2016年9月1日ーーキウイ色々デザートしましょう!part2

 

「こんにちはー」

「お、カティア」

「どうした?」


 まずはエディオスさんの執務室に行けば、エディオスさんとセヴィルさんが書類の山に囲まれて奮闘してらしてた。

 おお、これはまだ終わりが見えそうにないかもしれない。

 ぐるっと見渡すが、アナさんはこちらには来てないようだ。

 まあ、一回あちらの執務室に行ったことあるからそっちに向かえばいいよね。

 でも、フィーさんどうしよう? どこにいるかわかんないし。


「あれぇ、カティア。それなーに?」


 と思ってたら、後ろからフィーさんの声が。

 ほんとおやつのタイミングよく来てくれるなぁ。


「ちょうど良かったです。一緒に中入りましょう?」

「うん」


 なので、フィーさんに扉を開けててもらい僕は台車を押して執務室の中に入った。


「お、なんだなんだ? 今日は先に作ってきてくれたのかよ?」

「はい。許可もらわずでしたが、大丈夫ですよね?」

「構わねぇぜ。カティアの作るもんは美味いし、別にいつも許可取る必要ねぇよ。これからもそうしていいぜ」

「ありがとうございます」


 じゃあ、今日みたいな日は先に作っておくのも大丈夫という事だね。

 とりあえず、後ろでうずうずしているフィーさんにも早く渡せれるように説明しないと。


「今日はムースにゼリーを重ねた二層仕立てのデザートをメインに作りましたー」

「ほう」

「ゼリーにムースもあるのー?」


 まあ待てと僕はフィーさんを制して、シルバーの蓋を開けた。


「え」

「あ」

「こちらのは、まさかアルグタ?」

「はい。今日のメイン食材はアルグタです!」


 先に作ったアルグタゼリーとパルフェムースの二層はボウルからひっくり返して大きな皿をお借りして乗せました。

 下は白のパルフェムース、上はライトグリーンに黒いつぶつぶが混じったアルグタゼリー。

 冷却魔術のおかげもあったけど、氷室でキンキンに冷やしておいた力作です。


「すっごーい。本当に二層になってるー」

「どうやって作ったんだよ?」

「簡単ですよ? ピューレにしたのとカットしたアルグタを温めて、ふやかしたマザランを入れて砂糖と混ぜたら冷やし固めるのをムースと二回に分けたんです」

「ほー」


 しげしげとエディオスさんはゼリーを眺めていた。

 前回のアルグタシロップのこともあってか、エディオスさんはそこまで種入りに抵抗感なくなったらしいんだよね。果物としてはまだあまり食べようとはしないんだけど。

 まあ、先入観覆されてもいきなりそれを捨てろと言うのは難しいもの。


「それとこちらは何を使っているんだ? 上の果物はシトロムのようだが」

「はい。シトロムのゼリーに下はアルグタのムースですよ。そんなに甘過ぎじゃないと思いますから」


 とにかく食べましょうと、僕はアルグタゼリーの方を取り分ける。これは先にナイフで切り分けてあるからケーキサーバーでゆっくりとお皿に乗せてミニスプーンを添える。

 とここで、


「まあ、皆様でおやつですの。ずるいですわ」


 またタイミングよくアナさんがやってきた。書類を持ってたからお仕事の途中で来られた様子。

 ちょうど良かったので、アナさんの分もお皿に盛り付けた。


「後でアナさんの執務室に向かおうと思ってたんですが、ちょうど良かったです」

「まあ、そうでしたの。それは失礼いたしましたわ」


 アナさんは持ってきた書類をエディオスさんに確認を取ってもらってから、あの書類の山に追加された。

 あれ終わるのかな?

 僕はそう言うのはお手伝い出来ないから、こうやって微々たることだけどおやつの差し入れをするくらいしか無理だ。少しだけ気が紛れて欲しいけどね。


「じゃあ、食おうぜ!」

「いっただきまーす!」


 ともあれ、エディオスさんの合図と共に食べる事になった。

 あ、立ったままじゃありませんよ。執務室脇の応接間のようなテーブルを5人用にセッティングし直して座っております。


「ん、美味い!」

「さっぱりしてていいねぇー」

「……甘過ぎずいいな」

「美味しゅうございますわカティアさん」

「ありがとうございます」


 皆さんから賛辞をいただいたとこで僕も一口。

 うーん、アルグタゼリーはぷるぷるさっぱりで甘過ぎず、下のパルフェムースもぷるんと口の中で溶けます。

 皆さんあっという間に完食されちゃいましたよ。セヴィルさんにもお口にあったみたい。残さず綺麗にお皿から消えておりました。


「んで、こっちのが上はシトロムの赤いのとゼリーか」

「下のアルグタは生クリームと牛乳混ぜたムースなんで風味付けくらいですが」

「綺麗ですわ。一種の宝石に見えます」

「アナさん言い過ぎです」


 褒め過ぎないで、こそばゆい!


「ねぇ、食べていーい?」

「どーぞ」


 待ちきれないとうずうずしてらしてるフィーさんに手渡す。

 円柱のガラスの器に白とルビーの二層デザート。

 どうぞご賞味ください。

 他の皆さんにも手渡してから僕も手に取ります。


「……ん、酸っぱいけど下が甘めだからちょうどいいねぇ」

「だなぁ。シトロムの果肉もいい感じだし」


 あの、そんながっつかないでください。こっちの1個の器が大きいから1人1個ずつしか用意してないですよ。残りは上層調理場の面々にお裾分けしちゃったし。


「「おかわり!」」


 ほら言うと思った。


「ダメですよ。上層調理場に残りお裾分けしちゃったんですから」

「えー、なんでー?」

「今回こっちも作ったのはアルグタの需要を増やすためなんです。上層調理場の方から中層や下層でもデザートにうまく活用してもらえたらなと思ったんで」

「なるほど。たしかにこれは食べやすい。ゼリーの方は見た目は見慣れない者には拒絶しかねないが、ムースならクリームなどでわかりにくいし酸っぱさがほとんどないからな」

「ゼルお兄様も、この甘さでしたら大丈夫ですの?」

「そうだな。カティアの作るものはどれもちょうどいいから美味い」

「まあ」


 えーっと、アナさんそこで僕を見ないでくださいますか?

 たしかに婚約者が美味しいと言ってくれたので嬉しくないと言ったら嘘になるけど、そんな凝視せんでください!

 尚こそばゆく感じちゃう!

 僕は赤くなってるだろう顔を誤魔化すためにも知らんぷりしてアルグタムースを食べた。

 お、マリウスさんがああ言ってた通りゼリーとムースのハーモニーがなんとも言えない美味しさだ。これは日記にもレシピ残しておこうっと。


「あれぇ、カティア。この瓶なーに? アルグタ潰したのが詰めてあるようだけど」

「あ、忘れてました」


 いかんいかんジャムの存在忘れてたよ。

 若干急いでムースを平らげ、僕は台車の方に向かった。


「これはアルグタのジャムです」

「やっぱりそっかー? 隣にパンもあるから乗せるの?」

「はい」


 薄くスライスしておいたパンにスプーンで半分アルグタのジャムを塗って、残り半分は余った時間で作った即席クリームチーズを塗ります。

 これを1人2個ずつお皿に乗せて提供しますよ。


「こっちの白いのなんだ?」

「匂いは酸っぱいようですけれど」

「まあ、食べてみてくださいよ」


 おそらく黑の世界初クリームチーズ。

 僕は躊躇わずがぶりといただきます。

 パルフェを魔術でよーく水切りして、ほんの少しリモニ汁入れて砂糖で味付けしただけのお手軽レシピ。

 塩入れると食事用にも変わるからオススメです!


「えー! これ何? すっごく美味しいよ。ジャムもだけど白い方が特に」

「何だ? パルフェでもないが少しカッツにも近いような……」

「あ、セヴィルさん正解ですよ」


 なので、皆さんに種明かしするとおっかなびっくり目を丸くされたよ。


「カッツのクリーム?」

「匂いもほとんどしませんし、とても食べやすいですわ。このような食材は初めてです!」

「カティア、蒼の世界ってすげぇな。俺らの知らねぇ食べもんがわんさかあるみてぇだし」

「先人達の知恵ですよ。僕もほとんどが教わったものばかりですから」


 アレンジはちょいちょい加えているけどね。


「こりゃマリウス達も脱帽だろうよ」

「でも、まだこれは広めない方がいいと思いましてこっちに持ってきただけにしたんです」

「何故だ?」


 セヴィルさんが怪訝そうに眉を寄せられた。

 ふむ。これは相談に乗ってもらおうっと。


「ピッツァでさえカッツの使用法が斬新だと思われたので、このカッツクリームなんかの製法聞かれたら明日から料理が一変しちゃうんじゃないかなぁて」

「……たしかに」

「このクリームは色々使えそうだもんねー」

「朝食のバターやジャム以外にも加わりそうですわね」

「俺はいいと思うんだがな?」


 エディオスさん、王様でも全部がまかり通るなんて考えちゃダメですよ。

 既に僕が作り出したお菓子や料理はまだ許容範囲だけども、この食材だけは少し躊躇いがあったのだ。

 お菓子に良し、料理に良し、酒のつまみにも良しの万能食材の1つだからね。

 おまけにこちらの世界には魔術があるから、手間がそこまでかからないから作りたい放題になっちゃいそうだし。

 なので、残ったゼリーやジャムを調理場に戻してから、僕は再度マリウスさんやライガーさんのとこに持っていってクリームチーズことカッツクリームの吟味をしてもらった。


「これは素晴らしい! ですが……」

「まだ皆さんに種明かししない方がいいですよね?」

「うん。美味し過ぎてバターの代わりになりかねないし、酒のつまみに胡椒混ぜたりしたらローストしたパンなんかにも合いそうだ」

「ライガーさん絶対すぐには試さないでくださいね?」

「手厳しいけど、そうするよ」

「ひとまず、このカッツクリームは陛下方にしかお出し出来ませんから、カティアさんの秘蔵レシピという事ですね」

「パルフェか生クリームとかなんで、そこまで難しくはないんですけどね」


 チーズは乳製品を発酵した物だもの。

 ヨーグルトも発酵食品。その水分抜いて調味料混ぜた超お手軽レシピなんだけどね。でも、これを機に肥満を輩出したくないんで、とりあえずは僕ら内うちの食材として取り扱うことになった。

 うーむ、アルグタ需要増大を考えてたのに逆にクリームチーズの秘匿が重要視されることになっちゃったよ。

 でも、そっちの方はアルグタムースを中層や下層にもデザートとして提供したらえらい人気が出てきたらしく、城中に納められてた大量のアルグタが1週間くらいで半分にも減ったんだって。

 食べ物無駄にしなくて良かった良かった。

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