2017年4月1日ーー愚人戯れる季節
それは唐突に起こりました。
「ねぇ、カティ。ちょっと時間いいかな?」
「はぁ……何でしょうか?」
お昼ご飯も終わって少ししてから、ファルミアさんじゃなくてその旦那さんのユティリウスさんに呼び止められたんだよね。
クラウはお眠で僕の腕に抱っこのまま、他に誰もいなくて廊下でぽつねんとしております。
「昔ミーアから聞いた面白い風習が蒼の世界にあるって思い出したんだけど」
「? 何をですか?」
あんまりいい予感はしないけど。
「たしかこの時期だったかな? 1日だけ嘘ついていいって言う日があるのって」
「もしかして、エイプリルフールですか?」
「そう! それそれ」
けど、あれって諸説あるけど……たしかお昼までならいいとか色々あったよなぁ。
まあ、この黑の世界じゃ関係ないか?
「エイプリルフールがどうかしたんですか?」
「んふふー、そう言う日があるんなら今日くらい実行してみたいじゃないか」
「はぁ……僕を呼び止めたのは?」
「君にはゼルに実行してもらおうかなぁって」
「何でですか!」
意味わかんないよこの王様は!
「……ふゅ?」
「あ、ごめん。起きちゃった?」
思わず大声上げちゃったらクラウが起きちゃったみたい。
けど、まだ寝ぼけ眼だったからうつらうつらと揺れてすぐに目を閉じちゃった。
「クラウは部屋に寝かせて来たら?」
「そうします……って、もう決定済みにしないでください!」
「えー、俺だってエディ達にするのに?」
「そう言う問題じゃありません!」
そもそも、僕なんかが嘘をついちゃっても勘の鋭いセヴィルさんにはすぐにバレちゃうもの。
そう言えば、ユティリウスさんはうーんと首を捻った。
「まあ、普通に嘘ついてもあいつにはすぐバレちゃうだろうね?」
「でしょう? セヴィルさんには無理ですって」
「珍しい組み合わせだな? 何話してんだよ」
「サイノスさん」
僕の後ろの方からサイノスさんがやって来られたよ。
「やあ、サイノス」
「どうしたんだ?」
「ユティリウスさんが僕にセヴィルさんへ嘘言って来いって言うんですよ」
「ゼルに? なんでまた?」
「カティがいた世界じゃこの時期に1日だけ嘘言ってもいい日があるらしくってね。俺もエディに仕掛けようとしてるんだけど」
「1日だけ嘘を言ってもいい? おかしな風習だな?」
「起源ははっきりしてないんですよね」
もともと海外から輸入されたイベントなんだけど、いつの間にか日本にも定着してただけだし。
「ん? いや待てよ。ゼルに仕掛けるんなら、たしかにカティアから言うのは効果があるだろうな」
「でしょう?」
「ほぇ?」
あれ、なんかサイノスさんノリノリ?
そして、僕とクラウを置いておいてユティリウスと二人でこしょこしょ内緒話をし出した。
「……だから」
「だな。んで、ゼルを執務室から引っ張り出せば」
とか聞こえるけど、この隙に僕はクラウを寝かしつけるために部屋へ戻ろうとした。
が、気配に敏感なサイノスさんに気づかれ、肩をぐわしっと掴まれちゃったから無駄に終わる。とほほ。
「逃げるのはいただけねぇな。カティア?」
「ぼ、僕に何をさせるんですかぁ!」
「ちょっとした嘘だよ。カティには俺が魔法をかけるから、それでゼルに会ってもらえればいいんだって」
「魔法?」
なんでかける必要があるんだろうか?
とにかく、サイノスさんに肩を掴まれたまま引きずられ、僕達はエディオスさんの執務室に向かった。
ユティリウスさんがノックをされると、中には側仕えのお兄さんがいたようで、セヴィルさんを呼ぶかと思ったら何故かエディオスさんが出て来られた。
「なんだ? 別に用があんなら中に入って来いよ?」
「いやー、ゼルがいるしちょっとねぇ?」
「は?」
「エディ、耳貸せ」
と、また僕は置いてけぼりでこしょこしょ話し合われてしまいました。
この隙にクラウをーと思っても、サイノスさんにまだ捕まったままなんで無理でした。
「なるほど……それは面白そうだな?」
「んで、
「いいじゃねぇの? じゃ、俺はゼル呼んでくるぜ」
なんか段取りが決まっちゃったぽい?
そして、僕はユティリウスさんの前に立たされました。
「クラウは俺が抱えててやるよ」
「何するんですか?」
「カティを一時的にお姫様っぽく仕立ててあげるよ」
「はい?」
お着替えですのこと⁉︎と思ったけど、クラウは取り上げられたから逃げる余地がない。
仕方なくじっとしてれば、ユティリウスさんが僕の前に手をかざしてきた。
「んー、色は前のどっちでもいいから……併され、広がれ、彼の者の今にーー【
呪文が唱えられたら、僕の目の前がシュバっと白い光に覆われた……いや、僕が包まれた?
反射で目を瞑ってしまったが、特にこれと言って変化はナッシング。あれ?
「カティ、鏡も創ったから自分の姿見てみなよ?」
「う?」
目を開ければ、心なしかユティリウスさんの顔が近く見えた。
近く見えた?
ぐりんと後ろを向けば、相変わらずの高身長のサイノスさんがクラウを抱えてらしてたけど、その手がいつもよりは間近に見えた。
おややぁ?
とりあえずは、ユティリウスさんが用意してくれたって鏡を見てみませう。
「え、え、えぇえ⁉︎」
誰これと叫ばなかったのは褒めたい。
と言うか、鏡に写ってる金髪虹眼美少女はどう見ても『僕』ですよね?
年齢が8歳児どころか16歳前後くらいまでおっきくなってるよ!
服装もフリル満載の水色のドレスを着ているから、まさしくお姫様スタイルになっている。
「こここここれ!」
「一種の幻惑の魔法だよ。変装する時にも使ったりするんだ」
「ま、魔法で?」
たしか、ふぉぜって言ってたから前に目の色変えた時に使った魔法かな?
けど、ここまで見た目も服装も変えちゃうことが出来るなんてびっくり。
「ある程度予想してたが、200歳程度のカティアはこんな風なんだな?」
「だねー? で、カティにはエイプリルフールってことで、ゼルに身体の封印が解けたって嘘ついてきてよ」
「え」
この姿にしたのはその為?
「バレませんか?」
「大丈夫大丈夫!」
どこに安心出来る要素あるんですか!
「おーい、ゼル連れて着たぞ?」
もう連れて来られたんですか、エディオスさん!
思わずサイノスさんのマント裏に隠れちゃったけど、エディオスさんとは目があっちゃったからばっちり見られたと思うの。
「へぇ? そうなるとはな?」
「なんだ? 俺に用があるのはカティアじゃなかったのか?」
セヴィルさんにはギリギリ見られていなかったみたい。
とは言え、嘘なんてつけれるのだろうか?
つかないといけないのかなぁ?
「? カティアの姿が見えないが?」
セヴィルさん僕を一生懸命に探されてるよ。
ああ、婚約者さんに出来るだけ嘘つきたくないけど、もうここは乗っかった船だもんね。やるしかないか。
「セ、セヴィルさん、ここです……」
幼児に比べればいくらか高い声になっちゃってるけど、わかるかな?
とりあえず、サイノスさんのマントから顔を出せば、すぐにセヴィルさんとバチって目があっちゃったよ。
「は? カティア、なのか……?」
僕を視認するなり、確認の問いかけをしてきたが、僕の特徴的な虹色の眼を見れば断定はしてくれたようで目端から順に顔が赤くなっていくよ。
「見違えたでしょ?」
「な、何故いきなりそんなにも!」
「え、えっと……なんか急に戻ったみたいで」
とりあえずは任務として与えられた嘘をつくしかない。
もしょもしょっと言えば、ツカツカとこちらに歩いてくる音がしたので、なんだと顔を上げれば焦った様子のセヴィルさんがいた。
「急にだと? 不調はないか。身体のどこかが痛んだりとかは」
「え、別に大丈夫ですけど?」
「フィルザス神にはもう告げたのか?」
「あ」
これが嘘で魔法の仕業ってバレるが落ちだから彼には知らせていない。
と言うか、お昼以降からフィーさんには会ってないしな。
「会ってませんね」
「では俺と共にフィルザス神の部屋へ行こう。どうもその姿では、元の年齢と相互が起きているしな」
「はいはーい。さっすがゼル! 俺がわざとカティに年齢操作の
ぱんぱんと手を叩いて割って入ってきたのはユティリウスさん。
すると、またぱんぱんと手を叩いて、ぽんっと僕の近くから音が聞こえてきた。
おやっと手を見れば、元?の幼児体型に戻ってた。
ありゃ、ネタバラしご自分でされるんだ?
「……お前が?」
あ、これはヤバイかも。
サイノスさんに目配せすれば、こくっと頷かれたんで僕は再びサイノスさんのマントの後ろに隠れました。
「何故こんな事をした……?」
「カティやミーアの故郷の風習の1つに、1日だけ嘘ついていいって言うのがあってね。君にちょっとばっかし刺激をプレゼントしてあげようかなって」
「刺激か……ああ、たしかに刺激は受けたな」
だがしかし、とセヴィルさんはユティリウスさんの方に向かって駆け出した。
「それにカティアを巻き込むな!」
「御名手なんだからいいじゃない」
じゃあねー、とユティリウスさんはばびゅーんと言う勢いで廊下を走っていっちゃった。
当然、セヴィルさんは逃がすつもりがないので追いかけていく。
「やーっぱ、こうなるか?」
「ま、たまにはいいんじゃねぇの?」
いえ、いいんでしょうか。こう言う展開って。
とりあえず、僕はまだこの状況でもずっと寝ていたクラウをサイノスさんから返してもらった。
「ユティリウスさんとセヴィルさんだとどちらが体力あるんですか?」
「見たまんま、ユティの方だぜ? ゼルもなくはないが、ユティと比較しちゃ弱いな」
「…………もう、エイプリルフールはやめておきましょう」
セヴィルさんの心労増やすばかりになるだろうから、今回のような顚末になる方がしんどそうだもの。
結局、ユティリウスさんとセヴィルさんの追いかけっこは2時間程度で終わったようです。
と言うのも、エディオスさんが言ってたようにセヴィルさんの体力の限界がそこら辺で来てしまったようなので。
僕はお詫びじゃないけど、セヴィルさんが食べやすいって前にも言ってくれたリモ二ピールのパウンドケーキを作って、おやつに食べてもらいました。
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