耳だが?」

「だって今日知ったんだし?」

「俺じゃなくたってフィーがいるだろ……」

「フィーは見つかんなかったもん」

「男がもんとか使うな!」


 やってきましたのは将軍サイノスさんの執務室。

 僕とかは初めてきたので、部下さんとかから好奇の目で見られてるけど悪い意味のはないね。大半はクラウに視線集まってるし。

 それよりも、アポ取らずというか予定無視して護衛をお願いしに来ていいのかな? いや、ユティリウスさん一応他国の人とは言え王様だけども。


「じゃあ、俺とカティ達だけでシャインビスクの蜂蜜採取行って来てもいいの?」

「………………なんでよりにもよって高位ランクの魔獣んとこに行くんだよ!」

「だーかーらー、収穫時期って言ったじゃない?」

「お前だけならともかく、なんで幼子とその守護獣まで連れてくんだ⁉︎」

「実地体験とも言うでしょ?」

「やめんか!」


 なんかとんでもない話だなぁ……。

 やっぱり魔獣だから、普通のミツバチとは雲泥の差なんだね?


「……将軍。執務についてはこちらで片付ける。陛下方にお付きした方がいい」

「悪い。行ってくるわジェイル」


 クールビューティがお似合いの薄緑の髪のお兄さんの発言に、サイノスさんも片手で顔を覆って承諾の言葉を漏らした。

 あのお兄さんはどう言う役職の人かな?


「あ、カティアは初めてだな? こいつは副将軍のジェイルだ」

「初めまして、小さき料理人殿」

「は、はじめまして、カティア=クロノ=ゼヴィアークです!」


 ほへー、副将軍さんだったんだ。

 ぱっと見はサイノスさんより歳下に見えるけど、絶対言わないでおこう。なんか言うと後が怖そうだから。


「こう見えて、ジェイルは超甘党なんだよねー」

「なっ、陛下⁉︎」


 あら意外。セヴィルさんみたいな印象がありそうなのに真逆なんだ。


「ま、採取は早いことがいいだろ。お前のことだから目星はつけてるよな?」

「もっちろん!」


 と言って、ユティリウスさんは懐から以前ファルミアさんがクルミ狩りの時に使ったような札を取り出した。








 ◆◇◆







「とーうちゃく!」

「う、わっと⁉︎」

「大丈夫か?」

「ふゅゆゆ!」


 ファルミアさんの時同様に転移魔法にて、目的地に着いた模様。

 僕は反動で転けそうになったのをサイノスさんに支えてもらいました。

 クラウも反動で頭から離れちゃったけどすぐに浮かんでふよふよしていた。


「だいたい目星のとこからそこそこ離れたとこにしたけど」

「シャインビスクの巣はデケェからな? カティア達が襲われでもしたらゼルの怒りがたまったもんじゃねぇ……」

「俺はー?」

「お前さんは対処出来なくもねぇだろ!」


 ユティリウスさん強いんだ? 見たことはないけどね。


「とりあえず、カティアはクラウと俺から絶対離れるなよ」

「はい」

「ふゅ!」


 なので、巣のところまで行くようです。

 ちょっとした冒険みたいだなぁ。


「シャインビスクってどんな魔獣なんですか?」


 歩きながら僕はサイノスさんに質問してみた。

 大層な魔獣しか情報知らないんだよね。


「……ユティ。調理人にほとんど教えてなかったのかよ」

「実地体験って言ったでしょ? 希少価値の高い高級品ってことは伝えたけど」

「それもだが採取の難易度教えとけ! まあいい。そうだな……体長は働きビスクでもカティアくらい。幼生体とか卵はクラウより大きい程度だ。女王と呼ばれんのは、働きのよりふた回り程デカイとされている」

「ぴょぉおおおお⁉︎」


 なんですか、そのファンタジー要素満載のミツバチ⁉︎

 いや、ここ異世界だからそれが普通?

 前にもファルミアさんと超巨大な大蛇と遭遇したことあったし。あと四凶さん達の本性もそれだったね。


「ただ、機嫌が良好だったら採取は然程難しくない。と言っても、女王ビスクは下手したらこいつやフィーくらい気まぐれな性質で、応じるのもまちまちだ。だから、俺くらいのやつでも戦闘を免れないとは保証出来ん」

「俺がフィーと一緒って何さー?」

「ツッコミそこですか!」


 呑気だなぁ、この王様。


「……っと、カティアとクラウは止まれ」

「う?」

「ふゅ?」


 いきなり手で制されて立ち止まる。

 何だろうと思ってると、微かに虫特有の羽音が聞こえてきた。


「この音が?」

「耳いいな? ああ、割と近い。問題は奴らの機嫌とかだが」

「気配絶ちして俺が見てこようか?」

「一応俺は護衛だが……」

「護衛は俺じゃなくてカティ達の方にだよ。行ってくるね」


 すると、ヒュンって矢を放った時のような音が聞こえたと思ったらユティリウスさんの姿がもうなかった。


「え?」

「相変わらず速いな……」


 と、二人で関心していたら、また同じ音がしてユティリウスさんが戻ってきた。

 ただ、笑顔は薄れてしっぶーい表情になってたけど。


「どうした?」

「まずい。天敵が遭遇してたよ」

「何?」

星熊ストルスグリーが蜂蜜捕獲しようとしてる」

「マジか?」


 おや、なんかその名前聞いたことあるような……?


「あ、エディオスさんも神域で倒した?」

「あいつそこまで力つけてたのか?」

「たしか老成しているのだったようですが……」

「それでも充分だ。にしても、グリーが来てるんじゃ機嫌は最悪のはずだ。だが、知性は格段にビスクのが上だからな? 恩を売って蜂蜜分けてもらえるかもしれねぇ」

「カティがいるから殺生はダメだよ?」

「当然」


 何やらバトルすることに?

 とりあえず、僕とクラウだけはこれ以上進まないように待機で、ユティリウスさんは採取の為に巣の近くへ。

 サイノスさんは気配を殺しながら熊さんの魔物の背後から峰打ちした後、転移魔法で適当な位置に転送させるそうな。

 これだけなら完璧な計画と言えよう。

 そう、イレギュラーが発生したんだよ!


「ふ、ふゅゆ⁉︎」

「大声出しちゃダメだよクラウ!」


 何が起こったかと言うと、僕らの目の前に本当に僕くらいのサイズのミツバチ(ただし、色はショッキングピンク)が接近しようとしてきたんです!

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