第13話 想定外

「ぅぅ……エイシアめ……」


そしてその日、私は明らかにまだ貯蔵が切れているわけがないのに再度隣村へと行くことになった。

だけど問題を先延ばしにしていたせいで私は未だ青年をどうすれば良いかを判断できていなくて………


「エイシアの、ばか!」


そして私は隣村へ行くことが決まってから超特急で準備を始めることとなった……


「別にあ、あいつを意識しているわけでは……」


と、1人で呟きながらエイシアのクローゼットの中から、前売ろうとした時に一番高いことを知った衣服を取り出して、鏡の前で着てみたり……


「きょ、今日ぐらいは美味しいもの食べたい気がした……」


と、言い訳のようなことを呟きながら隣村の特産品を勝手に取り出して三人分のお弁当を作ったり……

そんなことをしているうちに出掛けなければならない時間はやってきた。


「………うん、隣村での買い物を終えてから直ぐに木陰に行って着替えて。それから……」


そして密かに計画を立てている私は気づいていなかった。

自分が一番大切な準備を忘れているということに。


つまり、青年への対応をどうするかを忘れ去ってしまっているということに……


「か、可愛いかな?」


そう、鏡で頬を染める私にそのことを突っ込むものはいなかった……






◇◆◇






「………どうしよう」


それから村に向かうため、草原へとうきうきと歩き出した私。

だが、草原へとついて私は気づく。

そう、つまり今の私はまるで恋人に会いに行く女の子のようではないかと。


「べ、別に私はそんなこと考えていないけども、そ、そう見えるかもしれないかな?」


何気無い顔を装いながらスキップするという私は地味に高度な技で内心を周りに赤裸々に明かしながら進んで行く。


「く、クルル……」


フェリルが何か悪いものでも食べたのかと、地味に心配そうに見つめてきていることにさえ気づかずに。


「そうだ、もしかしたら行きに見つかる可能性もあるし……」


そう私はこっそりと木陰に進んで服を着替える。

ドレスは節穴である継母達が買ったにしては中々可愛いデザインで、思わず私は笑みを浮かべてしまう。


「ぐふふ」


これの値段を聞いた時は凄かった……

あれだけの値段があればひと財産に、なんて……


「クルゥ………」


「はっ!」


自分の世界に入り込んでいた私はフェリルの泣きそうな声で冷静さを取り戻す。

違う違う。今の私はそんなことを考えるためにこのドレスを着ているんではないのだ。

そう、全ては胸を押し付けてきたなんて言われてから意識してしまっている青年の前では少しぐらいおめかししていた方がと思っただけ……


「い、いや、違いますし!」


「クルッ!?」


突然叫び始めた私に、今度こそフェリルが泣きながら逃げ出す。

だが私はそのフェリルを意識する余裕など一切なかった。


「べ、べ、べ、べ、別にあの人のことなんてどうでも良いし!た、確かに少しぐらい顔はよかっ……て私何を!」


今までスキップをしていたのを、今度はロボットダンスのようにカクカクした動きに変えて私は胸中の戸惑いを示す。


「でも、向こうが綺麗だと思ってくれるなら……」


しかし次の瞬間にはその言葉によって顔に隠し切れない満面の笑みが浮いて再度私はスキップを始める。


「あれ?普通に気にしていない?」


そしてその途中で私は昨夜ほど青年を意識していないことに気づいた。

今までは本当に青年に会うことがすごく気恥ずかしくて、出来れば避けたいと思っていたはずなのだ。

だけど今は普通に気恥ずかしもあって、ちゃんと意識してしまっているけども、それでも会いたくないなんて全く思っていなくて。


「そっか、やっぱり私あの人を友達だと思っているんだ……」


その理由が分かって私は笑う。

本当に単純な話だ。

私はあの時青年を抱きしめた時に感じた親近感、それを今でも私は忘れていないのだ。

だからいざ会うとなれば私の心はこんなにも踊るんだ。


「ふふ、楽しみ」


そして気づけば自然と私はそう呟いていた。

今まで何故あんなにも悩んでいだはずなのに、今はこんなにも簡単に決着がついていて。

何故昨日あんなにも悩むことになっていたのか分からず私は思わず笑ってしまう。


「ま、まぁ、私がただうぶだっただけなんて言われたら本当にそれだけの話だけど……」


その言葉に傷つきながらも、それでも私はいて行く。

いつ会えるのか、そう少し胸を高鳴らせながら歩いて行って……


「おや、姫さん今日はえらいべっぴんさんになってるな……」


そして普通に隣村についた。

私はにこやかに笑いかけてくれる門番のお爺さんの言葉に反応せず、村の中を覗き込む。

だが、当たり前の話だがそこには青年の姿は無くて……


「いないの!?」


そして次の瞬間、私の心の底からのツッコミが虚しく空に吸い込まれて行った……

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