2017年4月4日ーー八重に包んだあんぱんの香りpart2ーー和モノ春花企画
「なんだ? この花みてぇな甘い匂い?」
到着するなり、漂ってきた桜もといクロッサムの塩漬けの香りにエディオスさんがくいんと首を傾げられた。
「エディ達も知ってはいるはずよ?」
「あ?」
「この香り……ひょっとしてクロッサムか?」
当てられたのはサイノスさん。
ちょっぴり意外な人が当てちゃった。
「正解です。サイノスさん!」
「ああ、やっぱりか。ここ来る前に中庭で満開なのを見てきたからな」
なるほど。お庭では今クロッサムが満開なんだ?
明日辺り、クラウと一緒に観に行こうかなぁ?
「で、結局何を作ったんだい?」
「餡子をパンの中に入れたあんぱんよ。あしらいにクロッサムの塩漬けを乗せてあるの」
「花の砂糖漬けはありますが、何故塩漬けですの?」
あ、たしかに。花の塩漬けって需要はあんまりなさそうだものね。
ファルミアさんは記憶を引き出そうと懸命に首を捻っていた。
「香りと色を楽しむのためのものだものね。この塩漬けをお湯の中で泳がせれば、花が開いて風味と塩気がお湯に移るの」
「あ、前にミーアが作ってくれた縁起物のクロッサム入りの白湯だっけ?」
「そうね。よく覚えてたわね、リース」
「だって、俺達の婚約式に君が出してくれたじゃないか」
つまり、結納の時に両家のお茶として出されたと言う。
まさしく、その通りですね。用途としては合ってます。
「ん? そうだよ。ミーア、せっかくだし外で花見しながら食べようよ」
「お花見?……ああ、そうね。あんぱんの起源も花見に来た王のために献上されたことがきっかけで記念日が出来たって言うし」
「今から、ですか?」
せっかくミルクティー用意しちゃったのに、冷めちゃうのはもったいないなぁ。
「大丈夫よ。お茶は飲んじゃって、新しいのは今から給仕達に瓶とかに詰めさせればいいわ」
「まあ、たまには外で食うのもいいだろ。って、このパンとかは籠に詰めればいいか?」
「俺、いい場所知ってっから先に敷布引いて来るわ。四凶達も借りていいか?」
「ええ、いいわよ」
あらら、もう決定事項ですね。
サイノスさんはお茶を飲まれてから四凶さん達を伴ってお庭の方に行かれちゃいました。
パンの方も給仕さん達がピクニック用に使う籐籠をいくつか用意してくださって、全部詰め終えてから新しく保温の結界を張ります。
お茶は保温効果がある魔法瓶のような筒に紅茶を詰めてくれたのと簡易的な陶器の湯呑みみたいなのを準備して、場所移動となりました。
歩いて行くんじゃなくて、フィーさんが全員をサイノスさん達がいるらしい場所まで指パッチンで転送させたんです。
「ほんとに桜みたい!」
「ふゅ?」
しかも八重桜とは圧巻だね!
濃いピンク色の花びらが重なったクロッサムは風に揺られて、時折花びらを散らせていた。
その風に混じって塩漬けのと同じ甘い香りがしてくる。とってもいい匂い!
「クロッサムをサクラと呼んでいたのか?」
クロッサムを鑑賞していたら、セヴィルさんがいつの間にか僕の後ろに立っていた。
「はい。種類もいっぱいあるんですよ。白いのだったり、もっと紅いのとか黄色いのとか緑だったり」
「黄色いのや緑は俺もないな?」
「たしか、気候の差で色が変わるらしいんですけど」
詳しいことは僕もよくわかんないや。
「おーい。準備出来たよー?」
フィーさんが呼びに来たので、僕達はそちらに向かうことにした。
そこはひと際大きなクロッサムの木の下で、どうみても赤絨毯にしか見えない敷布が地面に敷かれてた。
下足の習慣はないから、ここも土足。
僕は脱いじゃいそうだったけど、皆さんが履いたままだからいいやと思ってアナさんのお隣にクラウと腰掛けた。
「じゃ、あんぱん配るわよ」
「あ、僕も手伝います」
ファルミアさんお一人に任せてちゃいけないいけない。
僕はフィーさんやエディオスさんとセヴィルさんへと順に配っていく。焼き立てのまま保温しておいたあんぱんはまだ温かくて、食べるのが楽しみだ。
クラウには、あらかじめ小さく作っておいた一口サイズのあんぱんを手渡したよ。
渡した途端食べようとしたけど、ダメって言い聞かせて待つようにさせた。
「ふゅぅ……」
「すぐに食べれるんだから、ね?」
「ふゅ」
「んじゃ、クラウが待ちわびてっから食うか?」
「いただきまーす!」
と、クラウ以上に食いしん坊のエディオスさんとフィーさんが音頭を取って先に食べ始めちゃった。
その合図にクラウは水色オパールのお目々をうるうるさせながら僕を見上げたので、いいよと頷けば、かぷっとあんぱんにかじりついた。
「ふゅふゅぅ!」
「美味しい?」
「ふゅぅ!」
かじかじ食べながらも、クラウは僕に向かって頷いてくれた。
「ん! ちょっと塩っ気があると却って甘さが際立つな?」
「けど、アンコが甘くてパンとよく合うねー」
「美味しいよ!」
『美味だ』
「いいな。こう言うパンの食べ方も」
「美味しゅうございますわ!」
「今日の餡子は甘めだけど、あんぱんにちょうどいいわ!」
良かった。皆さん気に入ってくれたみたい。
そう言えば、セヴィルさんはと振り返ってみると、小さくパンをちぎって食べていたよ。
「甘いですけど、どうですか?」
「ん? 美味いぞ。パンが香ばしいからかそこまで甘さが気にならない」
とのことです。それは良かった良かった。
なので僕もあんぱんにかぶりつけば、まず香ばしい小麦の香りが口いっぱいに広がってくる。
歯でパンをちぎって口に入れれば、ちょっとひっついてきた餡子の欠けらがパンの甘みと合わさって美味しい。
もうひと口かじれば、今度は餡子がダイレクトに口に入って来て、それとクロッサムの塩漬けも一緒に食べたからかすっきりした甘みと塩気が餡子の甘さを際立たせる。
老舗には負けるだろうけど、これでも十分美味しいあんぱんになっているよ!
「美味しい!」
「ふゅ!」
パクパクパクパクとあっと言う間に一個食べてしまい、二個目突入しちゃったよ。
日本人にはお馴染みの菓子パンを手作りもだけど、実食するのは久しぶりだからね。
どんどんお代わりしちゃうよ。
クラウも自分用のサイズがなくなれば、まだ欲しいのはいつものことなんで大きいのをちぎりながらあげました。
「おいおい、そんなに急がんでもパンはまだあるぜ?」
「う」
サイノスさんに指摘されて、珍しく自分ががっついてたのに気づいて急に恥ずかしくなってきちゃった。
「ふふ。ピッツァよりもカティや私には馴染み深いお菓子だもの」
「面目ないです……」
「けど、このパン美味いな」
「ええ、お茶とも良く合いますわ」
僕個人としては緑茶がいいんだけど、この世界にあるかわからないからなぁ。
だけども、
「これには抹茶ラテとかで食べたくなるわね……」
同じ世界出身者のファルミアさんがいるからわかるかもしれない!
海苔や餅とかの和食食材って、ヴァスシードの方が断然多いらしいし!
「ファルミアさん、この世界には煎茶とかはあるんですか?」
「ええ、あるわよ。私は抹茶ラテを実家でもだけど城でも良く飲んでたりするわ」
「なら、次は抹茶あんぱんですね!」
「それはいいわ!」
次はそうしようと二人で手を取り合った。
「なにやら美味しそうなものなんですね?」
「リュシアも気にいると思うわ。抹茶は女子にはときめき要素満載の食材なの」
「ときめき?」
アナさんにはちんぷんかんぷんなようで小首を傾げられちゃった。
「まあ、こちらには近々特上のを献上させてもらうけど、うちで普通に扱ってるのを明日辺りに転送させるわ。抹茶ラテをご馳走してあげてよ」
「抹茶ラテですか!」
「ラテ、ってなんなんだよ?」
「コフィーの一種で、マッチャと温めた牛乳を混ぜた飲み物なんだよ。ちょっと癖あるけど俺は好きだな」
ユティリウスさんの説明に、エディオスさんはふーんと言いながらあんぱんを食べていた。
「けど、美味いな。アンパンって」
「豆の種類を変えたり、生クリームを入れたりもするんですよ」
「やべ、想像しただけで美味そうだな」
「俺はこのままでいい……」
ありゃりゃ、セヴィルさんは生クリームとか得意じゃないから蒼褪めちゃった。
「以前の善哉の時もだけど、食わず嫌いは良くなくてよゼル?」
「あまり生クリームは得意でないと言っただろうが」
「餡クリームの素晴らしさを知らないのがもったいないわ!」
「せめて、塩餡にします?」
「カティ、それもいいけどゼル優先し過ぎもいけないわ」
けど、食べにくいのを美味しく食べてもらいたいだけなんですが。
僕がそう言えば、セヴィルさんは顎に手を添えられた。
「カティアがそう言うならば、少しは挑戦してみるか?」
「聞いた? なら、明日は生クリームあんぱんよ、カティ!」
「それと抹茶が来るんでしたら、抹茶あんぱんもですね」
どっちも作るの楽しみ!
結局はお花見より団子な感じのお茶会になっちゃったけど、これはこれでいいよね?
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