第五話 現実への帰還

 気がつくと味気のない電気の明かりに照らされていた。

 机の上に残された弁当箱。点けっぱなしの電気。独身部屋特有の静けさ。

「あれ? 俺は……」

 いつの間にか寝てしまっていたのだろうか。

「――ッ!?」

 頭の中にさっきまでの出来事が思い出される。

 森の匂いと川のせせらぎ、獣の息遣いと死の恐怖。

 今も耳の奥で鳴り続ける血の音。

 心臓が張り裂けそうなほど脈打っている。全身から汗が吹き出す。

 それは現実と認めるに十分な感覚だった。

 恐る恐る足裏を撫でると苔や土で汚れていた。

「夢……じゃない」

 一気に血の気が引いた。あと少しで自分は死んでいたかもしれない。

「でもどうして」

 この世界に戻れたのだろうか。

 特におかしなことはしていない。挙げるとすれば最後にブレスレットに願ったことくらいか。

 視線を腕に向ける。

 そこには行く前と変わらない鉱物達の姿がある。

「まさか、な」

 そう呟くと八皇は少しだけ笑った。

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