2016年9月1日ーーキウイ色々デザートしましょう!part1

「どんぐりころころどんぐりこー」


 お勉強の休憩の合間にふと思い出した古い童謡を歌っていました。

 どうも、カティアです。

 なんでどんぐりの唄?って思われるかもだけど、しょうがないじゃない。ほんと唐突に思い出しちゃったんだから。

 しかし、皆さんお仕事中だから僕はお勉強に勤しむしかない。

 フィーさんはお仕事ないらしいけど、ふらっとどっか行っちゃうんだよね。おやつの時間前にはタイミングよくいきなりやってはくるけど。

 まあ、手伝ってくれるからいいけどさ。


「お池にはまってさあ大変ー……あー、この調子じゃ勉強しててもはかどらないかなぁ?」


 砂時計を見れば、おやつの2時間前くらいだった。

 この世界の時計って日時計か砂時計くらいしかないらしいんだけど、そこまで不便じゃないんだよね。

 溜まった砂が時間ごとに色が変化して時刻を報せてくれるのです。あと、ガラス部分に細かい線と数字が書かれて15分とか30分もわかりやすく読めるのです。そこは針時計と変わりない。

 今は昼一の半刻。これはだいたい午後1時。

 んでもって、細かい分数は15分のとこだからそのまま。

 おやつまで大分時間あるなぁ。

 ならば、凝ったものが作れそうだ。

 だけども、


「今日は執務が立て込んでるらしいから、差し入れタイプにしようっと」


 ドッキリびっくりじゃないけど、いつもエディオスさんに許可申請しの行くのもそろそろいいだろう。だって、僕が作るものにハズレがないと思ってるからか、却下されることもないしね。

 調理器具や食材の名前や用法も一通り覚えてきたし、これと言ってフィーさんに頼らなくても問題ないはず。

 と言うことで、お片づけしてから上層調理場へいざ行かん!


「こんにちはー」

「あれ、カティアちゃん?」


 そろーりと顔を覗かせて挨拶すれば、すぐ返ってきたのは副料理長のライガーさん。

 調理とかはしてなくて、何か書類整理しているとこでした。


「こんにちは。また陛下に許可をいただいておやつ作りかい?」

「いえ。今回はこっそり差し入れにしようかと思って」

「あ、そうなんだ。って、君1人かい? フィルザス神様はご一緒じゃないんだね」


 あー、なんだかんだでこう言う機会の度に一緒に来ては作ったりしてたからね。

 慣れって不思議。

 まだ僕こっちの世界に来てそんなに経ってないのに、もうこう言う生活が普通になってきてるよ。

 は、とりあえず置いといて。


「ライガーさんは書類の整理中ですか?」

「うん。在庫整理とかね。料理長は今は休憩で仮眠取りに行ってるよ」

「あらら」


 じゃあ一旦引き返そうかな?

 ライガーさんも棚卸し中だし、あんまりお邪魔出来ないからさ。

 棚卸しは重要だよ。

 食材なんかの良し悪しをチェックしなきゃいけないし、備品も発注しなきゃいけないからね。

 ん、待てよ。


「ライガーさん。今一番使い切れてない食材ってありますか?」

「え、うん。あるけど、どうするんだい?」

「それで本日のおやつを作ろうと思います!」


 大方その食材の予想はついているんだよ。

 だって、あれは『僕くらいしか』食べてないんだし?

 むふふ、って噴き出そうとするのを堪えてたら、ライガーさんに首を傾げられた。


「あ。その様子だともうわかってる感じかな?」

「はい。それって今はどれくらい残ってますか?」

「ほとんど減ってないね。完熟しちゃってないからまだ処分はしないけど、どうも今年は豊作らしいから随時城に納められるんだ」

「美味しいですのに、アルグタ(キウイ)……」


 そうです。

 見た目ジャガイモの小型版のキウイフルーツ。

 黑の世界じゃあアルグタって言うんですが、あまり人気がない果物なんだよ。

 柑橘類とも違う独特の酸っぱさが苦手な人がほとんどらしい。しかも、食べる時には白い花芯と小さい種の部分はくり抜いて捨てて、他の果肉しか食べないんだってさ。あそこだけでも未熟だと結構酸っぱいんだけどなぁ。

 僕は以前かき氷の際にシロップを作って、エディオスさん達含め一部の人達にアルグタ革命を引き起こしたのです。

 以来、僕が好物だから朝食のデザートに一個食べるようにはしてたけど、相変わらず一向に減る様子がないらしい。

 だからこそ、だ。


「アルグタ革命第二段を開始させましょう!」

「え、まあ、いいけど。何を作るつもりなんだい?」

「とりあえずは、僕達が食べれる分だけのジャムから仕込みます」

「……シロップみたいなあの見た目に?」

「あれも食べれる箇所なのに捨ててはいけないと思うんですが」


 ライガーさんもかき氷の時に少しだけ食べておっかなびっくりな顔されてたじゃない。

 まあ、いきなり固定概念覆されてもすぐに浸透するわけじゃないからね。


「じゃあ、お借りしまーす」

「僕も手伝おうか?」

「いいえー。ライガーさんはお仕事に集中されててください」

「わかったよ。わからないことがあれば遠慮なく呼んでね?」

「はーい」


 と言ってから、僕は氷室に向かいます。

 アルグタの場所は覚えてたからすぐに見つけられた。

 あの時も多かったけど、確かに減った様子が見られない。僕が食べてても大した量じゃないしね。


「とりあえず、これを3分の1減らせれるくらい作らないとなー」


 ぜーんぶジャムにはしませんよ?

 今日は差し入れタイプだけど、ジャムの他に2種類ご用意する予定でありまする。

 アルグタを隅にあった空き箱に適量入れて厨房に運んだら、ひたすら皮を剥いて賽の目にカットしていく。


「あー、甘酸っぱくていい匂い」


 つまみ食いしたくなるけど我慢我慢。

 あと、遠巻きにライガーさんや他のコックさん達がおそるおそるアルグタの調理法を覗いてくるけど気にせずに進めないとね。時間は限られてるし。


「3分の1はジャムにしてー、こっちのはピューレ、こっちはそのまま残しておこうっと」


 なので、まずはジャム作り。

 鍋にアルグタを入れて火にかけてしんなりするまで炒める。水気が出て柔らかくなってきたら砂糖とリモニ汁を加えてかき混ぜ、汁気がなくなればボウルに移して自然冷却。簡単簡単。


「次はピューレ作ってゼリーやムースだね」


 なので、必要な材料をライガーさんに許可もらってまかない用に使う方をいただけた。

 ちょうど棚卸しという事もあって、消費期限がそこそこ迫ってるヨーグルト(パルフェ)やゼラチン(マザラン)を使わせてもらえたのです。


「まずはゼリーの方。水を加えてピューレにしたアルグタにカットしたアルグタも入れて鍋にかけてー」


 ゼラチンをふやかすことをお忘れなく。

 他にも使うけど、先に使う分だけ水にふやかしておきます。この世界でのゼラチンは板はなくて粉状のものでした。板だと氷水でふやかすのがオススメ。

 粉状のは少量の水で大丈夫。

 鍋の方がふつふつと沸騰してきたら、ふやかしたマザランと砂糖を入れてよく混ぜる。マザランが綺麗に溶けていけば、火を消してこれもボウルに移しておく。これには少しだけ冷却の魔術を施す。


「おお、ぷるぷるなってるー」


 弱めの冷却術にしたけど、うまくゼリーが出来ていた。だけども、これはまだ続きがあるのですよ。


「次は牛乳を火にかけてー」


 温まれば、別に用意しておいた砂糖とマザランを入れてかき混ぜておく。出来たら、少し混ぜておいたパルフェのボウルに入れてよーくかき混ぜます。

 これを笊に入れて漉して、ゼリーの上に入れたらまた冷却。その後は氷室でも温度の低い場所に入れて置いておく。

 さて、残るもう1つの準備だね。

 これがそこそこ手の込んだものになる予定。


「残したピューレを鍋で温めて砂糖を入れて、少し沸騰したら火を一旦消してー」


 そこに計量しておいた牛乳にふやかしたマザランを入れて、マザランが溶けたら調理台に布巾を敷いたとこに乗せておいて冷ましておく。


「おや、カティアさんいらしてたんですか?」


 次の工程に行こうとしたらマリウスさんが戻っていらっしゃった。


「こんにちはー。今日もお借りしてます」

「構いませんよ。それで、今日はどんなものを?」

「アルグタのデザートですよ」

「アルグタ、ですか?」


 マリウスさんもアルグタの調理はあんまりしないようだから、少し苦い表情になられた。

 んで、ゴミ箱の皮の量を見たらギョッと目を丸くされちゃったよ。


「こ、こんなにも使われたんですか⁉︎」

「ライガーさんに使い切れてない食材のこと聞いたらアルグタがかなり残ってるって言われましたからね。ゼリーやムースを作っています」

「アルグタのゼリーにムース? み、見ててもよろしいですか?」

「いいですよー」


 料理長に見ててもらえるならば、アルグタの消費量がひょっとしたらが変わってくるかもしれない。

 前回のシロップだけじゃ、アルグタの酸っぱさに蜂蜜を加えただけから使い道が難しいだろうし。

 とりあえず、次は生クリームを泡立てホイップにしなくちゃいけない。

 計量した生クリームをホイッパーで混ぜて、途中砂糖と蜂蜜を加えて七分立てにする。

 マリウスさんほど速くはないけど、僕なりの速さで仕上げて出来上がったらアルグタ液を加えて再びかき混ぜる。

 これでムースの原液は完成。

 この原液をガラスの器に半分入れてを繰り返して、合計20個は出来た。いっぺんにはバットに乗せても持っていけないから半分に分けて氷室に運んでいく。


「うーん。これだけでもいいけど、もう1つくらいアクセントになんか欲しいなぁ」

「でしたら、アルグタではない酸味のある果物を使ってみるのはどうでしょう?」


 ちょっと待っててくださいねと言って、マリウスさんは倉庫に行かれたがすぐに戻ってきた。その手には、ソフトボールくらいの大きさの黄色や薄いピンクの果物らしきもの。


「このシトロムでしたら、上に果肉を乗せるのもいかがかと」

「? 中身見てもいいですか?」

「ええ。どうぞ」


 お言葉に甘えて色違いを1つずつ包丁で半分にカットさせてもらった。

 ぱかっと開けば、花のような断面。

 色は黄色のが薄いレモン色。薄いピンクのが濃い赤色でした。

 おんやぁ、これはもしかしなくともグレープフルーツ? しかも、ルビーのグレープフルーツもあるとは。

 ならば、これの果肉だけ使うのもいいけど、せっかくならゼリーも作るのもいいかもしれない。


「マリウスさん、これもゼリーにしていいですか?」

「構いませんよ。いくつ必要でしょうか?」

「えーっと、果肉はこっちの赤いのを使いますが……とりあえず、5個ずつお願い出来ますか?」

「わかりました」


 ゼリー液用にジュース作らなきゃいけないから多めに用意しないとね。

 持ってきてもらってから、リモニにも使う絞り器で黄色の方をぜーんぶ果汁絞って、赤も一個だけは絞っておく。

 このジュースを鍋に入れて火にかけ、少し温まったら砂糖とリモニ汁にふやかしたマザランを加えて溶かす。溶けたら鍋からボウルに移して少し冷却させる。


「ここにもう少し色付けも兼ねて赤い方の果肉を潰して入れてー」


 これでゼリー液は完成。

 急いでムースの器を取りに行って、この液を固まったムースの上に入れてもう一回冷却。

 ぷるぷる固まれば、皮を剥いたシトロムの果肉を乗せて完成。


「出来たー!」

「お疲れ様です」

「マリウスさん一個食べてみてください」

「ありがとうございます。では」


 ミニスプーンを用意して、マリウスさんいざ実食。

 シトロムゼリーは普通に食べてくれたんだけど、アルグタムースはおそるおそるって感じ。作るところ見てたじゃないですか、ほとんど生クリームや牛乳入ってるから甘いですよ。

 そしてぱくっと一口。

 すると、おやっと首を傾げられた。


「アルグタはほんのりと感じますが、酸っぱさがほとんどない?」

「今回はクリームと牛乳を使って混ぜ込んであるだけですから風味付けくらいですね」

「いや、しかし。シトロムとよく合いますね。ムースにはオルジェの果汁を混ぜたりはしますが、アルグタがこんなにも合うとは」


 しきりにうんうんと頷かれてた。

 オルジェは音の響きと使う感じからしてオレンジのことかなぁ。

 ともあれ、マリウスさんが気に入ってくれた辺り、これからアルグタの使い道が広がる予感がした。

 それからライガーさんにもアルグタムースを食べてもらって、マリウスさんと同じように気に入ってもらえました。

 ではでは、僕は本番のエディオスさん達に差し入れに行ってきまーす。

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