2017年2月2日ーーキュッと可愛くツインテール!

「ふふふふ」

「うふふふふ」


 非常事態です。

 超逃げたいですが、8歳児の身体じゃ大人の人達に軽々と抱き上げられるのですぐに捕まってしまいます。クラウは抱っこしているから必然的に巻き込んじゃう形で。


「ダメよ、カティ。別に痛いことするんじゃないんだから」

「更に愛らしく着飾らせていただくだけですわ」

「その割に目が怖いです‼︎」


 何故ファルミアさんとアナさんに捕まっているかと言うと、事は数分前まで遡ります。







 ◆◇◆








「今日のおやつ何作ろうか?」

「ふゅぅ?」


 お勉強もひと段落ついて、遊ぶにも外は寒過ぎるし砂時計を見ればおやつに近い時間だからクラウと一緒に日記帳を見ながらあれこれ話し合ってた。

 クラウはしゃべれないから、僕の質問に相槌を打ってくれるだけだけど結構楽しい。


「うーん。パンツェロッティはおやつには重たいし、けどタルトを仕込むとセヴィルさんはあんまり食べれなさそうだからなぁ。ファルミアさんに教えてもらったエンガディナーはフィリングがまだ得意じゃないし」

「ふゅ?」

「あれ美味しかったよねー?」

「ふゅ」


 サクサク生地にいい具合の甘さの生キャラメル。

 あー、思い出したらよだれ出ちゃうよ。

 けど、今はクルミの収穫時期も終わっちゃったし、多分作れないよね。

 となると、無難に作れそうなフルーツを使ったパウンドケーキならセヴィルさんでも食べれそうかも。

 婚約者だからじゃなくて、皆さん一緒に食べれるものを作りたいからだよ? そこは間違えないように。


「よーし、レモンやオレンジのパウンドケーキ作りに行こ!」

「ふゅ!」


 そうと決まれば、とクラウを抱っこして部屋から出ようとした時だった。




 コンコン




 扉の前に立つ寸前でノックが聞こえてきた。

 誰かなー?と思ったけど、返事をすれば高い声が返ってきた。


「カティ、私よ」

「ファルミアさん?」


 扉を開ければ、今日もお美しいファルミアさんが立っていらっしゃいました。ただ、1人じゃなかったんだよね。


「カティアさん、今お時間はよろしくて?」


 アナさんもでした。

 けど、服装はお仕事の法衣じゃなくて部屋着用のドレスを着てらしてた。何かあるんだろうか? 今日はお休みとは聞いていなかったけど。


「えーっと……おやつ作りに行こうとしてたぐらいですから、なくはないですけど」

「まあ、何を作ろうとしたの?」

「リモニ(レモン)とオルジェ(オレンジ)のピールを使ったパウンドケーキのつもりで」

「いいわね。コフィーやお茶に合いそうだわ。私も手伝うから、その前にちょっとだけ時間ちょうだいな?」

「はぁ……?」


 何をするんだろうか?

 とりあえず部屋の中に戻されてベッドに腰掛けるように言われた。


「んー……普通でもいいけど、この見た目だからアレンジもしたいとこね?」

「どちらもお試しになられては? 服装は残念ながらお料理のこともありますので変えれませんし」

「そうね。私もこの服変えるわけにはいかないし」

「あ、あの、一体何を?」


 僕を置いてけぼりにしないでー。

 それはクラウもだけど、全然わかんないから僕に抱っこされながらこてんと首を傾いでたけど。


「あ、そうね。カティにはまだ言ってなかったわ」


 すると、手を口元に添えてふふふって急に笑い出したんです。

 それはアナさんも同じようで、美女2人の含み笑いに地味に引いちゃうよ。一体何を企んでいるんだろうか。


「カティ、蒼の世界の暦じゃ今月は二月になるのよ」

「そうなんですか?」


 暦はまだ習い始めだから覚えていなかったんだよね。

 カレンダーがないからどうやって日付が分かるかというと、単純にカウントらしいです。


「明日は日本じゃ節分だけど、こっちにそう言った風習はないのよ」

「前日の今日に準備でもするんですか?」

「違うわ。女の子らしいイベントがあるの。私達でそれをするだけよ」

「女の子らしい?」


 来月の雛祭りじゃないのは明白。

 なら、日本人が大好きな語呂合わせに関係するイベントなのかもしれないな。僕、食べ物に関係するのならちょこちょこ覚えてるけど。

 んー……って考えてたら、アナさんが急に手をわきわき動かし出した。


「髪型でお気持ちを伝え合うなんて、なんて素晴らしいことなんでしょうか!」

「は?」

「ふゅ?」


 アナさんの仰ることがさっぱぷーです。

 けど、久々のアナさんの興奮状態に逃げようと体勢を変えてみようとしたら、忘れかけてたファルミアさんが背後に立ってて僕の肩をガシッと掴んできた。







 ◆◇◆






 という事があり、僕とクラウはお2人に捕まっちゃったんです。

 定位置は相変わらずベッド脇に座らされておりまする。


「うーん。最初は普通に結びましょうか?」


 取り出しますは普通の髪ゴムのようなもの。

 ようなと言うのは、材質がゴムじゃなくて組紐みたいな感じだったから。色は暗色じゃなくてピンクです。

 それを2つファルミアさんが取り出し一個はアナさんに手渡してから僕の金髪に触れてきました。


「……これって、まさかツインテール?」

「ええ、そうよ。日本の公式協会が今日をツインテールの日って定めたらしいの」

「聞いた事がないですね……?」

「まだ浸透して数年程度だもの。私からしたら数百年前の出来事だけど」


 あちらではいつ身罷られたんでしょうか。

 不謹慎な事だから聞きはしないけどね。

 とかなんとか考えてる間にどうやら完成したようだ。

 上は重いけど、首周りがすーすーして心許ない。


「鏡をお出ししますわね」


 くるっと円を描き、ふっとアナさんが息を吹きかければ宙に浮いた鏡のご登場。

 僕の見える高さまで下ろしてもらえば、いつもは下ろしたりしかしていない髪が、左右均一に同じような場所にキュッと結ばれて横に流れていた。

 典型的なツインテールだね。


「はぁ……お人形さんみたいね、カティ」


 いえ、それファルミアさんが言っちゃいます?

 僕は配色が目立つだけで顔立ちは至って普通ですよ?


「ふゅ、ふゅぅ」


 くんくんとクラウは僕の結ばれた髪の一房を掴み、珍しそうに見ていた。

 たしかに、料理中も気にせず下ろしてたから新鮮なのかも。


「このままでも大変愛らしいですが、別の方法とはどんなものですの?」

「そうね。見た目は髪だけで結んであるようにさせるものなんだけど……カティのこの長さだとテールの部分は肩口になりそうね」

「……まだするんですか?」

「ええ」

「もちろんですわ」


 止めれる気力は僕にはありません。

 なので、お2人の好きなように髪をいじられ、僕もお手伝いに逆に結んであげたりと言うことになりました。




 コンコン




 ちょうど全員終わったところでまたノックが。

 誰だろうと言えど部屋の主人は僕なので返事をすれば、


「カティアちょっといーい?」


 フィーさんでした。

 ただ、どうしましょうか。僕ら普段ならしない髪型のままなんだよね?

 けどまあ、照れる要素は少ないからと扉を開けに行けば、ちょっと驚いた顔のフィーさんと出くわした。


「どうしたの、それ?」


 ぱちくりと真っ黒お目々を瞬かせ、フィーさんは僕をじーっと見つめてきます。

 て、照れるなぁ、美少年に見つめられると。


「あら、フィー。いらっしゃい」

「え、ミーアまでどうしたの?」

「あとリュシアもいるのよ。全員でこの髪型にしてたの」

「ふーん? 紐で結んだだけにしてはカティアのは凝ってるね?」


 僕は通常パターンから毛束で紐を隠して巻きつけたパターンです。

 ファルミアさんはストレートなので通常パターン。

 アナさんはウェーブがかかっているからゆるふわ三つ編み。


「ところで、フィーはカティに何の用があったの?」

「今日は僕もおやつ作るの手伝おうかなって」

「ありがとうございます」


 それならそろそろ行かなくっちゃ。

 なので、髪に手をかけようとしたら、


「ダメ!」

「可愛いのにもう解いちゃうの⁉︎」

「いけませんわ、カティアさん!」

「ふゅ!」

「く、クラウまで?」


 全員によって解くのを止められちゃったよ。

 まあ、作るにはむしろこの方がいいけど。


「んー……せっかくだから、僕もそれで遊んでみようかな?」

「へ?」


 ぱちんと指を鳴らせば、フィーさんの頭部だけが光出して、それが収まれば短いはずのフィーさんの黒髪が伸びていて耳横で左右のツインテールが出来ていた。


「どーぉ?」


 どう、って反応を返せばいいんだろうか。

 お、男の人のツインテールを褒めるのってなんか複雑。

 だって、基が美少年だからか男装してる美少女にしか見えない! なんか悔しい!


「あら、結構似合うわね?」

「美少女にしか見えませんわフィルザス神様……」

「ふゅ」

「えへへー。じゃ、このまま食堂行こっか?」

「え、このまま⁉︎」


 僕達はまだしもフィーさんがツインテールのまま⁉︎

 い、いいんだろうか。

 しかし、ノリノリでフィーさんはその格好のまま食堂に行ってしまい、先に寛いでたユティリウスさんの目に留まると紅茶を吹いちゃった。


「ちょっ、女性の皆はわかるけど。なんでフィーまでそんな髪型にしてるんだい⁉︎」

「えへへー、似合う?」

「……まあ、似合う似合わないなら似合う方だけど」

「せっかくだからユティもやってみれば? 髪長いんだし」

「……悪ノリしたくないわけじゃないけど、妻の前では遠慮しておくよ」

「あら、別に構わないのに?」

「ミーア……」


 この隙に、僕はクラウをアナさんに預けてフィーさんを引っ張って厨房に向かった。

 厨房に行けば、僕はともかくとしてフィーさんのツインテール姿に皆さん一同に驚かれてしまったが、結局は似合う似合うと褒められました。

 ファルミアさんもそれからすぐに合流してきて、レモンとオレンジのパウンドケーキ二種類を3人で作ったよ。


「お待たせしま、した」


 出来上がって盛り付けたパウンドケーキをワゴンに乗せて戻れば、食堂にはいなかった男性陣全員が揃っていた。

 うち、エディオスさんとサイノスさんはコフィーを噴き出してしまい、セヴィルさんは咳き込んでいた。獣'sの皆さんは関心が特にないのか、そんな皆さんの反応に首を傾げていたけど。


「ちょっ、フィー⁉︎ お前マジで女みてぇじゃねぇか‼︎」

「えへへー、似合う?」

「まあ、似合う似合わないの有無なら、お前さん似合う部類だが」


 男性陣から見てもやはりフィーさんの姿は美少女にしか見えないみたい。

 ただ、さっきから僕に強い視線を感じるんだよね?

 誰だろと振り返れば、セヴィルさんが目をぱちぱちさせながら僕を見つめてきていた。


「え、どうかしました?」

「あ、いや……その…………に、似合うな」

「え⁉︎」


 賞賛の言葉がもらえるなんて予想外過ぎて、僕は顔が熱くなってしまうのを感じた。


「あらあら、今日の日のコンセプトに近い状態ね?」


 隣にいたファルミアさんが楽しそうに笑い出した。


「コンセプト?」

「公式協会の提案らしいけど、男性側が女性に2つ髪紐を渡して受け取った女性がツインテールをするの。意味は、気持ちを受け取ったってことらしいわ」

「…………あの、じゃあこの髪型って」

「ヘアアレンジで遊びたかったのが一番だけど、ゼルに見せたらこうなるかなって」

「はぁ……」


 僕とセヴィルさんは正式な恋人じゃないんですから、他人で遊ばないでください。


「けど、リースは置いとくとしてゼルのその黒髪は勿体無いわねぇ」

「は?」


 矛先が向くはずがないと思ってたセヴィルさんが間の抜けた声を零した。


「……サイノス、捕まえておいて!」

「……たしかに面白そうではあるな」


 サイノスさん何故かノリノリです⁉︎


「……この流れ、まさか俺にもお前達のような髪型にさせる気か⁉︎」

「そんなに綺麗で長いのに何にもしてないもの?」

「悪いが、退場させてもらう!」

「そうはいくか!」

「面白そうだな。俺も手伝うぜ!」

「ちょっ、エディオス⁉︎」

「俺も俺もー!」


 獣'sの皆さん以外悪ノリがヒートアップしてセヴィルさんを抑えつけようとしちゃってます。

 僕はぽかーんとしてるしかなかったよ。


「フィー、紐でくくるの難しいからよろしく!」

「いいよー。すぐに作っちゃうから」


 と、ファルミアさんの指示とフィーさんの魔術でセヴィルさんはフィーさんのようなツインテールを施されちゃいました。


「くっ、何故解けない⁉︎」


 速攻解こうにもフィーさんが何か細工をされたのか取れないようです。

 けど、これはまた。


「……フィーさんとはタイプの違う美人さん」


 ワイワイ騒ぐ喧騒に紛れこますように僕は呟いた。

 美形はとにかく何しても似合うんだと言う法則があるんだなと僕はこの日再確認しました。

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