第二話 旅立つ者
鬱蒼と茂る森の中は意外と明るい。
地面には点々と光のスポットが落ち、その柔らかな苔の絨毯を彩る。
少し開けた場所には人の背丈ほどもある美しい水晶が生え、内包する光が周りを柔らかに照らす。
ここは『メリルの森』の中でも数少ない安全な場所。一部の人間からは『神の庭』と呼ばれている。
「到着っと」
そんな森の最深部に現れたのは、ローブを纏う不審者だった。
苔の絨毯の上にふわりと着地すると周りを確認する。一応警戒をしているようだ。
この最深部において一番危険なのは森をうろつく大型魔獣でも森を育む樹の大精霊でもない。
その一番危険な生物であるところの彼は一つ頷くと村に向かって歩き始める。
ちなみに元、森の主であった大型魔獣は今や八皇のペットとなり森の巡回任務に就いている。
そのおかげか昔より大分過ごしやすくなったと村人たちは喜んでいた。
「さ、皆に挨拶していこうかな」
八皇はフードを取ると彼らに連絡をとった。
初めてこの世界に降り立った場所を後にしながら八雷は思う。
『あの日から人生は百八十度変わった』と。
自分の世界とは明らかに異なる世界。
神や精霊が存在する世界。
彼女に出逢ったあの日。
ここでなら変われるかもしれない。
走り出す心に手綱をつけて。
今までは本当に欲しいものほど掌をこぼれ落ちていくだけだった。
異世界『ラピス』では違う。
こんな自分でも慕っている人達がいる。
こんな自分でも慕ってくれる人達がいる。
『だからこそ皆を守りたい』と。
強く心に刻みつけて、今日も八皇は異世界へと旅立つ。
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