2017年2月14日ーーか弱きものも魅せられる千代香(チョコ)part4ーードラゴン愛企画
すべてが完成したら、我らは食堂の方へと戻った。
が、しかし何故。
(何故主人もだがセヴィル達までいるのだ⁉︎)
おまけに数度だけ相見えた隣国の王とやらに、王妃とその守護妖達が人型として席に着いている。
いつもなのか?
いつもこのように揃って……主人は我に一向に気づきはしていないが、卓に乗せられたカティアと創世神が作ったピッツァとやらに興味津々だ。
「んじゃ、そこの赤子のためだが俺らも食おうぜ」
と、主人が言い出したのをきっかけに皆は素手で切れ目が入ったピッツァを皿に乗せていく。
我の分はカティアが乗せてくれた。
ちなみに、我の席はカティアと主人の妹御の間だ。セヴィルの方でなくて心底良かったぞ。
そのセヴィルには時折視線が投げられるが、もしや気づかれているかもしれん。
だが、色々と不可抗力があったのだから、自発的に抜け出してきたのではないぞ?
「食べやすいようにちっちゃく切ってあげるね?」
「あう(わかった)」
それよりも、せっかくカティアが作ってくれたピッツァを食す事に専念しよう。
素手で食べたいところだが、手が小さ過ぎる故に持ち上げにくいからとカティアがさらに切り分けてくれた。
我の右手には赤子用の小さな3本の突起がついた棒を握らされている。これに刺して口に運べは良いそうだ。
「あーぅ(ふむ。甘い匂いが凄いが、食欲をそそるな。どんな味か)」
まずはココルルのではなく、創世神が作っていた白いのと果実がふんだんに使われたものだ。切ったためか、果実からは汁が垂れていて甘酸っぱい匂いが鼻をくすぐる。
しっかり刺して、口に運んでみた。
「……どーぉ?」
「………あう!(美味い!)」
キジと呼んでいたものはもちもちとした食感だが、わずかに海の味のような塩気を感じた。しかし、その上に乗っていた白くもったりしたものと果実達の甘味や酸っぱさが際立っていて、とても美味い!
生肉や果実だけの美味さとはまた違う美味。
我は夢中になって棒で刺しては口に運び、何度も歯で噛んで舌の上で楽しんだ。
「ふゅふゅぅ」
クラウは素手で食していたが、我と同じように歓喜の声を上げて頬張っていた。
「まあ、ものすごい食欲ですわ」
主人の妹御からそんな声が聞こえてきた。
たしかに、皿の上のものはあっと言う間に消えてしまった。
(だめだ。もっと口に入れたい)
しかし、大きな皿に乗っているものの方には手がどうやったって届かない。
魔術を使えば創世神もだが、他の者が我を奇異の目で見てくることが確実故に行使出来ない。
どうしたものかと思っていたら、
「お代わりねー。こっちのココルルのは一枚だけいいよ」
と言って、カティアが取り分けてくれた。
そして、また切り分けてくれたので嬉しい。
「あ、あぅ?(こ、この味は?)」
なんとわずかに苦味を感じ取れる上に追いかけてくる強い甘味。
我がこの姿になるきっかけとなったあの果実に近い味がした。
しかし、身体の方に異変は起きない。
それよりも、この味がなんとも言えないな。モシュロンと呼んでいた白いのが表面はカリカリとところどころ歯に心地よく、中はふんわりとして舌の上で蕩ける。
これは果実の方よりも好みだ。
夢中になって貪った。
「あー、予想通り口の周りココルルだらけ」
どうやら、我の口の周りはココルルとやらで汚れたらしい。
すぐにカティアが濡れた布で拭いてくれて綺麗になった。
「あう、あーぅ!(これをもっと食べたい!)」
「えー、ココルルは赤ちゃんには基本ダメだからもう食べちゃだーめ」
「あう⁉︎(何故だ⁉︎)」
クラウも赤子ではないか!
いや、神獣だから良いのか?
解せぬ……解せぬぞ!
「あぅ、ぅう……(何故だ……)」
何かが込み上がってくる。
しかし、我慢など出来ぬ。
我はその感情に任せて、えぐえぐと声を上げた。
「わ、わわわ⁉︎ な、泣いちゃった‼︎」
「「「「「は?」」」」」
「まあ」
「ふゅ?」
「あーぅう‼︎」
頰に何か熱いものが流れ落ちる。
久しく感じた、たしか涙と言うものだ。
悲しいのか、いや、哀しいな。
子竜の時に幾度か泣いたがそれ以来だ。
今は赤子故か感情任せになってしまっている。
「こーら、ワガママ言わないの」
ふっ、と身体が浮き上がった。
なんだと泣くのをやめれば我の身体が術か何かで椅子から宙に浮かんでいた。
これは一体?
【随分甘ったれた態度でいるねぇ?】
こ、この念話は!
そうだった……創世神も同席していたのを忘れていた。しかも、バレていたのも。
ぐぎぎと首を動かしてそちらを見れば、顔は笑っていたが目が笑っていなかった。
【え、あ、いや……】
【君は今人族の赤子なんだから無茶言わない方がいいよ? でないと全部没収するし、僕が適当に言い訳つくって獣舎連れてって元に戻させるよ?】
【それは……⁉︎】
もうカティアの料理が味わえない⁉︎
ココルルのが食べられないのは嫌だが、それも嫌だ!
がくっと頭を下げれば、身体は椅子に降ろされた。
「泣き止んだ!」
「赤子はこの手を使えば落ち着くでしょ」
「それにしちゃぁ、なんで急に落ち込んだんだ?」
主人よ。色々あったのだ。
仕方なく息を吐くと、頭に何か温かいものが触れた。
「えらいえらいねー」
カティアだ。
そちらを向けば、にこにこ笑っていた。
堪らず、我はカティアの胸に飛び込んだ。
「わぁ⁉︎」
「ふゅゆ⁉︎」
ああ、温かくていい匂いがする。料理をしていたからか不思議な甘い匂いもする。稀有な魔力の香りも合わさって更にいい匂いに。
【……調子に乗るな】
はて、念話?
創世神のものではないが、一体誰が?
「あ、あぅ⁉︎」
顔を上げれば、カティアの背後でセヴィルが上からこちらを睨んできていた。
まさか、セヴィルに気づかれたのか⁉︎
【赤子とは言え、言葉は理解しているのだろう? 聡いのならば俺の念話の意味がわかるはずだ。カティアから離れろ】
有無を言わせない力強さ。
その勢いに押されて、我はカティアからそろそろと離れた。
どうやら、バレてはいないが不愉快に思われたようだ。
たしかに、御名手として相手を護るのは当然だからな。赤子とは言え、敵対するものと認識されてしまったのだろう。これ以上刺激してしまうのは得策ではない。
「あ、あぅ。あーぅ(カティア、あの果実のが欲しい)」
なので、赤子のフリに徹するだけだ。
でなければ、創世神に理由をつけられて獣舎に戻されてしまう。
「はいはーい。お代わりね」
「それと、赤子にはこれもいいわよ」
これはたしか隣国の王妃の声だ。
後ろに振り返れば、彼女は手に橙色の四角い形をしたものが乗っている皿を手にしていた。
「あ、ゼリーですか?」
「ええ。冷却魔術も使って、ささっと作ってきたの。味は無難にオルジェよ」
「あう?(ゼリー?)」
ことんと我の前に置かれたゼリーとやらからは甘酸っぱい匂いがしてきた。
皿の上には他に丸いものがついた棒が乗っていたが、これで食すのだろうか?
「いーい? このスプーンでこうやってすくって食べるの。はい、あーん」
王妃が口を開けるよう促してきたので、食べ方を見つつ口を開けた。
棒に乗せられたゼリーのかけらを口に入れられ、頬張ればいつか主人と口にした甘酸っぱい果実の味が広がった。
「あう!(美味い!)」
「気に入ってもらえたようね?」
こくこくと頷くと、王妃は棒を我の手に握らせてくれた。
夢中になって、すくっては口に運び舌の上で崩しては飲み込むを繰り返せば、ゼリーとやらも瞬く間になくなってしまったが、なんとも言えない満足感が得られた。
「……あぅ(これが、口福感と言うものか)」
カティアのピッツアもだが、王妃のゼリーとやらも実に美味であった。
主人達が羨ましい。いつもこのような美味なるものを食してるなどとは……いかんな。この味を知ってしまったからにはいつもの餌が物足りなくなってしまうぞ。
幼き頃につまみ食いしていた時は、そう言えば生肉だけでは物足りなかったな。
「……あやつ」
「あの気は……」
「まさか、な」
「ここで明かすにもフィルザス神があのようであったからな……我らも閉口しておこうぞ」
もしょもしょと奥から小声が?
振り向けば、こちらも忘れていたな王妃の守護妖達!
あちらは我と違い術で人型になっているが、威圧感がセヴィルや創世神と差異ない……いや、我が王妃から食物を分け与えてもらったのに怒っているのか?
目もだが、背後に一度見たきりの本性の姿が影越しに見えた気がした。我ら聖獣とは同じようで異なる異形の姿故、我でも畏怖の感情が隠し通せない!
「ちょっと、
『う……』
王妃に叱咤された守護妖達は身体を竦ませて我へと向けてた恐ろしい気を収めた。
「あ、ピッツァあんまりないですね。僕焼いてきます」
「カティア、このココルルの美味いな? モシュロンも焼いて食べるなんて初めてだぜ」
「モシュロンは炙ったのをクッキーやビスケットに挟むと美味しいんですよ。そこからヒントをもらったんです」
「あれね。キャンプじゃ定番のデザート」
「「「キャンプ?」」」
「野営のことよ。あえて外で寝泊まりする遠出のことを言うの。モシュロンは木の枝に刺して焚き火で炙ったのをカティが言ったようにおやつとして食べたりしてたのよ」
ふむ。我も幼き頃によく主人と神域近くの森に迷い込んだ時に野営はしたな。
翌日見つけられた時には、セヴィルやサイノスもだが城の重鎮達にも盛大に叱られた。懐かしい。
「野営は遠征訓練以外じゃ、ガキん頃にディシャスと何度か行ったきりか?」
おお、主人よ。思い出してくれたのか。
「お前達のは野営と言えるか?」
「慣れない神域の森でただ迷子になってただけだろ?」
「おい!」
それは否定出来ぬな。
我は残っていた果実のピッツァをカティアに切り分けてもらったのを頬張りながら思い出す。
「そう言えば、ディシャスとも随分会ってませんね。クラウ見つけてくれた御礼も結局言ってないし」
「あう⁉︎(あっ⁉︎)」
い、言いたい。
我は姿は違えどここにいるのだと物凄く言いたい!
しかし、皆にもバラせば後がどうなるか……恐ろしい目に遭うと言うのは予想するまでもない。創世神を除いても強者揃いのこの中で生きて帰れるか。
「あー……ディにはしばらくお前と会えねぇように釘刺してたからな?」
「会わせぬままでいいだろう」
「え、どうしてですか?」
「俺は見たことがないが、エディオスが言っていた親愛の証をこれでもかと押し付けられるぞ?」
「親愛? あー……もしかしてベロベロ舐められたりとかの?」
我もあれはやり過ぎたとは自覚している。
しかし、どうも匂い付けしたくてたまらない衝動に駆られたのだ。許せ、カティア。
「カティは色んなものに好かれる体質を持っているようね?」
「動物は好きですよー? ディシャスも最初はびっくりしちゃいましたけど、慣れたら可愛かったですし」
「あう!(そうか!)」
嫌われてはいないのだな、それは良かったぞ。
「え、赤ちゃんディシャス知ってるの?」
「う(しまった!)」
ついうっかりと相槌してしまった。
「こんな赤子が竜の獣舎に行けれるわけねぇだろ? てか、こいつマジでどこの家のもんだ?」
「身なりから伯爵以上の家の者だろうが、それにしては利口過ぎるな」
「俺が抱き上げても愚図りもしなかったぜ?」
「「「嘘だ⁉︎」」」
「ユティまで言うか⁉︎」
ああ、どうしたものか。
主人達がサイノスと言い合っているこの隙に無理矢理転移でもうどこかへ身を隠して、元に戻るまでじっとすべきか。
(いや、もうそれしか)
カティアの料理も充分味わったし、この機会を逃すべきではない。
だが、守護妖達もだが創世神の目をかいくぐって抜け出せれるかが難しい。
やるだけやるか。
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