第15話 王子様は遅れてやってくる(笑)
「ふぅ、何とか……」
虎の魔獣が起き上がってきてそれから数十分後、私は非常に達成感の溢れた顔で額の汗をぬぐっていた。
身体は血だらけで、服をエイシアの服から着替えていて良かったと内心自分を褒め称える。
虎との死闘はまさに一進一退を極めた。
虎の魔獣は本当につよくて、幾らフェリルがカバーしてくれるとしても恐怖を拭い去ることは出来なかった。
だがそれでも私は果敢に虎へと攻撃した!
そう、足へと集中的に。
最初は苛立ちげに私を睨んでいた虎。
だが数十回を超える私の攻撃に流石に怯み出した。
足が痛むのか、私を過剰に警戒するようになっていって………
だからさらに私は足へと攻撃を加えた。
さらに経つと執拗に足を狙う私に虎の魔獣は明らかに怯えを感じていて、だが最後だからこそ慎重にと思った私はさらに足を執拗に攻撃した。
ほら、油断大敵とか聞くし。
最早最終的には虎の魔獣はがたがた震えていて、私が棒を振り上げるだけで逃げ出そうとして、そして痛みつけられた足がうまく動かず転んでいた。
その時になれば足は血だらけだったので、さすがの私もその足を狙うのをやめた。
確かに血が飛んで服が汚れてきたというのもあったが、それ以上にかわいそうで……
ーーー もう片方の足を狙うことにした。
「ク、クルル……」
そして完璧に動けなくして、それからトドメを刺した時、中々時間がかかっただけあって達成感は凄かった!
だが何故かフェリルがガタガタと震えていたことを覚えている。
もう少し褒めても良いんだよ?と期待を込めた目でチラチラ見ていたら足を抑えて退かれた。解せぬ。
そしてそんなこんなはあったものの、何とか私は今日も無事魔獣を倒すことに成功した。
何時もなら2、3体続けて戦闘に移るのだが、今回は大物を相手にしていただけありらもうかなりの時間が経っていたのでお昼にすることになった。
流石災害級の魔獣とか呼ばれるだけあってもう何時もよりもハードな動きしていたのでお腹はぺこぺこだ!
と、歩き出しかけて少し気になったことがあって私は足を止めた。
あれ、そういえば虎の魔獣って災害級の魔獣なんだよね。
なんか私普通に討伐できていたような……
「き、気にしたら負けだし!」
少し私はその言葉を考えて、そして思考を止めた。
考えたら負けだ。とにかく今は早くご飯が食べたいから急いで素材を剥ぎ取ろう。
そう、私は虎の魔獣の首元へと何も考えずにナイフを突き立てて……
「あっ、」
噴き出してきた血をもろに浴びることとなった……
◇◆◇
「はぁ、はぁ、」
緑に覆われた草原その中を王子である俺、レイスは必死に走っていた。
「お、遅くなったな……」
そう息を切らしながら走る俺が向かっている場所、それは昨日あの少女と出会った場所だった。
こう見えて実は俺はそこまで暇ではない。
というのも、王子としてこの街に来るのだから相応の仕事は存在するのだ。
だが、それを無視して一週間程度あの少女に出会うために草原に通い詰めていたので俺の仕事は溜まっている。
そして恐らく今日は少女がいないだろうことは俺もわかっていた。
一週間、それだけ待ってようやくやってきた少女。
そんな少女が次に来るとしても、流石に翌日である今日は来ない。
そんなこと一週間張り付いていた俺に分からないはずがなかった。
だが、それでももしかしたらとそう考えた瞬間俺は何とか仕事に一区切りをつけて草原に向かって走り出していた。
我ながら思う、これは女々し過ぎないかと。
確かにあの少女は初めて俺が恋をした、そんな特別な少女だ。
本当に容姿は綺麗で、まさしく天使という言葉が当てはまる性格。
自分が夢中になってしまうのも仕方がないことではないかとは思う。
だが、それでも会えるかもしれないそう思ったそれだけでこんな場所まで来てしまうなんて相当だ。
正直、恋する乙女だと言った方が良いくらいなのではないかと自分で自分を嘲ってみせる。
だがそれでも走る俺の足が止まることはなくて……
「……!一緒に浴びよ……て!」
「っ!」
そして少女の声らしきものが聞こえたのはその時だった。
別れてから一日中想像していた、記憶通りの声。
それに俺の顔に自然に笑みが浮かび、もう疲れ切っているはずなのにさらに走る速度が上がる。
後どれくらいで少女の元につけるのか、正確な時間は分からない。
けれどももう少しで会えることだけは確かで……
「フェリル一緒に入ろう……えっ?」
「えっ?」
そして開ける場所に出て来た時だった。
肌色の何かが、目に入って来てそして俺は思わず間抜けな声を漏らす。
だが、少したちようやく頭が目の前に広がる光景が何かを理解する。
ーーー つまり、目の前にいるのは全裸で川に足だけをつけ、顔を隠して逃げようとするフェリルの羽を引っ張る少女の姿だと。
少女の裸体、それは本当に綺麗で白く滑らかな身体で、俺は思わず唾を飲み込む。
「ーーーっ!」
だが、その俺の唾を飲み込む僅かな行動に少女との間に出来ていた均衡が破れ、少女の顔が急激に真っ赤に染まり始める。
そして少女に会えることを期待して歪められていた俺の顔は笑みのまま固まる。
「きゃぁぁあ!」
「あぁぁぁぁあ!」
そして次の瞬間、そんな可愛らしい悲鳴とともに俺の足に灼熱の痛みが走ることとなった………
薄幸令嬢は王子の溺愛に気づかない 陰茸 @read-book-563
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