第5話

ある日、楓が学校の帰りに神社に寄ると、いつものように白衣姿の響が社務所にいたが、その手には文庫本が開かれていた。

「響さん、それ…」

「おかえり。実はね、今日は俺の誕生日なんだよ。それで亜紀ちゃんがブックカバーくれたんだ。俺の誕生日と好きな色、ちょっと話しただけなのに覚えててくれたみたいでさ。嬉しいよね、覚えててもらえるのって。」

「そうですか…おめでとうございます。」

 鞄の中で居心地悪そうにしているであろうブルーのブックカバーを思うと、切なく目頭は熱くなったが、悟られないようにと鞄を持ち直した。

 亜紀と自分の違いはこういう所にも出るのだ。楓はブックカバーを選ぶとき、響に似合うものを多くの中から時間をかけて選んだ。だが亜紀は違った。響の好きな色を把握した上で、その色の中から選んだのだ。

 持ち歩くものだけに、自分の好きな色の方が良いに決まっている。そのことを楓は失念していた。

 やはり、亜紀には敵わない。


 幼い頃、楓は亜紀に聞いたことがあった。

「亜紀ちゃんは、神さまなの?」

「違うで?なんでそう思うん?」

「亜紀ちゃんが笑ってるといつも晴れてるし、泣いてるときは雨が降ってるよね。それに、みんな亜紀ちゃんのことが好きだし。だから、神さまなのかなって。」

「えー?変な楓ちゃん。」

「それに、亜紀ちゃんのお願い事は、なんでも叶う気がする。」

「そうなんー?」

「うん。私とは違う。」

「楓ちゃんのお願い事は叶わんの?」

「…なんにも叶わない。」

「ふぅん?」


 思えば、その頃から自分は卑屈な子供だったのだなと、楓は自嘲した。

 だが、今でも少しだけ同じ感覚は持っている。さすがに亜紀が神さまだとは思ってはいないが、亜紀の願いは聞き届けられる気がする。神様そのものではなくとも、神様に好かれているのだろうと思う。

 


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