2017年2月14日ーーか弱きものも魅せられる千代香(チョコ)part3ーードラゴン愛企画
いかん。
カティアの側は離れたくないが、この人族がいるとなると退散したくなる。
バレても良いから転移すべきか?
いや、しかし、まだ戻る気配もなく獣舎に戻っては同胞達に頼んできた意味がない。
仕方ない。極力赤子のフリをしてやり過ごすしかあるまいな。
「「「あ、すみません‼︎」」」
「戻るぞ!」
「失礼します!」
「あー、抱っこしたかったぁ」
「だから、お前肉触ってたんだからダメだろ」
マリウスの怒号によって、人族達が離れていった。
ふむ。あれだけ騒がしいのは好まぬからそこは助かった。だが、代わりに奴が近づいてくる。
平常心平常心!
「こんにちはカティアさん。ですが、この赤子が?」
「カティアが見つけたようでな。無茶苦茶腹空かせてるんだが、この年齢の身内は俺もいなくて困ってたとこだ」
「ふむ。食べやすいものもですが、刺激物の強過ぎるものでなければ基本は我々と同じで大丈夫ですよ」
どうやらびくびくしてては却って怪しまれるだけだからな。サイノスの服にしがみついていると、マリウスは厳しい表情を解いて我をじっと見つめてきた。
「しかし、着ているものが上等過ぎますね。何故城内でもそのような場所に?」
「僕も偶然見つけただけなんでわからないんです」
「ふゅふゅ」
あまり近づかないでくれ。
是非にその場からこれ以上来ないでほしい。
ぐぎゅるるるるるる
また盛大に腹の虫が叫んだ。
本当に落ち着かぬな、この身体は。
「はっは。これはまたすごいですな」
ふむ。この人族、このように笑うのだな。
まあ、主人とつまみ食いせぬ場合は基本荒い性格の者ではなかったが。
「しかし、何故こちらに連れて来られたのですか?」
「どうもこの赤子、カティアにえらく懐いてるみたいでな。俺が抱えてても問題はないみたいだが、側から離れるのはいやらしい。邪魔はしないようにするが」
「なるほど。ですが、簡易的にお腹に何か収めなくては落ち着かないでしょう。ライガー、赤子でも食べれそうな白パンにプチカジャムを挟んであげなさい」
「わかりました」
おお、何か渡してくれるのか?
それから程なくして、我の前に白い塊が差し出された。何か挟んであるようで赤い筋が見えたがなんだろうな?
「はい、お口開けてくれるかなー?」
食べて良いのか?
つまみ食い以外で人族の食物は久しい。
それに我は今人族の赤子故に遠慮はいらぬな。
出来るだけ大きく口を開ければ、皮よりも柔らかいものが口に押し当てられた。
「んぐんぐ」
この歯でも簡単に噛み千切れた。
白いものもいくらか甘いが、赤いものは蜜のように甘い。この姿になるために食した果実よりもはるかに。
(うむ。美味い)
我は夢中になってその白い塊を食した。
だが、束の間の時ですぐになくなってしまったが。
けれど、あれほどけたたましかった腹の虫はいくらか落ち着いたようだ。
「すごい食べっぷりですね」
「こう言う欲望丸出しなとこは赤子らしいな?」
「美味しかった?」
「あーぅ(美味かった)」
もっと欲しいが、カティアが作ってくれると言うので我慢だ。
そのカティアは何を作ろうかと悩んでいるようだが。
「うーん。この子でも食べれるおやつだと何がいいでしょう。ケーキはちょっと重たいでしょうし」
「白パンはいくらかあるし、簡易的なサンドイッチたくさん作ってあげるのは?」
「それもいいんでしょうけど、あれだけお腹鳴ってましたし……あ、そうです! マリウスさん達は時間操作って出来ますか?」
「「時間操作?」」
ふむ。聞いたことがない術の名だな。
どう言ったものだろうか?
「出来なくはないですが、何か仕込みに時間がかかるものでも?」
「はい。デザートピッツァでも甘ーいものを作りたくて、生地の発酵時間をちょっといじってほしいんです」
ピッツァ? デザート?
我には何が何やらわからぬ言葉だな。
「ふゅふゅぅ!」
クラウが急に翼を大きくはためかせた。
ふむ。余程美味なものと窺えるな。
もしや、あの日クラウにために作ったのと同じかもしれない。
そうならば、とても気になる!
「デザートピッツァですか、たしかに食事もですが甘いものの方が赤子は好みますからね。わかりました。材料はすぐにご用意しましょう」
「時間操作って聞こえたけどー?」
こ、この声は⁉︎
マリウスよりももっと畏怖すべき、いや比べる必要がない最たる存在。
この声の主もこの城にいる事をすっかり忘れていた。
「あ、フィーさん」
「やっほー、って、サイノスがここにいるの珍しいね?」
「色々あってな」
まずいまずい!
いくらなんでも創世神が我の事を見抜けぬわけがない。
かと言えどうすれば……。
「んー? その赤子」
びくんびくんと肩が震える感覚を得た。
どう足掻いたところですぐにバレるであろう。
しかし、ここで転移すれば余計に怪しまれて追いかけられる。
「僕が中庭でクラウと遊んでた途中で見つけたんです」
「へぇ? なんかえらい身なりいいけど。で、なんでここに?」
「無茶苦茶腹空かせてんだ。今はパン食わせたけどよ」
「まあ、八つ時だもんね」
頼む頼む。
これは不可抗力と言うものだったのだから仕方ないのだ。
神に背を向けているが、視線が熱いと言うか痛く感じる。
絶対、気付かれている!
【ーーなーんで、竜が人化しちゃってんのさ。ディシャス?】
念話が飛ばされてきた。
やはり、創世神には我の事は見抜かれていたようだ。
【ーーーー……ふ、不思議な果実を同胞よりもらい受けてな。食したらこの姿に……】
黙っていては仕方ないので、念話を返した。
【果実? ふーん……服はどうしたの?】
【初めから、このままだった故】
【あっそう。けど、なんで中庭にいたのさ?】
【……獣舎にいては混乱を招くと思って、な。カティアと会うたのは本当に偶然だ】
【ふーん……】
う、疑われるような物言いは仕方ないが、事実だ。
この創世神を欺くなど、今は獣舎の長である我とて出来ぬ。幼かった頃は主人と共に痛い目に遭ったからな。
「親は近くにいなかったの?」
「いませんでしたね。すぐ探そうとしたんですが、お腹空かせちゃってたんで」
「ふーん。まあ、連れてきちゃったものはしょうがないけど、なんで厨房にまで連れてきてるの?」
「カティアから離れたくなかったみたいだ」
「赤子なのにワガママだねぇ?」
「赤ちゃんですから」
いや、カティア。
創世神は我が本当は赤子ではないと知っている故の言葉だ。サイノスの方も気づいてはいないようだが。
「ま、いいけど。ところでカティアは何作るの?」
「デザートピッツァの予定です」
「あ、それで時間操作をか」
「お前さんは何しに来たんだ?」
「なんか僕もお腹空いたから作ろうかなって」
「じゃあ、一緒に作りましょう!」
「いいよー」
どうやら我のことは告げぬようだな。
それか、あとで追求するのに一旦置いただけか。
その方が可能性としては強いな。出来るだけ大人しくしておこう。
カティアと創世神はそれから忙しなく動いていたが、見ている分にはつまらないどころか楽しいものだな。
道具を使うが、素手で何かを生み出しているのは興味がある。竜の姿でもだが、今の我でも手伝うのは到底無理だな。まず、立てないのが難点だ。
「じゃあ、カティア。せっかくだから時間操作の練習してみようか?」
「うぅ……コツがいまいちわかんないんですよね」
「慣れだよ、慣れ」
頑張れカティア。
言葉としてうまく発せれないが、念話を飛ばして驚かせてはならないからな。
共に抱き上げられてるクラウと共に応援するしかあるまい。
「……どうでしょう?」
「うん、悪くないよ。もうちょっと進めてもいいね」
「はい」
そうして術をかけ終えた白い大きな塊を潰して、台の上において丸めてから、小さく千切ってまた丸めた。
「これを広げて」
次の瞬間、我は目を疑った。
カティアはせっかく作っていたものを投げたが、すぐに手を入れてくるくると回しながら広げていったのだ。
「あぅあ!(なんだあれは!)」
食物をあのようにして調理するなど見たことがない。
「ほぉ、すげぇな? ピッツァの生地はそうやって広げてたのか?」
「これは要練習ですけど、無理せずに麺棒で伸ばす方法もありますから」
「セヴィルやアナ達にはまだ見せてないよねー」
「あ、そうですね」
「ふゅふゅ!」
「クラウ待っててねー」
それからカティアは数度同じようにキジ?を広げて、先が平たく柄が長いものでそれを火の魔術が込められたものの中へ入れた。
だが、すぐに取り出して台へと戻した。
その動作も幾度か繰り返して、準備は出来たようだ。
ただ、数枚は焼かずに丸めてあったが。
「カティアちゃーん。ココルル刻んでおいたよ」
「生クリームも出来上がりました」
マリウス達も何かを作っていたようで、カティアのいる台に銀の器を持ってきた。
片方は白いもったりとしたもので、もう片方は黒いような茶色いものが刻んであった。
他にも白い衣を着た人族が色々持ってきてやってくる。中には見覚えのある果実があったが、同胞が持ってきたようなものはなかった。
「今日はどのようにされるのですか? ココルルもですが、溶かしバターが必要というのは?」
「それと、モシュロンもって」
「ふふふ。新作デザートピッツァを今から作るのでちょっと待っててくださいね」
と言って、カティアはキジを一枚また広げて台の上に置いた。
「ここに刷毛で溶かしバターを塗って、上にたーっぷりココルルを乗せて一度軽く焼きます!」
あの長いものでそのキジを乗せて火の中へ放り込むが、柄は入れたまま何か動かしているようだ。この位置からではよく見えぬな。
「ココルルが溶けたら、木べらなんかでまんべんなく広げて、モシュロンをたっぷり乗せます」
モシュロンとは我の今の手のひらくらいの白く四角いようなものだった。縁がいくらか丸い。
「そして、また窯に入れてモシュロンの表面に焦げ目がつくまで焼きます!」
そう言ってまた火の中へ入れて、少し間を置いてから取り出した。
(おお、甘い香ばしい匂いがこちらまで)
この赤子の嗅覚でも感じ取れるぞ。
しかし、どこかで嗅いだような甘い匂いも混じっている。
はて?
「仕上げにナルツの砕いたものを散らせば、ココルルとモシュロンのデザートピッツァ完成です!」
「うわー、すっごい甘い匂い!」
「普通の生クリームピッツァも作りますから、フィーさんトッピングいいですか?」
「いいよー」
ああ、早く食したい!
けれども、まだ他が出来上がっていないようだから我慢するしかあるまい。
「……ゼルにはありゃ食わせれねぇな」
「ふゅふゅ」
それからカティアはココルルとモシュロンのピッツァとやらをまた数枚焼き上げ、創世神は果実とマリウスが用意した白いものを使って、焼いただけのキジに塗ったり乗せたりしていた。
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