第14話 フェリル張り切る

青年がいない、そのことに私は少しの間呆然としていた……


「いいんですか!」


「おぅ!べっぴんさんさんにはサービスしねぇと男が下がるってもんだ!」


という店主の言葉とともに渡されたいつもより多いおまけに直ぐに機嫌を直した。

そういえば確かに今日は青年にはあえないが、だがそれでもお弁当を作ってきていたのだ!

それも三人分!じゅるり。


「お、おい?嬢ちゃん唾が……」


「はっ!」


店主の声に我を取り戻した私は急いで口を拭って何事もなかったかのように装う。


「……いやぁ、嬢ちゃんはかわらねぇな」


「えっ?」


その途中、店主が何事かを呆れたように呟いて私は聞き返す。


「い、いや、嬢ちゃんは中身から綺麗だってことだよ!」


「えっ!うそ!そんな、恥ずかしいです!」


すると焦ったように私はそう返されて、その嬉しい言葉に思わず私は頬を赤らめて腰をくねくねと照れる。

そんな綺麗だなんて!お世辞でもそんな言葉は嬉しい!ぐふふ。


「………うん。楽しそうで何よりだよ」


「クルル……」


その時呟かれた酷く呆れたような店主とフェリルの言葉、それが私の耳に入ることはなかった………







◇◆◇







「ふんふーん!」


村での買い物を無事に終えた私は上機嫌にスキップをしながら草原の中を歩いていた。

もし、青年がいたら色々と話す予定だったのだがいないのなら今日は普通にフェリルと過ごそうとそう考える。

エイシアからぬす………借りた服に関しては、何だか趣味に合わないとか言っていて着る雰囲気は無さそうなのでこっそりと草原に隠しておこう。

とりあえずエイシアにこの言葉を送る。ナイス節穴。

それに今日のご飯は本当に豪華なので楽しみだ!

恐らく魔獣狩りをして酷くお腹が空いた時に食べればそれはそれは美味しいだろう!

何せいつもよりおまけしてもらった干し肉は本当に美味しいと村の中で有名な干し肉で、さらに今日作ってきたお弁当も凄く手の込んだものなのだから!

べ、別に他意などなかったが、それでも美味しいお弁当を作りたい気分だったのだ。

お弁当の中には村の名産である、黄色く瑞々しい果実オレージや、上等な部分のお肉をパリパリになったパン粉のかけらをつけて揚げたサックリ揚げ、などなど。


「うふふっ」


私はその気合を作った料理の数々を思い浮かべて笑いを浮かべる。

考えるだけで口の中に唾が溢れてきて……


「あれ?」


だが、何故か私は素直にその幸福を思い浮かべることができなくて戸惑いの声を漏らす。

サックリ揚げとか私は大好きで、なのに何故か今は素直に喜べなくて……


「あぁ、そっか」


その理由が分からず少しの間考えて、直ぐにその理由に気づいた。


「あの人がいないからか……」


そう呟いた私の頭に浮かぶのは青年の姿だった。

なんだかんだ言っていた癖に私は想像以上に青年に会えることを期待していたらしい。


「……バカ」


そう、居ないと分かって思わずそう漏らしてしまうくらいには。

手に持った魔獣用の棒、それを地面に突き立てて私は草原をほじくりかえす。

こんなにも私が期待しているのに、向こうは私と会うことなんて気にして居なんじゃないかなんて思えてしまって、頰を膨らませる。


「………本当に、膝枕してあげたのに」


「クルルッ!」


そしてそう思わず私が漏らしてしまった時だった。


「フェリル?」


私の為に魔獣を探しに出てくれていたフェリルはいつの間にか戻ってきていた。

そしてフェリルまるで私を元気付けるかのように私をペチペチと羽で叩いていて、その姿に思わず私の口に笑みが浮かぶ。


「ふふ、そうだよね。折角一週間に一度しか会えないフェリルに今日も会えたのに、文句ばっかり言っていたらバチが当たるもんね」


「クルッ!」


そして私のその言葉にフェリルはさらにそうだと言わんばかりに大きく羽を開いて胸を張るので私は思わず声を上げて笑ってしまう。

本当に私は何をむくれていたのだろうか。

確かに青年がいないことは想像以上にしょんぼりしたけども、だからってそのせいで折角フェリルと過ごせる時間を失うなんてそんなの馬鹿のすることだ!

確かに今日は奇跡的に隣村に行くことはできたが、そんなことがまた続くなんてことあり得ないのだから。


「よし!やりますか!」


だから私はフェリルに向かってそう笑って見せて腕まくりして立ち上がる。

張り切っているフェリルの姿に今から精一杯楽しもう、そう思いながら立ち上がって、今日のフェリルの捕らえてきた魔獣を確認する為に後ろを振り返って……


「えっ?」


そして私は真後ろで意識を失っている大きな虎の魔獣の姿を見て絶句した。


「クルルッ!」


フェリルがまるで褒めて!みたいに鳴くが私にはフェリルのその言葉に反応する余裕がない。

あれ、おかしくない?

虎の魔獣てなんか災害級の魔獣とか言われてなかったけ?

なんか気の所為か、爪の一振りで私死んじゃいそうなですけども……


「クルッ!」


「えっ?ちょと待って!」


だがそんな私の気持ちなど気にすることなく、得意げなフェリルは何故か虎の魔獣をげしげしと蹴り始める。

いや、待ってそんなことしたら起きちゃ……


「Gaaa!」


「イヤァァア!」


そして次の瞬間上体を起こした虎の魔獣に私の悲鳴が響き渡った……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る