理想と現実 9

 ヴァルトルートの案内で、次の飛空要塞、ラヴロフの要塞への突入が決まった。アースはすべての人間のもとへ行ってその様子を見つつ、励ましていった。輝は自分の武器の手入れに余念がなかった。

 佳樹は敵に放り投げるいがぐりに爆弾を仕込んでいたし、美沙は石礫を入れる革袋を強化していた。実花は何も得物がなかったが、皆のフォローをするべく、足だけは遅くならないようにと船内中を歩いていた。瞳は自分の薙刀をメルヴィンに預けてスクワットをしていた。なつは、イメージトレーニングをして、実際に海水を持ち上げてそれを蒸発させる特訓をしていた。辰紀はそんな妻の様子を見て戦慄していた。

 町子は自分の矛を磨いて、輝が通りかかると笑いかけていた。輝と町子は何かを話し合っていたが、誰も気に留める者はいなかった。ソラートは戦いに使う拳銃をいくつか手入れしていた。三つくらいは一度に持てるし、弾丸も持てるだけは持った。その確認に余念はなかった。ドロシーはソラートにくっついていた。ずっと一緒にいたし、アメリカ人のよしみもあったのだろう。クローディアとアイリーンはナイフを磨いていた。刃こぼれをしていないので、メルヴィンに預ける必要がなかったのだ。フォーラは甲板で体術の確認をしていたし、いざというときの救命具の用意にも参加していた。ミシェル先生は集中力を上げるために禅を組んでいた。天使が禅を組むのはいささか滑稽だったが、色々なものを取り入れて自分を高めるのは悪くないと、彼女は言っていた。セインはアーサーとともに武器を磨いていた。そばにはアイラもいて、彼女は投げナイフの数を確認していた。イーグニスは槍の名手だ。ずいぶんと長い槍も使いこなすことができる。ナギは、戦闘力までは失っていなかったので、フォーラに付き合って体術の鍛錬をしていた。モリモトとエルは、メティスと三人で銃器の取り扱いをおさらいしていた。また、エルはメティスと連携して、敵対する相手の技の一切を封じることができた。その確認もしていた。ナリアはセベルとともに、物質組成の関与による炎や水、雷や風を起こす技を確認していた。海の水を淡水に戻す役割も担っていたので、彼女のその能力はありがたいものだった。シリウスは、ネイスとともに甲板に出て、銃器の手入れと弾丸の確認をした。ティーナを連れて行くのはいつもと変わらない。ルフィナは対峙した相手の戦闘意欲を削いでいくため、重宝されていた。誰の所に行っても活躍できるように、体力を温存していた。クチャナは、恋人であるワマンとともに打ち合わせをしていた。クエナを確実に守れるように、他の非戦闘員を確実に守れるように。ラウラと浩然はすでに戦闘能力を失っていたので、甲板でゆっくりとしていた。ローズは薔薇を強化して爆発力と影縫いのちからをより強固なものにしていた。カリムと朝美は二人で弓矢の手入れをしながら何かを話し合っていた。二人はかなり仲良くなっていた。カリーヌとテンがその様子を見ては声援を送っていた。スタンリーは、マルスに見てもらいながら、ナイフ術の特訓をしていた。マルスはそこそこ強いが、ナギやアースほどではない。今では輝にさえ抜かれているだろう。

 そして、芳江や瑞希、アニラを中心とした非戦闘員は、戦ってくる人間たちを支えるために様々な準備をしていた。メリッサやナタリー、劉姉弟にマルコやバルトロたち。すべての人間がラヴロフの要塞の攻略に際して準備を進めていた。

 そして、ついにその時が来た。

 十分な燃料の補給を終えた飛空戦艦は、ゆっくりと海上を離れて上空に向かう。レーダーはちょうど真上に怪しげな物体を映している。あれが、ラヴロフの要塞だろう。

「どうやって入るんだい、船長さん。この間の手はもう使えないよ」

 ナギが、艦橋に上がってきてアントニオに話しかける。アントニオは、次第に近づいてくる要塞を見て、少し考えこんだ。その間にも飛空要塞は近づいてくる。

 ラヴロフの要塞が、かなり近づいてきたところで、アントニオは手をポン、と叩いて晴れ晴れとした表情をした。

「戦闘可能な人たちの中に、空を飛べる人たちがいるはず」

 それを聞いて、ナギはアントニオが何を考えているのか、察した。

「天使の四人と、ナリアか。彼らで陽動をかけるのだな」

 アントニオは、頷いた。

「ここで確認する限りでは、この要塞の周りには強力なバリアが張られています。そのバリアのスイッチを破壊できるのは、実体を持たない天使の人たちだけ。それさえ破ってしまえば、あとはナリアさんに陽動をかけてもらい、要塞の一部に穴をあけてもらいます。天使の人たちとナリアさんはそこから入っていただいて、あとは、この戦艦に備わった砲弾で脆いところを狙います」

「うまくいく保証は?」

 アントニオは、その質問に冷や汗をかいて答えた。

「五分五分です」

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