2017年8月29日ーーDOKIDOKI☆焼肉パラダイスpart1

 

「…………どーしますか?」

「どーもこーも、なぁ?」


 あれぇ? おかしいなぁ? 僕達は日帰りキャンプでバーベキューしに来たのに……何故エディオスさんとピンチに陥ってるんだろうか?






 グルルルルルルッ!






 モンスターです。魔獣です!

 前にサイノスさん達と遭遇した星熊ストルスグリーじゃないけど、別個体の熊型の魔獣。どちらかと言うとグリズリーに近い感じ。角とかはないけど、爪がものっそ鋭くて鉤爪。目は星熊ストルスグリーと同じく獰猛を体現してるのに加えて、超真っ赤。確実に僕らを視界に捉えて狙っています!


「どどど、どーしますか!」


 僕に戦う術はまったくないので、エディオスさんに頼るしかない。

 なので、彼の皮マントを掴みながら問いかけたら……何故か俵担ぎさせられちゃいました。

 Why?


「ほぇ?」

「ここじゃ地形がこっちに不利だ。逃げんぞ!」

「えぇーー⁉︎」


 正面突破じゃなしに退却なんですか⁉︎

 僕が反論しようにも、エディオスさんはすぐに走り出して例のグリズリーな魔獣は当然追っかけてきました!


(なんでこうなったのかな⁉︎)


 ただお昼ご飯食べに来ただけなのに!









 ◆◇◆










「……遠出してぇ」


 夏も真っ只中のある日の事。

 エディオスさんが朝ごはんの時、唐突にそう言い出しました。

 お顔ぐったりに加えて寝不足なのか若干クマが。

 それとストレス溜まっているから気分転換がしたいのかもしれない。

 だけど、


「無理だな」


 従兄弟さんで宰相のセヴィルさんが即却下と言い渡しました。

 まあ、これは誰もが思うことだろう。エディオスさんは王様は王様でも、神王国って大国を治めるえっらい王様だからね。隣国のヴァスシードを治めるユティリウスさんとは格が違うと言うのはその奥さんのファルミアさん談。


「……ちぃっとだけでもか?」

「ある程度片付けたとは言え、追加はいくらでも来る。気分転換くらいならば、休憩の時間を増やすことなら出来るが」

「城から出てぇんだよ! ディの翼慣らしも兼ねて行かせろ!」

「後付けの理由にしては弱いな」


 本音を言っても一蹴されるで終わり。

 僕や他の皆さんは口を挟めないのでそれぞれ朝ご飯を再開させてるけど、ユティリウスさんやフィーさんは苦笑いしていた。


「ここんとこ働き詰めだったからねー?」

「イライラは半端ないだろうから、僕もわかるなー」

「フィーはいつだってのんびりしてるでしょ」

「ユティだって」


 援護する気あるようでないですね、この人達。

 けど、僕だって大したことは言えないからどうしたものか。


「……なら、せめて昼餉だけでも転移で避暑地に向かうとかは?」

「「「「「は?」」」」」


 これにはほとんどの人がびっくり。言い出したのがファルミアさんだったもの。守護妖の四凶さん達は特に驚かずに黙々と食事をしていたけど。

 ファルミアさんはコフィーをひと口飲んでからまた口を開く。


「冷気拡散措置を宮城内に施していたって、適度な温感も必要不可欠。その暑さが積もりに積もってしまうから、エディだって参るわよ」


 今年は特に酷暑らしいから、お城の中はクーラーが完備されたくらい涼しくしてあるんだよね。けど、涼し過ぎも良くないので何時間かは緩くさせてある。暑いは暑いんだけど、茹だる程じゃあない。クラウもダレることはなくなったし。


「それに室内に籠り過ぎも良くないわ。日の光も浴びなくては体に悪影響が出てよ?」

「……それは否定しない」


 人間、日光を浴びないと元気が出ないって昔からよく言うもの。エディオスさんも窓越しの陽射しだけじゃ、多分効かないはずだからね?


「だが、それならば裏庭でも良いはず。何故わざわざ避暑地なのだ?」

「転移を使えば大した距離ではないでしょう? エディは『外』に行きたがっているもの。一刻程度ならここに居る全員とサイノスも呼べば護衛の心配もない。食事だけなんだから、固いことはなしよ?」

「…………本音は?」

「あら、わかっていて? せっかくカティもいるんだから、キャンプっぽくバーベキューがしたいのよ!」

「え」


 セヴィルさんが苦虫を噛み潰したような表情をしながら聞いた質問に対し、ファルミアさんは茶目っ気たっぷりのウィンクをしながらそう言った。……エディオスさんはダシに使われたんでしょうかこの場合。


「キャンプ?」

「バーベキュー、とは?」


 王族ご兄妹もだけど、ヴァスシードじゃない面々は揃って首を傾がれた。フィーさんもね。


「キャンプは野営に近いものね。バーベキューは炭の上に網を敷いて、その上で肉に魚や野菜を焼いて食べる調理法よ。蒼の世界じゃ、夏の遠出だと家族や友人達とこぞってやる行楽の一つのようなものなの」

「懐かしいですねぇー」


 地球じゃ、就職してもなかなか行く機会出来なかったんだよねー。ツッコミ親友や同僚に先輩達とは焼肉屋で大抵済ませてたから。


「おっもしろそうじゃねぇか! やろうぜ、そのバーベキューとキャンプ!」


 外に出ることもだけど、多分食べ物に過剰に反応してるんだろうねー。エディオスさん、子供のようにお目々キラキラされてるから。

 そして、テンション高くエンジンがかかっちゃったエディオスさんを止められるのは、きっとセヴィルさんでも難しいのだろう。諦めたのか、セヴィルさんおっきなため息吐いているし?








 ◆◇◆








 と言う経緯があり、ある程度のお仕事を終えてからなのと準備が出来次第、フィーさんの魔法で王家の避暑地に行くことになりました。

 材料は野菜と調味料以外は現地調達と相成り、僕はクラウと一緒にフィーさんやアナさん達と魚釣り。アナさんは王女様なのに、お母さんの影響で魚釣りは得意なんだって。

 前の王妃様がどんな人かなぁと気になりました。

 何匹か釣ってからちょっとトイレに行きたくなりまして、クラウをお願いしてお花摘みに。大自然で用を足すのは気がひけるけど、今回はキャンプだから別荘に行くわけにいかないので仕方ないんです。ファルミアさんとアナさんは気にしないかなぁとも思うけど、我慢の方が体に悪いからね。


「……んー?」


 簡単な水魔法で手を洗ってから戻ろうとしたら、視界に何か緑じゃない色が入って来た。

 何だろうときょろきょろしていれば、僕の頭よりちょっと上の方に姫林檎のような木の実が鈴生りになっていた!


「ふわわわ、天然のりんご⁉︎」


 栽培されてるのとかでフルーツ狩りにしか行ったことがないんだけど、リアルで自生しているのにお目にかかれるとは。

 もちろん欲しくなってぴょんぴょん跳んで手を伸ばすが……当然ながらお子ちゃまな僕には無理でした。


「むむむむ、魔法の応用してみたいけど……まだ基本だって練習中だしなぁ」


 料理で使えるものでも、風のフードプロセッサーなんて論外。実をもぐどころか破砕させてしまうだけで終わるのが目に見えてる。こんなことなら、フィーさんにもう少し魔法の実習増やしてもらうんだった。


「けど、諦めたくないーー」


 姫林檎はそのままじゃ食べにくいけど、煮たり焼いたり飴にすれば最高の食材だ。キャンプにはもってこいだと思うんです。

 マシュマロもあるけど、甘い果物だって欲しくなるはず。何より、僕も欲しい。


「お、カティアじゃねぇか?」

「エディオスさん?」


 セヴィルさん達と狩りに行かれてたはずのエディオスさんがお一人でやって来た。サイノスさんや四凶さん達もいない。


「お一人ですね?」

「そう言うお前だって。何してんだ?」

「僕はあれを取りたくて」

「あ?」


 姫林檎を指差せば、エディオスさんは不思議そうに首を傾がれた。


「こんな中途半端なメロモなんて酸っぱくて食えんぞ?」

「僕がいた世界だとこう言う品種があるんですよ。もちろん生じゃ食べ難いんですが、煮たり焼いたりすると美味しいんです」

「へぇ?」


 調理法を伝えれば、ちょうど姫林檎の枝が目の前にあるエディオスさんが一つもいで僕に渡してくれました。

 姫林檎は僕の両手にすっぽり収まるくらいの大きさ。これは焼きりんごにしたら食べ応えありそうだなぁ。


「一人一個で十分かもしれませんね」

「んじゃ、俺がもいで袋に詰めてくからそれ持って戻りな。俺はまだ狩りの途中だしよ」

「見つからないんですか?」

「食えるのとかはな。全員バラけて探してんだ」


 なるほど、そう言う訳だったんだ?

 サイノスさんや四凶さん達は腕っ節が強そうなのはわかるんだけど、セヴィルさんが戦うってイメージし難いんだよね。普段は完全に文系型のお仕事しかされてないから。


「ゼルのことは心配すんな? あいつああ見えて、俺やサイノスと張り合えるくれぇに腕が立つぜ?」

「……何にも言ってないじゃないですか」

「顔に出てんぞ?」

「うぅ……」


 この王様本当に人をよく見てるから、隠し事なんて無理なんだよね……けど、心配しなくていいのなら僕は戻るだけだ。ひょいひょいと収穫されてく姫林檎の数を数えながら待っています。


「ほれ、ちぃっと重いとは思うが」

「大丈夫ですよ」


 たしかにちょっと重いけど、戻る距離はそこまで遠くない。

 しっかり抱えてからエディオスさんには改めて御礼を言って、さあ戻ろうとしたんだけど。


「……待て、カティア」

「ほぇ?」


 急に腕を掴まれたんでどうしたのかなと振り返れば…………鋭く光る赤の瞳と目が合いました。

 それが逃げる直前の出来事。





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