第12話 計算違い
「あっ、」
たっぷりとご飯を食べ気持ちよくなった私が、青年のことを思いだしたのは数時間後のことだった・・・・
その時すでに私はもう仕事を終えて後は寝るだけという時で、だからこそんなときになって面倒なことを思い出してしまったことが面倒で思わず私は顔を歪める。
「ぅぅぅ・・・」
いつもは私に許されているのは身体を乾いたぬのでふくことだけ。
だからこそ久しぶりにお風呂に入れた今日は酷く心地よい気分で……
「ぅぅぅ………」
そしておそらく今から青年のことというややこしいことを考え始めれば私の今の心地よさは消えてしまうだろう。
そう、折角お風呂に入ることが出来たのにも関わらずだ!
隣にあるベッド、それは酷くぼろぼろなもの。
シーツは洗濯してもごわごわで、正直寝心地は決して良いものではない。
なのに今に関しては何故か酷く気持ち良さそうに見えて……
「明日でいっか!」
………あっさりと私は思考を放棄した。
確かにいつかはまた隣村に買い物に行かされることがあるだろうが、それは短くても一週間以上後の話だ。
だったらそれまでに決めれば大丈夫!
「すぅ………」
そして安心しきってベッドに上がって眠りに入った私は知らない。
この時の自分の判断を後で後悔することになる未来を……
ベッドからは非常に安らかな私の寝息が漏れ出していた……
◇◆◇
「うふふ。まぁ、そうですの」
翌日、その日は貴族の令息令嬢によるお茶会が開かれていた。
そしてその日私は何時もよりもさらにぼろぼろな服を身に包んで仕事をしていた。
私に話す時とは全く違う、猫を被ったエイシアの声。
それに思わず私はへんな顔をしてしまいそうになる。
相変わらずの豹変具合だ。
「えぇ。他にもこんなことが……」
そしてそのエイシアの言動が実は猫を被ったものだとしらず、今回招かれた令息は楽しそうに口を開く。
それはエイシアの豹変具合を除けば酷く麗しく見える光景で、だから私は酷くエイシアが羨ましかった。
数年前まで。
だが、実はこの数年からそんなことを感じることはなくなっていた。
それは決して私が全くお茶会に魅力を感じなくなったからではない。
今だってお茶会は私の夢だ!
そ、その、あーんとかしてもらったり……って違う!
ま、まぁ、何というかお茶会が夢であることは変わらない。
「み、見られているよね……」
だが今の私はそれ以上に気がかりなことが出来ていたのだ。
それは主に令息から感じる熱のこもった視線。
時々令嬢からもその視線を向けられる上、令息たちはエイシアに向かって自慢話を始めるのだが、私は何故か自分にその話をされるような錯覚に陥るのだ。
もちろんそれは気のせいだと分かっているのだが、何故かお茶会の度にエイシアの機嫌は悪くなり、そして次のお茶会ごとに私の服はどんどん粗末になって行く。
というか、ぼろぼろな服にしてもやはり視線は感じるので、ぼろぼろ過ぎる服で目立っている気がする。
エイシアにはそのことに早く気づいて欲しい。
………というか、気づかなかったらいつか私の格好裸になりそうなんですけど!
そして私はそう内心ガタガタと震えながら人目があるため何時もよりも丁寧に掃除をしてその場を去った。
その時には何もなかった。
だがその数時間後、事件が起こった。
◇◆◇
それは私が間食の片付けをしに部屋に行った時だった。
「………ない!何であいつばかり見ているのよ!」
「また、………へと令息の婚姻が申し込まれてましたよ。もう、お茶会の時にあれを入れるのは……」
「っ!お母様もあいつよりも私の方が劣っていると言いたいわけ!」
何故かは知らない。
だが何時もなら和やかな間食の場で継母とエイシアが怒鳴りあっていた。
そして何故かは分からない、が悪寒を感じた私はその直感に従い行動を起こした。
取り敢えず私は直ぐフライパンを取ってきて全力で叩いたのだ。
「っ!何事!」
その途端、部屋の中にいた継母とエイシアが慌てているのを確かめて私は大声で叫んだ。
「あら、ハーリス!またフライパンを落としましたね!」
「えっ?」
ハーリス、それは継母の愛人の酷く麗しい少年。
そして直ぐそばで母の愛人であることを利用して新人の下女の女の子を虐めていたハーリスは私の言葉に呆然と言葉をもらす。
それから必死に言い訳しようとするが、私の味方である使用人たちがハーリスがフライパンを落としていたと証言するため、誰もその言い訳を信じない。
ハーリス、君の尊い犠牲は忘れない。
怒られないしいいよね。
というか、仕事しろ。
そしたら冤罪被せるのやめるから。
「またあいつ!お母様!あいつを早くクビにしてくださいと言ったでしょう!」
「えっ、いや、そのぉ……」
そしてその私の言葉で何を言い合っていたのかは知らないが、これで私に飛び火することはあるまい。
そう私は確信して悠々と部屋の中に入って間食の食器を片付け始める。
そして普段ならばそのまま何事もなく仕事を終えられるはずだった。
「お姉様!」
「えっ、はい?」
だが、その時は違った。
私を呼び止めたエイシア、その目には隠しきれない私への怒りが宿っていて今更ながら私はもう少しした後にはいれば良かったのでは無いかと後悔する。
だが、そんな考えは後の祭りでしかなくて……
「隣村から買っていた物の備品が切れたの!買ってきて下される?」
「っ!」
………そして何時もなら嬉しいはずなのに、今は最悪の言葉に私は絶句することとなった。
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