「黒い船」③



 飯島と恩田が険しい顔をしている。

 

 「彼らは、軍事的な訓練を受けていて、武器も入手することが可能だということですか? 」


 「話が全て真実であれば、そういうことでしょう。」


 恩田が信じられないという顔をする。


 「公安と調査庁の情報だと、国内外のロシアも北朝鮮にも目立った動きがないと言っている。武器の密輸もガセだった。奴らの車両をNシステムで調べても移動した形跡はない。状況から判断すれば奴らは嘘を言っているとしか思えない。」


 「それがどうもアメリカからの情報によると、FSBが絡んでいるというとのことです。大使館内にきな臭い動きが見られるそうです。」


 「日本国内のことだぞ。我々と警察をかいくぐれる組織があるとでもいうのか?飯島さん、ロシアはどう言っている? 」


 「ロシアはもちろん否定しています。とにかく恩田さん、宮内秀樹という男をもう一度徹底的に洗い直してもらえませんか? とにかくこの情報が真実であれば、内閣緊急参集チームを招集するべき重大な案件です。」


 「わかった。とにかく公安とうちでできる案件は全て洗い直そう。そちらも各国とうまくやってくれ。」


 そういうと恩田は電話をかけながら慌ただしく部屋を飛び出していった。


 飯島は腕を組みながら考え事をしている。


 「飯島さん、NWOの可能性はないですか? 」


 自分もそう思っていたというように飯島は目を閉じた。しばらく経ってから重く口を開いた。


 「及川くんを呼んできてください。」


 会議室に及川が入ると、佐藤が会議室の扉を閉めた。


 「いいですか、これから話す内容は絶対に他には漏らしてはいけません。3人だけでやります。」


 「飯島さん、アメリカの今の支部長はマイケル・リチャードソンですよね。彼はどうですか? または日本支部自体。」


 「マイケルはできる男ですが、いい意味で俗物です。そして心からCIAを愛しています。また、NWOとCIAを結びつける証拠もありません。それに残念ながら、我々の諜報能力では彼らを選別することができません。及川さん。GCHQに友達がいましたよね。内密に協力をお願いできませんか。」


 「わかりました。奴らとその周辺を丸裸にしてやりましょう。」


 「私はNSAに協力要請と、宮司が何か掴んでないか聞きに行くこととしましょう。」


 「僕は佐々木麻里に近づきます。彼女は落としやすい。」


 「いいですか、くれぐれも我々がNWOの情報を掴んでいることだけはバレてはいけません。もし関わりがあるのであればオロチの尻尾くらいは見ることができるかもしれません。そしてそれは高杉くんのおかげです。できればもっと近づきたい。ただくれぐれも死なないでくださいね。」


 愛情に満ちた目で飯島は二人を見た。


 「僕は現場に出ないので死にようがないですけどね。」


 及川がくだけたように言う。それはフラグって言うんだろ。と佐藤が返した。

 高杉が命をかけて得たもの。二人もその重みは十分理解していた。


 待ち合わせ場所の池袋サンシャイン通りのカフェに佐々木麻里はもういた。挨拶をするとこれからテロを起こす人間とは思えないほど、屈託のない笑顔で答えた。


 「この前はありがとうございました。私もともとジャーナリスト志望だったから、山本さんの話すごく楽しかった。」


 「もう少しで記事ができるよ。楽しみにしててくれ。ところで場所を変えないか? あまり話を人に聞かれたくない。」


 麻里は察した様子で、目配せをした。

 個室の居酒屋。周りは学生が多く、騒がしいので好都合だ。


 「この前の話、やってみようかと思うんだ。ただ、その前にいろいろ聞きたいことがあってね。」


 「私でいいの、なんだったら宮内さんも呼んだ方が良かった? 」


 「君がいいんだよ。」


 「なんで? 私バカっぽいから? 」


 「かわいいからに決まっているだろ。」


 「もう、山本さんうまいんだから。」


  まんざらでもない表情だ。


 「君も訓練には参加したの? 」


 「私は参加しないよ〜。男の子たちは丸々一ヶ月間を数回、みっちり訓練されたって嘆いていたよ。」


 違和感。


 「移動はどうしたの? 君たちは少なくとも公安にマークされていると思うけど。」


 「普通に車で行ってたよ〜。宮内さんが大丈夫だって。」


 警察内部に協力者がいる。


 「ちょっとごめん、トイレ行ってくる。」


 「早く戻ってきてね。」


 急いで店の外に出て、及川に電話をかける。


 「及川、警察内部に協力者がいる。そっちの情報は? 」


 「NSAの監視衛星がヒットしたよ。彼らは8回、1ヶ月長野の山奥に行っている。GCHQには借りを作って終わり。お気に入りのフィギュアが1人代償だよ。」


 キャッチフォン。恩田からだ。


 「佐藤、大変だ。宮内秀樹は別人だ。データベース上と彼の卒業アルバムの写真が全くの別人だった。」


 足で稼いだか。これは馬鹿にできない。我々はデータを盲信するあまり重大なミスを犯すことを忘れてはならない。


 「恩田さん、おそらく警察内部に協力者がいます。あぶりだせますか? Nシステムも何者かによって改ざんされています。彼らは長野の山奥でおそらく軍事訓練を8回行っています。及川が場所を伝えます。すぐに杉並と長野の拠点を押さえてください。」


 席に戻ると、佐々木麻里が帰る支度をしていた。


 「宮内さんから、連絡があって山本さんを連れてきてほしいって。」


 嫌な予感がした。


 「もう突入するみたいなの。」


 「どこの原発に? 」


 「島根だって〜。」


 恩田からの着信。


 「編集部からだ。出ないと。」


 「佐藤。だめだアジトはもぬけの殻だ。今長野には県警を向かわせている。」


 「すみません。今から島根に取材に行かないと行けません。もう取材対象は到着しているみたいなんです。はい、この前の件です。ボスに僕が一番乗りで取材したいって伝えてもらえませんか? 」


 「報道管制を引けってことだな。すぐに島根県警に連絡する。」


 「他のマスコミも待機していただけると助かります。」


 佐藤は電話を切った。


 「山本さん、早く。飛行機に乗り遅れちゃうよ。他のマスコミも後から来るの〜」


 「ああ、派手にぶちまけないとな。でもスクープは俺のものだ。でも大丈夫だよな? 原発を通じて声明を出すだけだよな? 」


 なんでそんなことを聞くのかという顔で、宮内さんだよ。当たり前じゃん。と麻里が答えた。


 宮内の本当の目的を探らなければ。


 サイロの会議室。飯島、恩田、及川がお互いの情報を確認していた。


 「長野には軍事訓練をした後が残っていたそうだ。Nシステムにもデータ改ざんをした後が残っていた。今現在及川と公安で警察内部を追っている。原発には今、県警と特殊部隊が向かっている。ただ、相手の目的、装備がわからない以上、突入させるべきか、上が判断しかねている。いや、正確には若者たちが武装をして、原発を占拠しようとしていることを信じられないようだ。原発も今は正常に稼動しているとのことだ。宮内については何かわかったのか? 」


 飯島が苦々しい顔をする。

 

 「全く何もわからないということが、わかりました。とにかく佐藤くんの情報を待つしかないですね。坂本さんとの連絡は? 」


 「それが、取れない。」


 恩田の携帯が鳴る。


 「このタイミングで竹島のデモが松江で起こっただと? どの団体かすぐ調べてくれ。公安は何をやってるんだ。」


 恩田が電話先の相手に怒鳴りつけている。サイロの職員が、慌ただしく入ってきた。


 「飯島さん。官房長官が至急お会いしたいそうです。」


 「わかりました。恩田さんこれは明らかな撹乱です。そして我々が思っている以上に敵は大きい。」


 恩田が資料をテーブルに荒々しく投げつけた。


 「とにかく佐藤くんからの情報を待ちましょう。現状では我が国は穏便にこの件を処理したいとのことですので。」

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