ある晴れた日に 4
次の日は普通に学校に行く日だった。町子と輝は、大所帯になった通学メンバー全員で登校した。輝と町子、メリッサとメルヴィン、ナタリー、友子と朝美、そして、実花だ。
「佳樹さんと美沙さんは、今朝、空港を発つそうです」
昨日のパーティーのために日本から駆けつけてきてくれた杏のシリン・美沙と栗のシリン・佳樹。二人はもともといい仲で、月の箱舟の戦闘を通してもっと仲良くなっていた。パーティーの際にもずっと二人でいたくらいだ。
「佳樹さんと美沙さん、ああいうふうになれたらなあ」
メリッサがため息をつく。すると、隣で何故か赤くなっているメルヴィンが輝を小突いた。
「町子とは最近どうなんだよ? 昨日はずっと離れ離れだったじゃないか」
「どうって、大して変わらないけど。昨日は訪問者が多くて、町子といる以前に、おじさんやシリウスさんに追い払ってもらうだけでも大変だったんだから」
「訪問者って?」
「どこから嗅ぎつけてきたか分からないけど、新聞記者とかジャーナリストとか」
それを聞いて、女子が色めきだった。
「すごい輝! もう有名人じゃん!」
朝美がそう言って輝の背を叩く。せき込んだ輝の背を、今度は友子が押す。
「今日の新聞に載っちゃってたりして!」
すると、どこから持ってきたのか、メリッサが新聞を取り出して、その記事のうちの一つを指さした。
「あんまり大きくはないけど、載っていますよ。写真もほら。誰もが期待した、アース・フェマルコート氏の後任にって書いてありますね」
「後任、か。相応しい表現なのかしらね」
ナタリーが、新聞を受け取って読む。
「それにしても、輝さん、まさかこんな形で進路が決まるなんて、思ってもみませんでしたね」
実花がニコニコして言うので、輝もまたニコニコして返した。
「人生分からないもんだね」
そうこうしているうちに皆は学校につき、それぞれの教室や席に散っていった。皆、一刻でもいいので平和なひと時を過ごせることに感謝をして、一日を過ごした。
ミシェル先生の授業は相変わらず難しく厳しいものだった。しかしそれも慣れてくれば良いもので、月の箱舟の一件を思えば楽しいものだった。
実花は、内気な自分を変えるために、スポーツ系のクラブに入ることを決めた。まだどのスポーツにするかは決めていないが、そのうち決まるだろう。
それぞれが、それぞれの活動を終えて学校から帰り、屋敷のドアを開けると、相変わらず天使と悪魔が平和なお茶会を開いていた。すでにその場所は彼らのものとなり、彼らがお茶会を開かない日のほうが珍しかった。
その天使と悪魔たちに混じって、ミシェル先生の出した宿題を皆でやるのも恒例になっていた。そうしていると、いつもロンドンから仕事を終えて帰ってくるなつと辰紀に会う。二人とも、この英国にもすっかり慣れて、英語もずいぶん堪能になってきた。今日も、なつと辰紀を待つという瞳と一緒に勉強をしていると、屋敷のドアを開けて二人が帰ってきた。
「なっちゃん、たっちゃん、おかえりなさい」
瞳がにこりと笑って二人を迎えると、なつも辰紀も照れながらお茶会の席に座った。
「ロンドン駅にあるハンバーガーショップで、買い物をしてきたんだ」
辰紀がそう言って紙袋をいくつか取り出した。なつもいくつか持っていた。おそらく、屋敷にいる人数分のハンバーガーを買ってきたのだろう。
「好みが分からなかったから、全ての種類をいくつか買ってきました」
なつが、ハンバーガーを取り出すと、厨房にいたイーグニスと、マルコとルフィナがやってきて、その香りを嗅いだ。
「まあまあだな。安い食材を使っているとは思えないし、だからといってこのパンは、マルコのものよりずっと粗末だ」
ハンバーガーを一つ、手に取って、イーグニスが値踏みをする。なんだか楽しそうだ。
「これ、今日の夕食に出してみましょう。ね、そうすればマルコの休みも増えるわ」
ルフィナがマルコにそう提案すると、マルコも笑ってそれに応じた。
「今夜休みがもらえたら、ルフィナとどこかに外食に行きたいね」
すると、ルフィナのそばにいたティーナが、右手を上にあげて飛び上がった。
「あたし、フレンチがいい!」
「そんな高いのは無理だよ」
マルコが困った顔をしたので、そこにいた全員が笑ってしまった。マルコは自分の顔に何かが付いているのかと訝しんだが、そうではなかった。
「フレンチ、たまには良いんじゃなくって?」
クローディアは、まだくすくすと笑いながらマルコを見る。
「行ってきなさいな」
瞳も、嬉しそうにしている。唯一笑わずに微笑んでいたのは、瞳だけだった。
マルコは、そんな皆に背を押されて、ルフィナの手を取った。そして、自分たちが持っている一番いい服に着替えるために、隣の屋敷に走っていった。
マルコが行った後、厨房からはなぜかアントニオが出てきて、待ってくれと叫んでいたが、後ろから出てきたバルトロの手に引っ張られて厨房に戻っていった。
「なんだよじいさん、俺だってフレンチの一つや二つ! あの二人、テーブルマナーも知らないぜ! そんなんが二人きりなんてアリかよ!」
アントニオが抗議すると、バルトロはこう言った。
「テーブルマナーなんぞ関係ない。むしろ知らんほうが二人の距離も縮まるってもんよ」
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