2016年9月30日ーー秋と言ったら味覚狩り、 クルミの出番だよ!part1
「あるー日、森の中ークマさんにーであーった」
「ふゅゆぅ!」
「あら、懐かしい歌を歌っているわね。カティ?」
どうもこんにちは、カティアです。
今どこにいるかと言うと、お城から離れた場所にある山の中です。
珍しく外出なんですが、1人ではなくクラウとヴァスシードの王妃様であるファルミアさんと一緒ですよ。
何をしているかと言いますとねー?
「こーんなにクルミをいっぱい拾えるなんて思いませんでしたよ」
「ここは穴場だもの」
地面に散らばってるクルミの実を割って、中にある茶色い種のような部分を収穫しています。
一般的にクルミはあの硬い殻のままでなってると誤解されがちですが、見た目は梅をもっと大きくした皮に守られているんです。中を割れば馴染みあるクルミの殻が出てきますよー?
なんで僕とファルミアさんが山に来てまでクルミ拾いに来ているのかと言いますとー……それは約1時間ほど前まで戻ります。
◆◇◆
「ふゅゆぅゅぅ……」
お昼ご飯も終わり、クラウはベッドでくーすか寝ています。
僕は、今日も文字の勉強と日記にいそしんでおりますよ。
大分書く方も出来るようになってきたけれど、見た目汚い。セヴィルさんのようなお綺麗な文字とは無茶苦茶掛け離れていますぜ。何故もう少し綺麗に書けない。
どうやってもミミズ走ったようにしか見えないじょ……。
コンコン
「おや?」
誰か来たようだ。
ノートとペンを机に置いて、僕はドアの方に向かう。
アナさんや他の人達ならノック後すぐに声をかけてくれるんだけど、誰だろう?
他のお城の人が僕に用なんてあるわけないと思うんだけど。
ちょっぴし不安になったが、居留守はいけないなと僕はドアを開ければ、
「こんにちは、カティ」
「ふぁ、ファルミアさん!」
居たのは、つい先日このお城に来たばかりのお隣の国ヴァスシードの王妃様であるファルミアさん。
艶やかな碧いロングヘアに深いエメラルドグリーンの瞳が印象的で背が高い女性です。
さっきのお昼ご飯でもお会いしたけど、相変わらずまばゆいほどのお美しさですよ。
今も上機嫌なのか、にこにこ笑っていらっしゃるし。
「ねぇ、カティ。ちょっと遠出しないかしら?」
「遠出……ですか?」
そう言えば、僕このお城に来てから一回も遠出なんてしてないかも。
クラウを見つけた洞窟はお城の地下にあるらしいから、お城の敷地内のようなものだったし?
でも、なんで?
「何かあるんですか?」
「ふふ。せっかくだからカティを味覚狩りにお誘いしようかしらと思ってね」
「味覚狩り?」
もう時期的には秋なんだ?
この前までは夏かなぁと思ってたけれど、ここ何日かは涼しい気候ではあったね。
そう言えば、時刻の読み方は習ってても暦の方は教わってないや。セヴィルさんとかに時間ある時教えてもらおう。
「ねぇ、どう?」
「ええ、時間はありますが……あれ? ファルミアさんお1人なんですか?」
守護妖さん達
あのおどろおどろしいお姿ではなくて、ホスト集団の方のですよ?
僕が聞くと、ああ、とファルミアさんは頬に手を添えた。
「うるさくなるから部屋に強化結界張って出られないようにしておいたわ。あと強制睡眠の術も施して」
「えぇっ⁉︎」
だ、大丈夫なんだろうか?
けれども、ファルミアさんは問題ないと言う風な澄まし顔でいらっしゃるし……いいのかなぁ?
あ、だけども。
「ユティリウスさんには許可とかいいんですか?」
ファルミアさんの旦那様でいらっしゃる国王のユティリウスさんもいらっしゃらないようだけども。
そしたら、ファルミアさんはふるふると首を振った。
「誘おうかと思ってたけど、お昼寝中だったし……それに、味覚狩りも女子同士で行くのってオツじゃないかしら?」
「そうですか」
アナさんは執務中だから断られたか、敢えて誘わなかったのだろう。
僕見た目は8歳児の子供だけど、中身は成人してる大人だからねぇ。ファルミアさんもそれは来た日に知ってもらってるので大丈夫なことだ。
「それにー……」
「それに?」
「美味しいお菓子を作るにも皆を驚かせたいじゃない?」
「お菓子、ですか?」
味覚狩りで出来るお菓子……秋だと栗や柿にサツマイモ……って、この世界にそう言った食材あるのかな?
今のところ名前が違うくらいで、そこまで食材に差異はないけども。
「ええ、リースも好きなお菓子なの。ちょうど今頃ジャグランがここからちょっと離れた山の中でたくさん実ってるはずだから、それで今日のおやつに私が作ろうかなぁって」
「じゃぐらん?」
どんな食材?
僕が首をひねるとファルミアさんはふふっと笑い出した。
「ああ、ごめんなさい。あなたはまだこちらの食材との相違が著しく多いはずだものね。えーっと……そう、クルミよ」
「クルミですか!」
クルミはジャグラン……よし、覚えたぞ。
しっかし、全然ぴんとも来なかったよ。
フィーさんはいないし、この王妃様が僕と同じ世界の転生者じゃなきゃ困ることが増えるとこだったね。(本編『ピッツアに嘘はない!』では本日現在まだそこは明かされてないので、別物とお思いください)
「味覚狩りでクルミなんてお洒落ですねぇ」
「けど結構労力いるわよ? あら、そう言えばクラウはお昼寝かしら?」
「ふゅぅ!」
「え?」
寝てると思ってたクラウが僕の頭上でピコピコ翼を広げて飛んでいた。
そして返事をしたら、僕の頭にぽふりと乗ってきたよ。
「ふふ。クラウも行きたいのかしら?」
「ふゅふゅぅ!」
「みたい……ですね」
この食いしん坊な神獣は、食べ物に対してとても貪欲だもの。
生まれて数時間も経たないうちに自分の体の倍以上の量をペロリと平らげるくらいだしね。
「じゃあ、恰好はそのままでいいから早速行きましょうか?」
「え、どうやってですか?」
お山に行くんですよね?
すると、ファルミアさんが懐から1枚の紙を取り出してから空いてる方の手でいきなり僕の手を掴んだ。
「ふっふっふ。特製の転移用術札を作ったのよ。これでバビューンと言ってクルミ取ってきてささっと帰ってこればいいの」
「え、はあ?」
魔術関連は僕に言われてもよくはわからないけれども、手を握られるのはどうしてですか?
だけども、ファルミアさんはノリノリなご様子で札?を口に咥えて、手をなんかのポーズよろしく構えられました。
「ふーゅぅ?」
クラウもよくわかってないみたいで、多分首を傾げているのかな? 頭の上に乗っかってるから見えないけどね。
そして、次の瞬間。
「【
技名か何かしらをファルミアさんが言うと、僕らは白い光に包まれました。
眩しすぎて目を瞑ってしまったが、一瞬浮遊感を感じたけどもすぐにそれは終わった。
「カティ、クラウ。目を開けて大丈夫よ?」
「う?」
「ふゅ?」
ぱちぱちと瞬きしてから、僕は目を軽くこすった。
だって、今いる場所がお城の中だったらあり得ない光景だったからです。
「ふゅーぅ!」
僕の頭の上でじたばたしているクラウはすごくご機嫌だ。
まあ、それもそのはずでしょうよ。
目の前に紅葉された樹々がこれでもかとあれば嬉しいものだねぇ。
「さぁ、味覚狩りよ!」
と言うわけで、ファルミアさんの先導の元僕はクルミ狩りをすることになったのです。
◆◇◆
収穫したクルミはファルミアさんが即席の魔術で作ってくださった籠に入れて、籠いっぱいになれば味覚狩り終了。
だったけども、
「……あの、ファルミアさん」
「なぁに、カティ?」
「この状況ってどう回避すれば?」
目の前におっそろしい蛇もどきのようなでかい獣がいる状況になったのはどうして⁉︎
僕さっき童謡は歌ったけど、あれ熊だよ?
蛇なんてひとっことも言ってないからね‼︎
「ふぅん……野生の
「あらば……?」
ファルミアさんはやけに冷静でいらっしゃいました。
と言うか、口元が微かに笑ってるように見えたのは気のせいと思いたい。
ファルミアさんは僕とクラウの前に立つと、片手をあらばなんとか言う獣にかざした。
「失せなさい。私達も山の恵みを分けてもらっただけ。誰もあなたと縄張り争いに来たわけではないわ」
ピシッ
シュルシュル
一瞬蛇もどきが固まったかと思いきや、すぐにバックターンしてくれてどこかへと行ってしまいました。
僕と僕の背に隠れてたクラウはよかったぁとほっと息を吐けた。
「あ、ありがとうございます……」
「まだ温厚な方のだったからよかったわ。さっ、急いで帰ってお菓子作りよ!」
「ふゅぅ!」
お菓子のワードにクラウはピコーンとアンテナが出たのか、翼をピコピコ動かしていた。
君一応僕の守護獣だよね?
目先の欲望に忠実すぎやしないかい。
ともあれ、僕らは行きと同じくファルミアさんの転移の魔術で再びお城に戻ることになった。
違うのは、ファルミアさんがクルミの籠を背負っているとこかな。
僕みたいな子供の姿じゃ背負ったら潰されるからだろうと、ファルミアさんが進んで言ってくださったからです。
王妃様に申し訳ありませぬ!
◆◇◆
場所は移りまして、上層部のVIPルームこと食堂。
ファルミアさんが移動先を僕の使ってる部屋ではなくわざわざここにされたからです。
「さて、調理場に行ってまずは殻割りからね」
「これ全部ですよね?」
おやつに間に合う量かしらん?
どう見ても、2人がかりで短時間で割れる量じゃないんだがなぁ……。
だけども、殻割りしないことには始まらないので僕らは調理場に向かいました。
「マリウス、ライガー入るわよー?」
「これは、ファルミア様⁉︎……とカティアさんにクラウ?」
「いらっしゃいませ、ファルミア様。えーっと……何か背負われていらっしゃいますよね?」
料理長のマリウスさんと副料理長のライガーさんが慌てて対応してくださった。
いつもいきなりですみません。
まあ、今日の発案者はファルミアさんだしねぇ?
お2人は調理の手を止めて、手を洗ってから僕らの方にやってきました。
「どうされたのでしょうか?」
「そんな大袈裟なことじゃなくてよ。ジャグランを採ってきたから厨房を少し借りたくて来たの」
「は、ジャグランを……採ってきたですと⁉︎」
「え、その籠全部ですよね⁉︎」
あ、やっぱり少し異常だよねぇ?
親交国の王妃様が僕やクラウとは一緒だったけど味覚狩りしてその足でこっち来たのって。
しかも、絶対肩外れそうなくらい山盛りに入ってるクルミの籠を、眉ひとつ動かさず平然と背負ってるし?
ファルミアさん細身の美人さんなのに結構力持ちなんですね、と僕はちょいと現実逃避。
「ええ、そうよ?」
「何故わざわざ御自ら‼︎」
「あら、私はよく1人か自分の守護妖達や夫と行ったりするわよ? 今日はカティとクラウとだったけれど」
とりあえず、これを早く割りたいから降ろさせてくれる?
と言って、ファルミアさんはつかつかと中に入っていかれました。僕らもその後に続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます