2017年4月4日ーー八重に包んだあんぱんの香りpart1ーー和モノ春花企画

 季節は春めいてきて、気候もだんだん暖かくなってきています。

 僕は今日も今日とて文字のお勉強中。

 今日はフィーさんが用事も特にないからとご教授してくださってます。

 クラウはこの前の風邪はどこに行ってしまったかってくらい元気いっぱいだよ。


「ふふふゅゆ、ふーゅゆゆゆ、ふゅふゅゆ」


 何の歌だろうかと初めは思ったけど、僕が前に歌ってたりした童謡を真似してるみたい。

 しゃべれないのが難点だけど、可愛いからいいよね!


「あ、カティア。そこ違うよ?」

「ありゃ……」


 クラウに意識傾けてたらうっかり間違っちゃった。


「少し休憩しようか? 結構進んでるし」

「……そうですね」


 根詰め過ぎても捗る訳でもないからね。

 なので、フィーさんが魔法でティーセットを用意してくれてひと息つくことに。

 クラウにもお碗一杯の温めの紅茶を用意してくださいました。


「それにしても、気候も大分暖かくなってきたね」

「春ですよねー」


 この間まで寒かったのが嘘なくらいな温暖気候になってきてます。

 春の食材だと山菜とかが色々出てくるから、そういった食材使って和風ピッツアとかいいよなぁ。

 花より団子思考で相変わらずごめんなさい。


「ふきゅー」


 お碗で飲むことに慣れたクラウはお腹をぽんぽんさせていた。

 可愛いのでナデナデしてあげれば、猫や犬みたいに気持ちよさそうにしてくれた。




 コンコン。




 とここで、ノックの音が。

 誰だろうか?


「カティ、私よ。今いいかしら?」


 ファルミアさんだったよ。

 ちょうど休憩タイムだったから問題ない。

 僕は返事をしながら扉を開けに行く。


「ちょっといい物が手に入ったんで呼びに来たの」


 四凶しきょうさん達のお姿はなくてお一人だったけど、とってもご機嫌な感じだった。


「いい物ですか?」

「ええ。あなたにはきっと馴染み深いものだわ」

「僕に?」

「ねぇねぇ、なんのこと?」

「あら、フィーもいたのね?」

「ふゅ!」


 僕もいるよーって、クラウは僕の頭の上にぽふっと乗って来た。


「忘れてないわよ、クラウ?」

「ふゅ」

「ところで、いい物ってなーに?」

「そうね。百聞は一見にしかず。皆食堂に来てちょうだいな。今そこに置いてあるのよ」


 と言うことで、全員で食堂に向かうことに。

 食堂に行けば、テーブルの中央には小さな木箱が置かれていたよ。ただの木箱じゃなくて、桐みたいな上質の白い木箱。

 ファルミアさんはそれを手に取って、なんのためらいもなく蓋を開けた。


「これなのよ。カティにはわかるだろうけど」


 差し出された箱の中身を見せてもらえば、ふんわりと独特な甘い香りがしてきて、中にはピンクの花の塩漬けが入っていた。


「これって、桜の塩漬けですか?」

「ええ。こっちじゃ桜じゃなくてクロッサムって呼び名なんだけど、見た目はほとんど桜と一緒よ」

「サクラって、クロッサムのことなの?」

「はい。蒼の世界でも僕やファルミアさんがいた日本に多い樹なんですけど」


 こっちの世界にもあったなんてびっくり。


「この塩漬けは私が輿入れする前から実家で作ってたんだけど、去年から漬けてたのがいい出来だったからって城から送られてきたの」


 相変わらずなんでも出来ちゃうんですねファルミアさん。


「これで何を作るんですか?」


 大体は予想つくけど、一応聞いてみた。


「うふふ。カティも予想しただろうけど……あんぱんはどうかしら?」

「いいですね!」

「アンパン? っと言うと、パンにアンコ使うの?」

「ええ、その通りよ。パン生地に餡子を包んで、このクロッサムの塩漬けを一輪乗せてから焼くの」

「…………なんか美味しそう!」

「ふゅゆ!」

「あんぱん久しぶりですねー」


 たまにおやつで作ったりしてたけど、そう言う時は餡子は既製品使ってたんだよね。

 だけど、今日は完璧に一から手作りだ。


「生地は私が作るから、カティは餡子をお願い出来るかしら?」

「はーい」


 もちろんですとも。

 なのでフィーさんにクラウを預けて、マリウスさん達に許可を取ってからハチャ豆を湯がきにかかりました。


「甘いパンなんて斬新だね」


 濾す作業を手伝ってくださるライガーさんが、途中そう言ってきた。


「ジャムパンとか作らないんですか?」

「ジャムは基本塗るか、サンドイッチの時に挟む程度だからね。ジャムパンってどう作るの?」

「今日作るみたいに生地に包んで焼くだけですよ」


 もっと違うやり方もあるだろうけど、大体はそんなところかな?


「へぇ。それだけなら、今度作ってみるよ。春季だから木の実の食材が色々取り揃うしね。カティアちゃんも一緒に作るかい?」

「お邪魔でなければ」

「むしろ大歓迎だよ」


 じゃあ、マリウスさんにもお知らせして早いうちに作ろうかと言うことになりました。

 そう話してる間に、餡子作りは着々と進んでいき、ファルミアさんのパン作りも順調に発酵作業まで進まれてた。


「ん、ちょっと甘味強いけどこれくらいだね」


 善哉よりは強めの甘さにしたけど、すぐに冷却すればいくらか和らぐからね。

 出来上がった餡子を鍋ごと魔法で冷却しちゃえば、美味しい粒餡の完成です。


「ファルミアさん出来ましたー」

「ありがとう。こっちも塩漬けの塩抜き終わったし、餡子を人数分丸めましょうか?」

「はーい」

「僕も手伝っていい?」

「いいですよー」


 クラウは僕の頭の上に場所移動して、餡玉作りに全員で取り掛かりますよ。

 冷却したから冷めきった餡子をスプーンですくい、ころころとピンポン玉サイズくらいの餡玉を作っていく。


「うん。パンの一次発酵も終わったし、成型出来るわ」


 成型は取り分けたパン生地の中に作った餡玉を包み込み、軽く平らにします。

 この後にしなくてもいいらしいけど、今日はクロッサムの塩漬けを乗せるから、そのためにくぼみを作る。このまま二次発酵なんだけど、乾かないように濡れ手拭いを被せます。

 それを餡玉と生地がなくなるまで繰り返せば、台の上全体が濡れ手拭いで覆われた。


「結構圧巻だねぇ」

「まあ、ここの厨房分のことも考えれば捌き切れるわよ」


 その間に全員呼んでおこうとフィーさんが伝達の魔術でお知らせしてくださいました。

 僕もやってみたいけど、要練習中なんでまだ難しいです。


「じゃあ、今のうちに分担決めるわよ。卵でツヤ出しつけるのは私で、塩漬けを乗せるのはカティでいいかしら?」

「はーい」

「僕は?」

「フィーは窯に入れる時の作業手伝ってちょうだいな。カティじゃ届かないものね」

「いいよー」


 僕の身長がお子ちゃまのままなので、そこは申し訳ありましぇん。

 しばらくして二次発酵も終わり、予定通りにファルミアさんが刷毛で溶き卵をパンに塗って、僕が塩抜きしておいた桜の塩漬けを一個ずつ乗せていった。

 全工程が終われば、フィーさんが天板ごと釜の中に入れていく。

 ゴウゴウと燃え盛る火に炙られていくパンは、膨らんで焦げ目がついていって、ファルミアさん監修の下焼き加減が決まればフィーさんがミトンをつけた手で取り出してくれました。


「ツヤツヤふっくら!」

「ふゅゆ!」


 美味しそうなきつね色のあんぱんが出来上がりました!


「この調子でどんどん焼いていきましょうか。先に焼けたのは保温の魔法で結界張ればいいわね」

「じゃ、カティア。魔法の練習兼ねてやってみようか?」

「……はーい」


 実践あるのみだもんね。やるしかないか。

 だけど、時間操作に比べれば簡単で、保温ヒーター的なのをイメージしちゃえば楽チンでした。

 前にフィーさんがミキサーする時に張った膜よりも簡単だったよ。


「広がれ、包め。熱を逃がすな……【温膜サージュ】」


 呪文を唱えただけじゃ何にも見えないんだけど、触ればほんわかあったかい膜が天板周りに張られて、熱を逃がさないようにしてくれてるんだ。


「ふーゅゆ?」


 ちょんちょんとクラウも触ってみてるけど、あんぱんには直接触れていない。

 ちゃんと障壁の役割を果たしている結界が出来た証拠だ。

 これを焼き上がった順に繰り返していけば、おやつの時間もあっと言う間に来ちゃった。


「これで最後だねー?」


 最後は熱々ホカホカのだから結界は張らない。

 なので、マリウスさん達が食べてくれる方に回すことになった。

 ああ、僕も久々だから早く食べたいけど我慢だ。

 給仕のお姉さん達とロイヤルミルクティー的なのを淹れておやつ会の準備に勤しみます。

 ホットミルクはクラウだけにしておいて、僕らは大人だからとミルクティーにしました。

 僕は見た目お子ちゃまだけど、中身は成人してるんだよ? 時々忘れそうになるけど。

 用意が整えばいざ食堂へ!

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